日本でも急増する民泊利用者。その実態に押される形で「住宅宿泊事業法」も整備され、2018年6月15日に施行されることが決まった。シェアリングエコノミーで日本の一歩先を行く韓国の民泊事情はどうなっているのだろうか。このほど開催された「シェアサミット2017」に登壇した韓国の民泊大手「コザザ(Kozaza)」CEOのサンク・ジョー氏の話から、ローカル民泊プラットフォームが直面する課題と今後の可能性をまとめてみた。
外国人観光客に限る民泊、文化体験としての民泊
ソウルは2012年9月に「共有都市・ソウル」を宣言し、「ソウル特別市共有促進条例」を制定。オランダのアムステルダムと並んで世界でもいち早く、行政が主導してシェアリングエコノミーを推進してきた。その目的は、遊休資産を有効活用することで、交通渋滞、環境、社会保障などソウルが抱えるさまざまな都市問題を解決するとともに、経済の活性化と雇用の創出を促進することだ。
首都ソウルの取り組みは韓国全体でも共有され、現在の文在寅政権でも「経済の中心を政府や企業から国民、個人や家族へシフトさせる」という基本的な考え方のもと、「シェアリングエコノミーは成長エンジンのひとつ」と位置づけている。
では、観光分野でのシェアリングエコノミーの代表格である民泊を韓国ではどのように定義しているのだろうか。
基本的には2つの種類がある。ひとつは、都市地域の住民が自宅を外国人観光客に提供する「外国人都市民泊業」。この事業の条件は、外国人観光客に限ることと韓国の家庭文化体験を提供することだ。もうひとつは、韓国の古民家である「韓屋(ハノク)」の有効活用。これも基本的な考え方は文化体験。どちらも、各自治区への申請が求められ、建物面積や衛生状況などの審査が必要となる。
興味深いのは、国を挙げてシェアリングエコノミーを推進していることから、こうした民泊仲介サービスを民間企業だけでなく公的機関も行っている点だ。たとえば、韓国観光公社は「コリアステイ」、ソウル特別区は「ソウルステイ」をそれぞれ運営している。
市場発展には自国民も利用する社会的合意形成が不可欠
日本よりも進んでいるようにも見える韓国の民泊事業だが、コザザのジョー氏によると、課題も多いという。
「外国人都市民泊業」はユーザーを訪韓外国人に限るため、「Airbnbだけが得をする法律」(ジョー氏)に。ローカルの民泊プラットフォームはグローバルなネットワークを持っていないため、勝負にならなかったという。ジョー氏によると、当初10社のスタートアップが民泊プラットフォームを始めたが、現在生き残っているのはコザザだけだ。
ジョー氏は、規制は大切としながらも、「事業の足かせとなるネガティブな規制ではなく、事業を発展させるポジティブな規制が必要」との見解を示し、外国人だけでなく、自国民も積極的に利用するという「社会的合意形成がなければ、社会的なイノベーションは生まれない」と強調する。
また、ジョー氏は韓国のローカル民泊事業者の脅威となっているのが、皮肉にもオンラインだという。「シェアリングエコノミーはローカルのコミュニティーが大切だが、オンラインによって世界の大手が地元市場を独占してしまっている」と現状を説明する。しかし、「ローカル民泊事業者にも希望はある」と言う。韓国では現在でも強力なネットワークを持つAirbnbがリーディングカンパニーとなっているが、「ローカル民泊事業者にとってもハードルが低くなる新しい規制ができれば、外資とも競争はできる」と自信を示す。
ローカルの独自性で韓国のAirbnbに
コザザは、サービスローンチから6年間で、7,000物件、3,000ホストまで成長した。目標は、ローカル民泊事業者としての独自性を出しながら、「韓国のAirbnbになること」(ジョー氏)。その決め手のひとつとなるのが韓屋だ。「歴史的建物の保全のためだけでなく、宿泊施設不足の解消、外国人観光客向けの文化体験にも有効な素材」(ジョー氏)という点は、日本の古民家再生と同じ発想だ。コザザでは現在のところ約1,000の韓屋を扱っているという。
「韓屋の発掘やリスティングには地元との協力が欠かせない」とジョー氏。誰もが参加できるオンライン上のマーケットプレイスに頼るのではなく、シェアリングエコノミーにおけるキーワードであるコミュニティーの重要性を強調する。地域のホストと地域外のユーザーが形成するコミュニティーが新しい経済活動を創り出し、そこに新たな資本が投下されるという循環がマーケットを拡大させるという。
「今後3年以内に韓国のローカル市場でAirbnbと同等になれれば・・・」。将来は日本市場に参入し、日本の物件を世界の旅行者に向けてリスティングすることも視野に入れている。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