世界のオンライン旅行会社が注目するタビナカ、その攻略方法は? あのブッキングHDも苦労する理由と、今後の展望を分析してみた【海外コラム】

現地ツアーや体験アクティビティに特化した予約システムで高い評価を受けていた2社が、このほど相次いで大手OTAによって買収された。ブッキング・ホールディングス(旧プライスライン・グループ)は米国のフェアハーバー(FareHarbor)を買収。また、トリップアドバイザーは欧州アイスランド生まれのボークンを傘下に収めることで合意した。クチコミサイトとして知られるトリップアドバイザーは、現地ツアーや体験予約サイト「ビアター」を展開しており、現時点では、タビナカ商品のオンライン販売で最大手となっている。

観光産業ニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」のデスティネーションCTO アレックス・ベインブリッジ氏は、一連の動きについて「地殻変動が始まった」と分析している。ホテルのオンライン予約で世界をリードするブッキング・ドットコムが、いよいよタビナカ体験の取り扱いに本腰を入れ始めた、との指摘だ。確かに、そのような長期的戦略にもとづく狙いがあるかもしれない。しかし、もっと短期的に業界に与える影響についても意識しておく必要がある。

ブッキングが手に入れたものは――

「フェアハーバー」の買収によって、ブッキング・ドットコムは、現地体験のオンライン手配でも圧倒的に強い立場になるのではないか、と注目されている。だが最重要ポイントは、ブッキング・ドットコムが、現地ツアー・体験を提供する事業者向けにソフトウェアサービスを販売するSaaS(software-as-a-service)ビジネスに参入した、という点だ。これは非常に有望なビジネスだ。

フェアハーバーは、まだオンライン販売が浸透していない手つかずの市場において、収益性の高いSaaS型ビジネスモデルを確立し、スピード成長してきた。同社にはまだこれから、もっと大きく成長する余地がある。そして同じことは、同社のライバル企業にも当てはまる。

プライスライン時代を含め、ブッキング・ホールディングスを率いてきた過去の最高経営責任者たち、そして現CEOも、優良ビジネスの買収には常に積極的な姿勢をアピールしてきた。買収の際には、創業経営チームを存続させ、引き続き自由に采配をふるい、成長を継続できるよう支援する方針で知られる。今回も長期的な戦略にフィットするかどうかより、まずは直近の収益増への貢献を期待しているはずだ。(参考動画:2017年フォーカスライト・カンファレンスにおけるプライスライングループ グレン・フォーゲルCEOへのインタビュー)

タビナカ手配OTAは難しい挑戦

もちろん、戦略的には申し分ない組み合わせが実現する。フェアハーバーが提供するコンテンツとの連携が最初の一歩になるだろう。とはいえ、大変なことになったと身構える必要はない。ブッキングはこれまでも、現地アトラクションのチケット手配ソリューションを構築しようとがんばってきたが、その歩みは遅い。タビナカのオンライン手配サービスで、消費者が満足する使い勝手を提供することは、本当に難しい。理由は様々で、そのうち3つについては、以前掲載された記事「Three (of Many) Reasons Why Travelers Don’t Book Activities Online」でも触れた通りだ。

ブッキング・ドットコムがホテル分野でブレイクしたからといって、タビナカでもすぐにライバルを圧倒できるかというと、そう単純ではない。これまでも同社は、ホテルに続く新しい分野を開拓しようと、苦しい試行錯誤を続けてきた。飲食店予約サービス「オープンテーブル」の買収では、減損処理を迫られる状況に。旅行メタサーチや地上交通手配などの事業は重要な分野であり、業績も好調だが、主力の宿泊予約取扱には遠く及ばない。

最後に、今回の買収関連ニュースから、我々が学ぶべき4つのポイントを以下に挙げておこう。

(1)予約テクノロジーはますます重要に

ツアーやアクティビティ催行会社、アトラクション施設などに特化した新しいテクノロジーの登場は、ここ5年ほどで最も大きな進歩を遂げた分野だ。旅行産業のさらなる成長には、消費者にとって快適なサイトを支える技術が不可欠だと言われてきた。そして今回の2件の買収により、オンライン旅行大手が、テクノロジーとコネクティビティを最重要課題と捉えていることが明白になった。最新テクノロジーへの対応が進んでいない企業、あるいはシステムのアップグレードを怠ってきた企業は、時間切れにならないよう要注意だ。

(2)トリップアドバイザーが「ボークン」の新料金で宣戦布告

最も重要視するべき点なのにあまり話題になっていないのが、トリップアドバイザーが採用したボークンの新しい料金体系だ。より多くのユーザーを獲得しようとの狙いから、予約手数料はなんと「0.1%」に。まさに総力戦で流通に斬り込む覚悟で、サプライヤーを自社システム内に囲い込み、ビアターのプラットフォームに接続してもらうためなら、ソフトウェア事業の赤字も厭わない。これは、他の予約システム会社にも大きなプレッシャーになる。採算は度外視の相手とどう競争するか。それが課題だ。

(3)2社のどちらも利用していないサプライヤーの立場は?

トリップアドバイザー、ブッキング、あるいは両社が買収したシステム2社のいずれも利用していないサプライヤーへの影響はどうか。何か不利益を被るかもしれない――、という心配なら不要だ。

なにしろ現地ツアーや体験アクティビティのマーケットプレイスは、あまりにも広く、細分化されており、ダイナミックだ。フォーカスライトの調査「Tours & Activities Come of Age: Global Travel Activities Marketplace 2014-2020」によると、世界中にこうしたタビナカ体験のサプライヤーは12万社以上あり、予約システムのプロバイダーも流通の担い手も、数えきれないほどある。今後、様々な提携が予想されるものの、オンラインでの売り手も、予約システム会社も、――少なくとも当分の間は――お互いが必要だ(何より必要なのは、サプライヤーの存在だが)。

(4)勝負はまだ始まったばかり

状況はまだ混とんとしている。ただし、さらなる買収や統合が進んでいくのは間違いない。

※編集部(注):この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が発表した英文記事を、同編集部から承諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事:Building an activities OTA is not easy - even for Booking.com


著者:ダグラス・クインビー

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