都市型の「移動支援アプリ」はOTAの進化系になるのか? 米国市場の動向を分析して未来を考えた【外電】

3年前、私はウーバーに対し、当社Mozio(モジオ)とウーバーで、何か一緒にできないかと持ち掛けたことがある。その時ウーバーは「列車など公共交通を含み、すべての運輸サービスが競争相手になりえると考えている」と語った。

※編集部注:「Mozio(モジオ)」は米サンフランシスコで創業したモビリティアプリ。旅行者向けに、主要空港から目的地へのアクセス手段を探すサービスを提供しています。本記事は同社の共同創業者兼CEOデイビッド・リトワク氏(David Litwak)の執筆で、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

いくらなんでもそれは少々行き過ぎではないか、と当時は感じた。ウーバーが独自に地面を掘削してトンネルをつくり、地下に電車を走らせるというなら話は別だが、運輸サービスとは、究極的にはエコシステムだ。官民と何社もの企業の協力があって成立するものだと認めるべきではないか――?

その後、2018年4月、ウーバーは米国サンフランシスコのバイクシェア会社「Jump Bikes(ジャンプバイクス)」を買収し、同事業に進出。さらに公共交通機関の発券アプリを提供する英国のMasabi(マサビ)と提携し、ライドシェアと公共交通機関を同一アプリ上で予約・利用できる環境を整えた。ウーバーの新CEO、ダラ・コスロウシャヒ氏が、エクスペディア時代の経験を活かしながらウーバーの基本戦略を固めていることが分かる。

つまり、都市圏の移動に役立つアーバンモビリティ・アプリこそ、OTAの未来形というわけだ。

これは一つのパラダイムシフトだ。人々の移動を支えるアーバンモビリティのあり方、そして旅行業とどのように関わっていくのか、真剣に考えるべき時が来た。

モビリティアプリとOTAモデル

周知の通り、OTA各社は途方もない金額を投じて、ユーザー拡大を目指している(ブッキングドットコムとエクスペディアは、グーグル・アドワーズ広告に年間何十億ドルも支払っている)。利用者を自社サイトへ呼び込み、あらゆる販売機会を最大限に捉えることを狙う。

さまざまな旅行関連商品を扱うなかで、航空券は、多少の赤字は覚悟の客寄せパンダとなるケースが多いが、ホテルは利幅が大きい。さらにレンタカー、観光ツアー、現地でのアクティビティ、地上交通、保険など、幅広い内容を揃えることで、一人の利用客に対し、より多くのサービスを販売している。

一つの営業機会を最大限に活かすことができれば、クリック当たりのコストが高くなってもそれだけの価値はある。こうして大手間の競争はますます激化し、資金力に乏しいところが参戦するのは、以前よりも難しい状況になっている。

かつて航空会社は、自らが招いた流通手法の細分化を負担に感じるようになり、もっと効率的なやりかたを求めてGDSという流通システムが生まれた。一つの航空会社が世界中の空を制するのは不可能だと悟り、生まれたのが航空アライアンス。これらは、ある程度のレベルで、お互い協力するのが現実的という結論に至ったということかもしれない。

今、アーバンモビリティで起きていることは、こうした航空業界の軌跡に少し似ている。新しいサービスがどんどん登場し、投資マネーが潤沢に注がれてきたが、ここでいったん問題点を洗い出し、仕切り直そうという動きだ。

「モビリティ」で何が起きているのか

移動手段の大変革が始まった当初、ネットワーク効果により、最終的にはモビリティの覇者は一強に落ち着くという見方が主流で、その筆頭候補はウーバーだった。

しかし、実際にはもっと複雑な状況になっている。

  •  ウーバーのネットワーク効果は、予想されていたほど高くはなかった。収穫逓減の法則が働き、3分かかるところを2分で迎えにきてくれる配車サービスでも、思ったほど利益は増えない。また、1つのサービス内に多数事業者が介在する「マルチテナント方式」であるため、プラットフォーム上ですべてのユーザー向けに常に複数ドライバーが待機し、チェックしている状態にはなりにくい。それが、地域限定で同様のライドシェアを提供するライバルが新規参入しやすい状況を招いた理由だ。

 

  • モビリティ市場の細分化は、さらに続いている。スクーターや自転車シェアが登場したほか、「ウーバープール」「リフトライン」といった相乗りサービスと公共交通の中間にある格安ライドシェアアプリ「Via(ヴィア)」が登場。ここにも利用者が集まっている。

    10年前はタクシーか公共交通の二択しかなかった。ところが今や、都市部では複数の事業者が8~10種類の運賃で、さまざまなサービスを提供している。公共交通機関のほか、様々なタイプのバイクシェア。例えばドックレス(駐輪場不要)で乗り捨てOKの電動自転車から、市全域に駐輪場があるバイクシェアまで。他にもドックレス電動スクーター、目的地まで連れていってくれるシャトルサービス(例えばVia)、ドアツードアの相乗り自動車、そしてタクシーや、タクシーの相乗りサービスもある。

