コロナ禍を経て、観光のあり方やスタイルが大きく変わり、人々の働き方も変容している。観光が急速に回復する一方で、顕在化しているのが労働力・人手不足といった産業の構造的問題だ。こうした事態を打開するカギを握るのが、「若手」の人材確保と育成。東京観光財団が2023年6月に開催した「観光経営力強化セミナー」では、人手不足解消に向けた取り組みのためのヒントを紹介した。
採用プロセスの見直しを
「『脱』・観光の働き型から働き方へ ~これからの観光の未来を握る若者を知る~」をテーマに開催されたセミナー。まず、「圧倒的な人材不足は観光産業だけではなく、多くの業界に共通の課題」と指摘したのが、人材研究所代表取締役の曽和利光氏だ。
曽和氏は具体的に取り組むべきことのひとつに、採用プロセスの見直しを挙げた。最初から観光業界を強く志望してくる学生だけに採用のターゲットを絞っていては人材確保が難しいとして、「志望度という名の勉強量を測る採用活動はやめるべき。知識は後々インプットしてあげればよい」と、採用側が意識を変える必要性を説いた。
“タイパ”重視する若者 彼らに刺さる旅とは
コロナを含む社会変化によって、若者たちの考える観光の形も進化している。旅行メディアやイベントを展開し、若年層のマーケティングに強いTABIPPO代表取締役の清水直哉氏は、「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉で若年層の心理を説明した。
日頃からSNSや動画配信サービスを利用し、動画の倍速再生や「ながら見」に慣れている若年層は、「時間もお金もかかる旅は“タイパ”が悪い」と考えがちだという。旅を人生を豊かにするための手段として捉え、時間やお金がかかるからこそ得られる価値を押し出していくのが有効だとして「旅先で地域の人たちと深く関わりたい、課題解決に貢献したい、といった高次元の欲求を満たすものにしていくべき」と呼びかけた。
若手を積極抜擢 そのための社内環境整備を
水星代表取締役/CEOの龍崎翔子氏は、ホテルのブランディング・プロデュースを手がける立場から、ミレニアル・Z世代が活躍する観光組織のつくり方について、実践例を交えながら話した。
見切りが早い若手を定着させるためには待遇を上げる必要があるとして、「ホテル経営の場合、25歳の若者に支配人を任せられるようなトレーニングを導入することも有効だ」と述べた。水星では、ホテル支配人の業務をスリム化させて若手を抜擢しているという。
また、事業を多角化することで多様なポストを用意し、若手が行き詰まった際に別のキャリアパスを提示できるようにしていることを紹介。経営多角化は「外的要因に左右されやすい観光業のリスクヘッジにもなる」と述べた。
セミナーを主催した東京都・東京観光財団は2022年、事業者支援に特化した部署を新設し、観光関連事業者の経営改善をサポートする総合相談窓口「東京観光産業ワンストップ支援センター」を開設した。公式サイトでは補助金などの支援情報を発信している。セミナーの最後に登壇した同財団観光産業振興部の田中正次長は、実際に補助金を使った事例を紹介し、「無料でアドバイザーの派遣も実施している。気軽にセンターへ問い合わせてほしい」と呼びかけた。
セミナーの後は、事業者同士の連携を促し、次のビジネスアイデアが生まれる場として交流会も開かれた。参加者たちは積極的に名刺交換をして、会場は賑わいを見せた。セミナーと交流会は、2023年度はあと3回開催される予定。
広告:東京都・東京観光財団
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編集・制作:トラベルボイス企画部