高級ホテル予約「一休.com」が仕掛ける民泊とは? 一線を画す「バケーションレンタル」のサービス展開を聞いてきた

OTA「一休.com」が、2016年11月に高級別荘を活用した民泊(バケーションレンタル)を専門に取り扱う「一休.com バケーションレンタル」のサービスを開始した。高級宿泊施設に特化したオンライン旅行予約サイトが仕掛けるバケーションレンタルとは? その戦略と展開を聞いてきた。

住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立し、来年早々にも施行が見込まれている。「民泊ではなくバケーションとして訴求していく」と話すのは、同社宿泊事業部バケーションレンタルマネージャーの牧野雄作氏。世間で話題となっている民泊とは一線を画す、独自の物件を掲載していることを強調する。

旅館業法に適応した物件だけを掲載、ユーザーは一休会員がメイン

一休・宿泊事業部バケーションレンタルマネージャー 牧野雄作氏「一休.com バケーションレンタル」を開くと、京都の町家、沖縄のコンドミニアム、湘南のヴィラ、北海道の高級マンションなどのレンタル物件が並び、そのラグジュアリーな宿泊空間に旅情が誘われる。高級宿泊施設を扱う一休の基本コンセプトは、バケーションレンタルでもブレていない。

サイト開設時に100軒だった掲載数は現在300軒を超えた。現在のところ、簡易宿所を含む旅館業法を取得している物件のみを扱っており、掲載物件は月に20〜30軒のペースで増加しているという。牧野氏は「今期はこのペースを維持していく」考えだ。予約数も当初の1日10軒程度から60〜70軒までに増え、順調に売上を伸ばしているという。

現在のところ、ユーザーの80%は、そもそもの一休会員。バケーションレンタルは一棟貸しが多く、泊食がパッケージ化された旅館や宿泊スペースが限られたホテルとは異なり自由度が高いため「自分たちらしい旅を楽しみたいファミリーやグループに受け入れられている」という。

一休で高級宿泊施設に宿泊してきた会員の満足度も高く、口コミ評価は5点満点中4.8と「宿泊では最も高くなっている」。牧野氏は「自分の別荘に泊まるようなプライベート感が最大の魅力」と話し、ホテルや旅館とは異なるニーズを満たすバケーションレンタルの潜在性に自信を示す。

「一休.com バケーションレンタル」で予約できる様々な物件

審査でクオリティーを担保、再生関与にも意欲

一休.com バケーションレンタルは、多くの民泊プラットフォームで見られるシェアリングエコノミーのビジネスモデルではない。掲載物件をピア・トゥ・ピア(P2P)で集めるのではなく、一休が主体性を持って物件を開拓している。空き家対策として、遊休資産の有効活用として、法人や個人のオーナーが宿泊用途に変更し、一休に掲載を依頼してくる場合もあれば、一休が自ら開拓に乗り出す場合もある。

物件の審査には、一休の審査委員が現地に赴き、独自に定めた基準を厳しく審査することで、一休らしいラグジュアリ・バケーションレンタルのクオリティーを担保しているという。掲載の審査基準のひとつは、旅館業取得を前提として、「日常の延長線上の非日常の空間」だ。

掲載物件がもっとも多い都市は、町家のリノベーションが進む京都。最近の特長的な傾向としては、沖縄など米軍関連施設の遊休資産を宿泊施設に転用する動きが不動産業界で出てきているという。今後は、関東周辺の物件を増やしていきたい考え。

また、掲載物件を開拓では、再生事業会社とパートナーを組むことで、古民家や歴史的建造物などの宿泊施設転用に最初から関与し、一休のバケーションレンタルとしてサイト上でプロモーションを展開する事業を強化していく考えも示す。

国内需要を優先、バケーションレンタルの定着目指す

「通常の旅は、デスティネーションを決めてから宿泊場所を決めるが、一休のバケーションレンタルの場合、ここに泊まってみたいから、その場所に行く傾向も強い」と牧野氏。ここに、一休バケーションレンタルの強みがある。

たとえば、千葉県館山のゲストハウスは2棟に分かれ、ツイン3室、200平米の広さがあるが、「このゲストハウスで会社のミーティングをしたいという需要がある」。館山に行くのが目的ではない。

千葉・館山の別荘:一休.comより

また、再生事業会社NOTE(ノオト)が手がけた兵庫県丹波篠山の集落丸山の古民家は、「日本の原風景が残り、日本の田舎暮らしが体験できる」が、旅行先として丹波篠山が選ばれるのではなく、田舎暮らし体験ができる場所として集落丸山が選ばれる。

牧野氏は「一休.comバケーションレンタルは、セレクトサイト」と話し、ほかの民泊/バケーションレンタル・プラットフォームやOTAとの違いを明確にする。新しい宿泊の選択肢としいう視点から、一休.comからは独立したサイトで運営。「同じサイトで見せると、旅館やホテルを求める人とミスマッチを起こしてしまう」おそれがあるからだ。

牧野氏は、想定するターゲットユーザーについて、「まずは、そもそも上質な宿を求める会員に新しい選択肢を提案していく」と話し、国内需要の拡大を優先する方針を示す。宿泊施設の選択はライフスタイルの変化によっても変わってくる。「たとえば、子供が生まれれば、旅館やホテルなどよりも自由度の高いバケーションレンタルを選ぶ傾向は強まる」と見ている。

丹波篠山市の古民家(限界集落を再生した古民家プロジェクト):一休.comより

インバウンド市場については、台湾のOTAライオントラベルと提携はあるものの、「日本人に認められない物件は、海外でも受け入れられないだろう」という考えから、本格的なインバウンド需要へのアプローチは、海外パートナーとの提携拡大を含め、将来的な戦略になる。

一休.com バケーションレンタルは、高級旅館やラグジュアリーホテルに泊まってきた会員を満足させる上質なバケーションレンタル物件を揃えるが、牧野氏は「日本では一般的に馴染みの薄い宿泊スタイル。民泊とは異なるバケーションレンタルをもっと広めていきたい」と意気込む。

民泊新法の施行を控え、「民泊」という言葉が独り歩きをし、バケーションレンタルも同じ波にのみ込まれている現状で、一休が仕掛ける「暮らすように泊まる」バケーションレンタルがどのように日本で広まっていくのか。旅行スタイルの個性化や宿泊方法の多様化だけでなく、日本人の働き方や休暇取得にも関わってくることなのかもしれない。

聞き手 トラベルボイス編集部 山岡薫


記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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