  • 一方、自治体側は新規参入を支援し、事業者の一極集中を避ける方向へ動いている。例えばサンフランシスコ当局が電動スクーターのシェアリング事業を認可したのはScoot(スクート)とSkip(スキップ)の2社。他にもBird(バード)、Lime(ライム)、ウーバー、リフトの4社が認可を申請していたが、いずれも却下された。却下された各社の方が、資金力や知名度は高かった。

    また、ニューヨーク市では目下、「シティバイク」を展開するMotivate(モチベート)社を買収したリフトが独占的な立場を誇る。これまで自治体当局に対し、モビリティ各社は、ライドシェアという前例のない新サービスには「許認可ではなく寛容」が必要とアピールしてきた。だが自治体側も賢くなり、最近では厳しい取り締まりと、マーケット毎に認可先を選別する手法で対応するようになっている。

この結果、様々な事業者のサービスを総合的にまとめるサービスが必要とされるようになってきた。モビリティの総合サービス提供を目指す各社のアプローチ手法は、主に3パターンあるが、いずれも難題を抱えている。

(1)インフォメーションファースト型

運輸やナビゲーション、地図アプリなどを提供する各社(Moovit、Waze、Transit App、 Citymapper、Google Maps、Apple Maps、Here、Mapquestなど)はいずれも情報の充実を最優先する「インフォメーションファースト」方針のもと発展してきたが、最近になって、予約機能を加える動きが目立つ。

好例の一つは、グーグルマップによるウーバーやリフトとの連携だ。一方、英シティマッパーは、ロンドン市内でのバス運行やトランジットカード取扱いなど試験的な試みをスタート。米トランジットアプリは、英マサビとのサービス統合へ動き出し、ムーブイットとウェイズは自動車の相乗りサービスで試行錯誤を続けている。

(2)「主力サービス+付加価値」型

ウーバーと滴滴(ディディ)は、ドックレス・バイクシェアサービスを統合した。ウーバーは、あらゆる交通機関の取扱サービスを目標に掲げているが、こうした状況から察するに、都市の運輸ネットワークをすべて自社単独で制覇するのは不可能だと認識するようになったのではないか。ウーバーが他社サービスとの提携を進めずにいた場合、他のライバルたちの提携が進み、いつの間にか弱い立場に置き去りにされかねない。ただし今のところ、こうした他社とのサービス統合は、自社の強みである主力事業を補完するためと位置づけられるケースが多い。

バイクシェアアプリ市場では、まだサービス間の連携はそれほど進んでいない。しかしライムは先ごろ米シアトルで、バイクシェアに続き、カーシェアリングにも参入した。同社は早晩、シアトル手配に特化した事業に動くか、あるいはコモディティ化を狙って顧客離れに悩んだ挙句、自動車シェア各社と同じような道を探るようになるのではないかと予想している。

(3)B2Bアグリゲーション型

私の会社モジオは、地上交通手配の中間層に位置するシステムの一つだと考えているが、似たような会社は他にもある。グーグルのサイドウォーク・ラボから最近スピンアウトしたCoord(コード)は、「都市交通のAPI提供」を自らの役割に掲げているが、似たような野心を持った企業はモビリティ産業にもある。例えばフォードでは、モビリティクラウドを立ち上げている。欧州では、モビリティサービス向けの技術支援やソリューションを提供するTrafi(トラフィ)が、ベルリン市の交通当局やリフトと提携している。

旅行テクノロジーへの影響は?

OTA各社は、アーバンモビリティ戦略を練り、自社が囲い込んできた膨大な顧客ベース向けに何ができるか検討するべきだ。移動サービス参入は、旅行会社に共通の問題解決にもつながる。日常的なユーザーとのやり取りが生まれるからだ。

旧プライスライン(現ブッキングホールディングス)は、自社の競争力について、細かく分散していた旅行関連サービスを一か所に集めたことだとしていた。オフラインでしか予約できなかったものをオンライン化し、航空券、ホテル、レンタカーに加え、ネットでレストラン予約ができるオープンテーブルも傘下に加えた。地上交通マーケットの現況と似ていなくもない。

OTA各社にとって悩ましいのは、いちど旅行を予約した顧客をつなぎとめておくために、膨大なコストや労力がかかることだ。旅行者は次の休暇の頃には、以前どこのサイトを利用したのか、すっかり忘れてしまう。

だが頻繁に利用できるサービスがあれば、顧客のロイヤルティ醸成につながる。自社アプリを開く頻度が年に一回から一カ月に一度、あるいは毎日になれば、顧客獲得にかかる広告コスト軽減やブランド認知度アップにどれだけ貢献するだろう。

聡明なOTA各社なら、日々、顧客との関わりが生まれるようなサービスを考え、ブランド浸透の一助とするような戦略を考えるだろう。旅行先における現地交通サービスは、まさにぴったりではないか。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:Are urban mobility apps the new online travel agencies?

著者:デイビッド・リトワク氏(David Litwak)、モジオグループ共同創業者兼CEO

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