民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)がこのほど、ホテル予約プラットフォーム「ホテルトゥナイト」の買収方針を明らかにした。どちらの企業も、本拠地は米サンフランシスコ。詳細は未発表だが、両社が非公式の会合を重ねているという話は今年1月頃からあった。関係筋によると、買収額は現金および株式で4億ドル(約440億円)以上という。
エアビーアンドビーは、ブティックホテルや独立系ホテルに特化するという従来のこだわりを維持するのか。それとも取扱いホテルの拡大へと舵を切り、より大きな成長を目指すのか。いずれにしても、非常に興味深い展開になってきた。
※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
ホテルトゥナイトが実施した直近の資金調達は2017年3月で、時価総額は4億6300万ドルだった。同社によると、決算は2016年4月に黒字転換しており、投資企業にはアクセル・パートナーズ(Accel Partners)、バテリー・ベンチャーズ(Battery Ventures)、USベンチャー・パートナーズ、GGVキャピタル、コーチュー・マネジメント(Coatue Management)、ファーストラウンド・キャピタルなどが名を連ねる。
一方、エアビーアンドビーも、2017年3月に行った資金調達が最も新しく、当時の時価総額は310億ドル。その後、11月には「売上高が10億ドルを大幅に超えた」と発表し、株式上場は近いと言われていた。1月には2年連続で利益を確保したともコメントしている。
エアビーの共同創業者兼CEOのブライアン・チェスキー氏は、ホテルトゥナイト買収の理由について、旅行の総合マーケットプレイスを目指す上で、同社は必要不可欠なコンポーネントだからと説明している。
「1年前から旅行の計画をたてる人もいれば、前日に考える人もいる。こうしたすべての旅行者の要望に応えられることが、エンド・トゥ・エンドの旅行プラットフォームを構築する上で非常に重要なのだ。ホテルトゥナイトの優秀なチームと共に、今までにない『直前予約』サービスを実現する。これまでの当日予約や間際予約ではあり得なかったユニークで思い出深い体験、旅を提供する」(チェスキーCEO)。
ホテルトゥナイトの共同創業者兼CEO、サム・シャンク氏は「必要になったタイミングで、希望のホテルを予約できる方法があったらどんなに便利だろうと誰もが感じていた。それが我々の創業につながった。エアビーに加わることで、我々のサービスを世界中に届けられるようになる。2社が手を組めば、ゲストにもっと幅広い選択肢を提供できるし、ブティックホテルや独立系ホテルには、世界各地から送客できる」。
ホテルトゥナイトのアプリやウェブサイトは、買収後も今まで通りのオペレーションを継続する予定。買収手続きの完了は今年6月を見込んでいる。シャンク氏はブティックホテル部門のトップとして指揮をとり、エアビーアンドビーのホーム部門責任者でアマゾン出身のグレッグ・グリーリイ氏直属となる。
進化を続ける2つの旅行系ユニコーン
ホテルトゥナイトが2010年に営業を開始した当時のビジネスモデルは、当日の宿泊先を探している間際予約のゲストに、モバイル・アプリで割引レートを提供するというものだった。
やがて似たようなアプリが世界中で登場し、ブッキングドットコムなど大手OTAまでが、同じような同日ホテル予約サービスに着手するようになる。だが、使い勝手の良さや優れたデザインなどでホテルトゥナイトの競争力は高く、同社を超えるライバルは現れていない。例えばホテルトゥナイトのアプリでは、予約までのタップ数はわずかで済むが、ブッキングドットコム版では、10回以上タップしないと予約が完了しない。
ホテルトゥナイトでは、ロケーション別のレートや、一部の高級ホテル限定ながらチャットを活用したコンシェルジュ・サービスなど、独自の工夫も続々と考案してきた。デスクトップ経由での予約や、間際ではない早期予約にも対応するなど、サービス内容も拡大している。
現在、同社のプラットフォーム上にあるホテルは世界1700都市の2万5000軒ほど。だが予約エンジンでのキュレーションにより、実際に利用者のモバイル端末画面に表示されるホテルは15軒ほどに絞られる。あまりに膨大な数の選択肢を表示すると、逆に分かりにくくなるからだ。
対照的に、エアビーは個人所有の宿泊物件を、出発よりかなり前に予約するというビジネスモデルで知られているが、実は「同日予約が年々、倍増の勢い」(同社)という。
現地発着ツアーやアクティビティを扱う「エアビーアンドビー・エクスペリエンス」、おすすめ物件を集めた「エアビーアンドビー・プラス」など、新しい取り組みにも積極的だ。2008年の創業当初、チェスキーCEOやもう一人の創業者、ジョー・ゲビア氏が宣伝していたような、宿泊といってもエア・マットレスに寝ていた頃とはずいぶん変わった。最も新しい展開としては、交通サービス担当のグローバル責任者を初めて任命している。
