財団法人日本交通公社は、このほど恒例となった「第25回旅行動向シンポジウム」を開催した。同財団が発表したばかりの日本の旅行・観光の動向を示す「旅行年報2015」の解説に特化したもので、こうした形態は今年が初めて。今年の特徴としては、従来の旅行業メインであった参加者だけでなく産業を超えた様々な業種の参加者が増えたことがあげられるという。観光の裾野の広がりを感じさせるもので、観光のトレンド情報を熱心に収集しようとする約150名が集まった。
そこでは、2014年の延べ国内宿泊旅行者数は約2億9734万人回(前年比7.2%減)、海外出国者数が1690万人(前年比3.3%減)となった点についてその要因を分析。観光文化研究部主任研究員の五木田玲子氏が、「日本人の旅行市場」として概況を解説した。
まず、旅行の阻害要因として家計の制約が増えた点を指摘。物価上昇などによって消費支出が縮小、増税前の駆け込み需要後に一気に落ちたことや、消費支出と連動してパック旅行費の減少したことを説明し、「物価が上がると旅行者が減少するという動向が顕著だった。消費支出があがると旅行者も減る。物価と消費支出の影響が大きい。」とした。
また、2011年以降、人口減少が続いているが、延べ旅行者数と比較すると影響が軽微であり、2014年の旅行者減は人口の問題ではないと結論づけた。
海外旅行では、為替が大きく影響したものとみる。これまで、消費支出と出国者数は連動して増減してきたが、円高傾向が進んだ時期にはそれを超えて出国者数は伸びた。昨年から今年に関しては、その逆で、円安による海外旅行の割高感や国際情勢不安などが影響して減少傾向がみられていると考えられるとした。
2015年度の自治体の観光政策、重点分野の最多は「国際観光の振興」
シンポジウムでは、同財団が実施した調査結果についても発表された。その中でも注目したのは、「都道府県及び政令指定都市の観光政策に関するアンケート調査」の結果だ。都道府県・政令指定都市での観光の位置づけや施策、事業内容など現状の分析をおこなうもので、観光政策のトレンドが垣間見られる。47都道府県・20政令指定都市を対象に行われ、同財団の観光政策研究部、主任研究員の牧野博明氏が解説した。
まず、2015年度の自治体における観光政策の位置づけでは、「極めて重要な位置づけにある」が59.6%で最多に。「重要な位置づけにある」は40.4%だった。牧野氏は、前年に比較して「きわめて重要な位置づけ」の割合が増加した結果を示し、全国的に観光が重要な政策となっている点を指摘した。
2015年に重点的に取り組む分野では、最多だったのが「国際観光の振興」。都道府県が93.6%、政令指定都市で95%と、ほとんどの自治体で実施されている。続いて、都道府県では、情報発信、宣伝PRが87.2%、新しい商品づくり・魅力づくりが74.5%。政令指定都市では、コンベンションなどMICE誘致が80%、情報発信・宣伝PRが75%。都道府県でMICEを重点的分野としてのは31・9%となり、特徴的な違いとなった。
具体的な施策では、双方とも「海外での見本市・商談会への参加」「インターネットによる情報発信」を実施、都道府県では、メディア・旅行関係者の招へいが97.9%となり、政令指定都市の69%にくらべて高いものとなった。牧野氏は、前年調査に比べて「全体的に見て実施内容が多様化・拡充している」として観光政策が各地で進む状況を説明した。
ターゲットとしている国では、都道府県が台湾(100%)、タイ(95.7%)、中国(91.3%)、韓国(89.1%)。政令指定都市では韓国とタイが入れ替わる結果だった。上位は変わらず、訪日数の上位となる各国だ。
自治体の観光政策での課題では、 都道府県では「外国人観光客の受入体制の整備不足(62.5%)」が最多に。「財源不足」「人員不足」(46.9%)となり、昨年比で比率が上昇しているという。これは、政令指定都市でも同様。牧野氏は、こうした活動をしていくうえで、十分なターゲティングやマーケティングを実践したうえでの戦略作りをしていくべきとした。
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トラベルボイス編集部 山岡薫