富士山の登山者を位置情報で追跡、人流データから見えた特徴的な行動パターンとは?

捜索サービス「ココヘリ」を運営するAUTHENTIC JAPAN社は、2024年に実施された富士山の入山規制に合わせて、位置情報から人流データを取得する実証実験を行なった。 富士山の吉田ルート(山梨県)で、入山者にGPS搭載発信機「ココヘリGPS+」を提供して登山者の行動データを取得したもの。このほど、その結果と分析から見えてきた新たな提案や活用法を提示した。

位置情報データから3つの時間帯で特徴

山梨県は昨年夏、富士山吉田口に新たな登山ゲートを設置。午後4時から翌日午前3時まではゲートを閉鎖し、1日の登山者数を上限4000人(山小屋予約者を除く)に制限した。

AUTHENTIC JAPANは 、入山制限の開始にあわわせて、2024年7月1日~9月10日の72日間、五合目に設けられた入山ゲートで累計3846人にGPS搭載発信機「ココヘリGPS+」を貸し出し、その発信機から3分おきに発信されるGPS位置情報と地図情報を組み合わせることで、富士山エリアの時間ごとの人口分布や、登山者ごとの参考データを取得した。

「ココヘリ」は、主に、山岳遭難での捜索サービスとして活用されている。2016年から提供を始め、有料会員数は現在約17万人。富士山での実証では、GPS位置情報だけを取得し、入山者に年齢、性別、登山歴などの属性は聞いていない。

時間ごとの登山者分布から3つの時間帯で特徴が強く出た。まず、早朝4:00。日本人も外国人も8合目から上に登山者が集中しており、分析したココヘリ緊急対応オペレーターの宮内佐季子氏は「ご来光を見るために登る人たちだと考えられる」と解説した。

次に、6:00。この時間になると、データから登山者は思い思いの場所に散らばった。位置情報は、下山道と火口周辺に分散。宮内氏は「ご来光を拝んだ後、すぐに下山した人たちのほか、体力のある人は火口周りで『お鉢巡り』していると推測できる」と分析した。

最後が18:00。位置情報から下山中の人は非常に少なく、ほとんどが登山中であることが読み取れた。また、1時間以上動いていない人は「おそらく山小屋に到着した人」と分析した。

宮内氏は、登山者の位置情報の把握について、「管理者が登山者の分布を画面一つで確認できることで、例えば間違った登山口に向かって下っているなどの異常に気づき、早期に対応することもできる」と話す。

宿泊の有無、それぞれで3パターンの人流

また、位置情報から登山者の行動パターンも分析。典型的なパータンとして、登山中に宿泊をする場合の3パターンと宿泊なしの3パターンに分類した。

宿泊する場合のパターンでは、まず「山小屋に泊まり、山頂へは行かずそのまま下山するケース」を挙げた。1泊することで、翌朝の体調を見て登頂か下山かを選ぶようだ。

次に「五合目の佐藤小屋に泊まり、夜間に出発して、登頂して下山するケース」。1日目は十分に休憩を取ってから、登山を開始。一気に登って下るため体力は必要になるが、日差しが少ない中を登るため、体力の消耗は少ない。宮内氏は、この応用型として、安全性確保、混雑軽減、日没後の下山減少を考えると、「五合目の宿泊施設で5時間以上休憩した人は23時からゲートを通過できるようにすることも検討する価値がある」と提案した。

3つ目が「初日にある程度登って山小屋に宿泊し、登頂して下山するケース」。これがオーソドックスなパターンだという。

宿泊なしパターンでは、「登頂にこだわらず、無理のないところで下山するケース」。次に「登頂するも体力的に無理があり、深夜に下山するケース」。ペースが遅く、頻繁に休憩を取っていることがGPS位置情報から判明しており、宮内氏は「遭難予備軍」と注意を促した。

宿泊なしの3つ目のケースが、「体力があり、登頂して明るいうちに下山」。山頂まで上り2時間半ほど、下りは1時間15分しかかかっていないことから、毎年行われている富士山登山競争のランナーが練習していると思われるという。

登山者情報と位置情報の掛け合わせで登山者サポートを

AUTHENTIC JAPAN執行役員マーケティング責任者の高柳晃氏は、富士山実証実験について、「山岳捜索サービスを運営する目線からいうと、今回の取り組みの効果は非常に大きかった。今回の情報をベースとして、登山者の安全が確保され、安心して登れる状況を生み出していきたい」と話し、手応えとともに今後への期待を示した。

そのうえで、登山者情報と位置情報を掛け合わせることで、今後、可能になる活用法も提案。例えば、夕方時点でまだ下山ルート上に登山者の位置情報を発見した場合、富士山では携帯での通信が可能なため、対象者に連絡あるいはサポートが可能になる。

また、逆に、予定時刻になっても山小屋に予約者が到着しない場合、予約情報から宿泊者の位置データを確認することが可能になる。

このほか、高柳氏は、2014年に発生した御嶽山噴火の例を引用しながら、富士山噴火も起こり得ないことではないとして、災害時における位置情報の重要性を指摘。意識を失って自ら通報できない場合、スマホのバッテリー切れ、災害時の携帯電話ネットワーク切れなどの場合に「価値が高まる」と強調した。

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