2018年2月からは、ブティックホテルの予約取扱いを正式にスタート。さらにサイト・マインダー(SiteMinder)と提携し、独立系ホテルがエアビーに登録する際の負担軽減に取り組んでいる。
スケールとテクノロジーが勝負を左右する
ホテルトゥナイトとエアビーの組み合わせは、多くの点で理に叶っているが、エアビーにしてはめずらしい展開とも言える。
エアビーという企業は、そもそもあまり買収をしない。最近では、今年1月、会議やイベント会場の予約サービスを行う予約サイト「Gaest」を獲得したが、過去の買収案件を振り返ってみても、一番大規模なものが、2017年2月に推定2~3億ドルで得た高級バケーション・レンタルのサイト「ラグジュアリー・リトリート(Luxury Retreats)」ぐらいだ。
しかしホテルトゥナイト獲得は、エアビーの成長加速につながる公算が大きい。エアビーが株式上場を目指していることや、主力事業である短期宿泊レンタルを巡り、世界各地で当局による規制との攻防が続いていることを考えればなおさらだ。
ホテルトゥナイトは、これまでも多くのOTAから買収ターゲットとなってきた。2015年にはブッキングドットコム(当時はプライスライン)が買収を検討中との報道があり、中国系のシートリップが関心を寄せているとの話もあった。
エアビーの元最高財務責任者(CFO)、ローレンス・トスィ氏は買収による拡大路線を目指したが、チェスキーCEOはオーガニックな成長戦略を好み、こうした意見の対立が2018年2月、同CFOの離職につながったという説もある。
エアビーが、ホテルトゥナイトのようなプロダクトの独自開発を目指した時期もあるかもしれない。しかし本家のサイトを傘下に加える方が、迅速かつ完全な形で、取扱いホテルを拡充できるし、間際予約にフォーカスしたプラットフォームで実績あるサイトの知見を我が物にできる。
さらに別の要因もある。エアビーによると、ブティックホテルの取扱いをもっと増やしてほしいというユーザーからの要望が非常に大きく、実際にブティックホテルの登録も増えていた。「プラットフォーム上で扱っているブティックホテル、B&B、そのほかホステル、リゾート部門の客室数は、2018年は倍以上に増えた。一方、ブティックホテルの予約数も、2017年比で3倍になった」(同社)。
バケーション・レンタルに比べて、ホテル客室の方が扱いやすいという事情もある。エアビーでは、個人所有の物件ではなく専門業者が運営しているバケーション・レンタルの取扱い拡大にも力を入れている。ただし、こちらは物件ごとに様々なタイプがある上、複数の流通経路に同じ部屋が登録されていることも多く、細かい作業が発生しがち。それでもエアビーではテクノロジー支援を強化するなどで、自社プラットフォームへの誘致を続けている。
エアビーアンドビー・プラスの登録物件数が、2018年末の目標としていた7万5000軒を達成したかどうかも問題だ。民泊とホテルの間に位置するこうした物件をどのぐらい確保できるかは、「何でも揃う旅行のスーパー・ブランド」を目指す同社の戦略を大きく左右する。
伝統的なホテルvsブティックホテル
今年1月、カヤックの共同創業者兼CEOのスティーブ・カフナー氏は、エアビーがホテルトゥナイトと非公式に交渉していても別に驚かない、とコメントしていた。
「旅行関連サービスに従事しているところは皆、ホテルトゥナイトには関心があった。エアビーだって同じ。何しろミレニアル世代が支持するブランドで、モバイル・ファースト。さらに伝統的なホテルの取扱いに興味があるなら、まずここから試してみるのがやりやすい」。
とはいえ、悩ましい問題もある。ホテルトゥナイトを獲得することで、エアビーはホテルの同日予約プラットフォームだけでなく、伝統的なホテルから大型会議ホテルを含む、様々なホテルの広告宣伝サービスに関わることになる。ブティック系、ライフスタイル系は、すでにエアビーが自社プラットフォームへの誘致に力を入れてきたセグンメントだが、それ以外のホテルも含まれている。
エアビーではホテルトゥナイト買収の発表に際し、同社の取扱いホテルにはブティック系やライフスタイル系が多いことを強調していた。チェスキーCEOがよく語るように、ブッキングドットコムやエクスペディアで見かける「大衆向けのマスプロダクト」とは一線を画した品ぞろえだということか。
「ホテルトゥナイトとエアビーは、どちらも同じようなタイプのブティックホテルやライフスタイルホテルの取り扱いに注力してきた、同じルーツを共有している」と説明し、今後もこの路線に変更はないことを示唆。実際、ホテルトゥナイトのシャンク氏は今年1月に買収のうわさが流れだした頃、「当社の売上の9割はブティックホテルや独立系ホテル」だと話していた。
では買収が完了した後、従来の路線に合致していない非ライフスタイル系、非独立系ホテルは、エアビーのプラットフォーム上でどのように扱われるのだろうか?
