地域経済の中心的役割を担う旅館・ホテル。コロナ禍で打撃を受けた運営体制を回復させることが急務でありながらも、地域活性化や誘客への活動で期待もされる立場であり、すべきことや課題は多い。
先ごろ開催したトラベルボイスLIVE(オンライン版)では、仕事版LINEで知られる「LINE WORKS」を提供するワークスモバイルジャパン地方創生アーキテクトマネージャーの廣瀬信行氏と、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)青年部部長の星永重氏(藤龍館・代表取締役社長)が出演。旅館・ホテルが直面する特徴的な3つの課題について、IT活用による情報共有で解決に挑む取り組みを紹介した。
課題1:人手不足
旅館・ホテルの長年の課題である人手不足・人材確保は、コロナ禍でさらに深刻化している。全旅連青年部(加盟数:全国約1100施設)の星氏が会員にアンケートをしたところ、「コロナ禍で人手が減った」の回答は52.7%。このうち、「業務上、適切な人員を当て込めていない」との回答は6割以上に及んだ。宿泊者数が減少しているとはいえ、館内の清掃や消毒など感染防止対策のための作業時間が増えており、少ない人員で多くの仕事をおこなわなくてはならない。
この対応で多くの旅館・ホテルが取り組んでいるのが、マルチタスク化とIT活用。マルチタスクで業務をするため、必要な仕事の引継ぎや顧客情報の共有などを目的に、ITツールを導入する施設が増えている。
ワークスモバイルジャパンの廣瀬氏は、マルチタスク化を推進するポイントとして、「人がしなくてもいい業務をどれだけ見出せるか、そして自動化できるか」と説明。業務を一つ一つ洗い出し、どこを自動化すれば自社の資産が利益に循環されるようになるのか、業務の流れを強化する取り組みが大切だという。
ここで廣瀬氏は、他業界だが人の介在が重要だと思われていた人材育成での改善例を紹介した。ある酪農家が業務マニュアルをLINE WORKSにまとめ、業務に関する質問内容も共有できる仕組みを作ったところ、従業員が独り立ちするまでの育成期間が、以前の1年半からその3分の1程度に削減できたという。廣瀬氏は「人の作業は想像以上に機械化できる。従業員の力をもっと適切な場所に仕向ける。この戦略が非常に重要」と強調した。
課題2:顧客単価/収益性の向上
星氏は2つ目の課題について、コロナの影響で消費者のニーズが大きく変わったことを指摘。宿泊施設に対しては、プライベート感のあるスペースでのサービス提供を求める傾向が強まった。この変化に対し、旅館・ホテルではすでに客室・食事会場の改装や料金込みのサービス提供など、ハード面、ソフト面での対応を開始。これに加え、各施設が地域と連携し、地域全体の高付加価値化に繋げていくことも考えているという。
旅館・ホテルは、地域経済の心臓部。星氏によると、1つの宿泊施設は、食材仕入れやクリーニング等で、地域内の平均30社以上の取扱業者と関わっている。従来、業者とのやり取りや電話やメール、FAXなどが中心だが、この繋がりをデジタルに変え、気軽に、かつ、リアルタイムに情報を伝えられるようにすることで、お客様が求める地域の最新情報を伝えることができ、地域の価値向上につながると考える。
これに対し廣瀬氏は、地域との連携について、宿泊客の滞在期間を延ばしたり、付加価値あるサービスを提供するには、「“地域の観光資産の棚卸し”がキーワードになる」と言及。「地域のすべての産業について、観光客に行ってみたいか、体験したいかを聞くべき」と、客観的な目で地域の価値を知る大切さを訴えた。その時に有効なのが、コミュニケーションのIT化。「地域のデジタル化をうまく丁寧に導いてあげることも必要」と述べた。
このデジタルでの地域との情報共有は、課題1の「人手不足」でも対応を始めている宿泊施設があるという。自社だけの取り組みには限界あるが、取引先や協力会社も同じ仕組みを共有することで、地域全体で効率性向上の課題に取り組むことができるという。
課題3:環境変化への対応
3つ目の課題は、環境変化への対応。
星氏によると、コロナの影響で、旅館・ホテルの接遇は、回数は減りながらも、それを補うための新たなサービスも生まれている。また、以前よりもウェブ会議の開催が増えたり、情報共有におけるデジタルツールの活用で、伝達業務が以前より活発化。全旅連青年部では会員との情報共有でLINEワークスを使用しており、「宿泊業界のなかでも情報伝達力が強い団体である自負がある。会員もメリットを感じており、全旅連青年部での使い方を自館で活用する会員も多い」という。
なお、廣瀬氏は本イベントのなかで、情報共有でIT導入をするポイントとして、「財務への効果」をあげた。コミュニケーションや“報連相”にかかる時間を圧縮することで、1件数百万円の売り上げを1か月早く入金でき、キャッシュフローの大幅な改善ができたという例もあると説明。「鋭い経営者はITが財務にどう響くかを意識し、導入や活用を考えている」とアドバイスした。