取扱いホテルの数という意味では、大きな拡大をもたらす。現在、エアビーには600万以上の個人所有物件が掲載されているが、ライバルのブッキングドットコムは2830万件のホテルおよび民泊物件数を誇る。
しかし過去11年間かけてエアビーが育ててきたコミュニティーや独自カルチャーはどうなるのか危惧される。
もっともこうした経緯は、特に旅行関連分野ではよくあるパターンであり、株式上場を控えているなら、むしろ当然の帰結だと指摘する声もある。選択肢の幅を拡大するのは、企業の成長過程において、自然な流れというわけだ。
エアビーが伝統的なホテルの予約取扱いにも乗り出すなら、これまで同社と他のOTAを差別化してきた大きな要素が、次第に薄れていくことになるかもしれない。
ホテルトゥナイト側の狙い
エアビーでは、ホテルトゥナイトは今後も従来通りの事業を展開するものの、両社のシナジー効果で面白い展開になる可能性も示唆している。
例えば、エアビーアンドビー・プラスで掲載していたホテルに近い民泊物件を、ホテルトゥナイトに移管する、あるいはホテルトゥナイトで民泊やエアビーアンドビー・エクスペリエンスのカテゴリーを新設することが想定される。もっとも体験ツアーの同日予約は、かなり難易度が高い。
同様に、ホテルトゥナイト掲載のホテルの中から、エアビーで宣伝したほうがよい物件を選んで移管することも考えられる。
両社はコミッション・モデルも異なるが、この見直しや統合も気になるところだ。ホテルトゥナイトのコミッション率はホテルに対して15~20%、予約時期は限定している。エアビーの基本コミッション率は個人ホストやホテルによって差はあるが3~5%。さらに宿泊するゲストに、予約一件ごとに5~15%の手数料を請求する。これに対し、ブッキングドットコムやエクスペディアなどOTAが独立系ホテルに設定しているコミッション率は最高25~30%だ。
ホテルトゥナイトが実施しているキュレーション手法をエアビーでも採用し、利用者に表示する物件数を絞るのも悪くない。何しろ、エアビー利用者による「よくある不満」の一つは表示される物件数が膨大すぎて分かりづらいこと。チェスキーCEO自身もこれを課題に挙げている。
そのほか、ホテルトゥナイトのロイヤルティ・プログラム対象にエアビーも加えるのか、ホテルトゥナイトのアプリにあるコンシェルジュ・サービスをエアビーでも採用するのかなど、今後が注目される。
大手OTAにとって脅威となるか
独立系ホテルやブティックホテルにとって、今回の買収のニュースは朗報だろう。流通チャネルにエアビーという選択肢が増えるのは悪いことではないし、他よりも使い勝手がよければ尚更だ。
マリオット、ヒルトン、ハイアット、IHGなど、大手ホテルチェーンにとっても、エアビーは昔と違い、むしろ歓迎すべき存在になりつつある。オンライン旅行販売における二大巨人、ブッキングドットコムやエクスペディアにはライバルが必要だし、この両社だって今や民泊を取り扱っている。
ベストウェスタンのデビッド・コンCEOは、流通チャネルの選択肢の一つとして、エアビーに注目しているという。ただし、エアビーがブティック系など特定タイプのホテルだけでなく、すべてのホテルに対しプラットフォームを開放した場合の話だ。
「エアビーの一般向けコメントと、実際にやっていることは必ずしも一致していない。ブティックホテルとは呼べないような物件も、かなりの数が登録されている。エアビーに集まってくる利用者の数は膨大で、プラットフォームの実力は認めざるをえない。民泊の是非は別として、将来的にはどこかのタイミングで、OTAと同じようにエアビーとも協業することになるのかもしれない」(コンCEO)。
ヒルトンのクリス・ナセッタCEOも、エアビーがOTAに近い存在に変貌していくことは「悪くない」とかつてコメントしていた。エクスペディアやブッキングドットコムのライバルが増えて、競争原理が働くことを期待している。
エアビーのホストへの影響は?
今回の買収により、エアビーが直面している状況は、大手ホテルチェーンにも似ている。運営ブランドや客室数が増えれば増えるほど、顧客であるオーナー(エアビーの場合はホストも)間のゲスト争奪戦が激しくなり、やがて離れていくオーナーやホストも現れる。
だがエアビーによると、同社プラットフォームでは逆のことが起きていると話す。
「ブティックホテルが加わったことで、今までとは違う客層がエアビーを利用するようになり、コミュニティーはますます拡大し、強固になった」(同社)。エアビーを初めて利用するゲストの9割近くはホテルを予約するが、2回目は民泊を利用するようになるという。
「ブティックホテルも民泊ホストも、地元コミュニティーと深く関わりながら暮らしているので、まさしくその土地ならではのホスピタリティーがある」とエアビーのアドバイザーであり、ブティックホテルの先駆者としても知られるチップ・コンリー氏は指摘する。エアビーとホテルトゥナイトが一つになれば「ユニークでローカル色の強い宿泊施設を探している利用者にはますます便利になる。エアビーのコミュニティーも盛り上がるだろう」と同氏は期待する。
どの企業も、IPOを含め、さらなる成長を目指す過程において、過去と未来のバランスをとりながら進んでいくものだ。エアビーのホテルトゥナイト買収も例外ではないが、エンド・トゥ・エンドの旅行・体験プラットフォームの未来に大きな影響を及ぼす一歩であることは間違いない。
※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
※オリジナル記事:Airbnb Is Buying HotelTonight: Here’s What That Means
著者:スキフト ディアナ・ティン(Deanna Ting)氏