サービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合)は、今年初夏から秋にかけて各地で発生した自然災害を踏まえ、観光産業の復旧・再生に向けた政策要請を行なった。要請先は、国民民主党、立憲民主党、自由民主党観光立国調査会と観光庁長官。サービス連合では東日本大震災の時にも観光庁に対して行なったが、政党への政策要請は今回が初めて。
記者会見で会長の後藤常康氏は、「観光は注目されてきたが、それでも2の次、3の次と思われがち。今回の自然災害の影響は大きく、観光産業を21世紀の基幹産業として育てていくためにも、国会の中でしっかり議論していただきたい。自然災害への対応は観光立国の実現に必要」と理由を説明した。
要請項目は(1)政府が主体となった広報活動の推進、(2)観光産業の維持、需要の喚起に向けた施策の実施、(3)訪日外国人旅行者への的確な情報提供、の3点。日本人の需要喚起や、観光事業者の業績への影響を踏まえた補助や措置のほか、特に今後のインバウンド拡大に向け、被災地域の現状や日本の防災対策、災害時に訪日外国人が必要とする情報提供のための施策を講じる必要性に触れた。
例えば(3)の情報提供では、被災後のパニック状態で冷静に避難勧告や避難場所などの情報にアクセスすることが難しい状況を指摘し、改善策として地域の避難情報を表示するためのQRコードを、電柱や標識、公共交通機関などに掲示することや、人々が集まる駅前ではデジタルサイネージを活用することなども掲げた。
重点政策でも災害時の訪日外国人対応を提言
サービス連合は2018年8月1日に、2018年度の重点政策を策定。このなかで6月の大阪北部地震、7月の西日本豪雨を踏まえ、提言の第1項目として「災害時の訪日外国人旅行者への対応」を掲げていた。
後藤氏はこれについて、「訪日客の安全確保をすることによって、国民生活の安全確保もできる」とし、訪日客対策を重視した観点を説明。自然災害が頻発する日本では、東京五輪とそれ以降のインバウンドの継続的発展を実現するためにも対応整備が急務とし、現状と要望を災害前と災害発生時、災害後のそれぞれの段階について具体的な施策を記載した。
例えば、「災害時アプリ『safety tips』が十分に普及していない」「西日本豪雨では防災無線が『聞きづらい』『放送自体がない』、訪日外国人には日本語の放送を理解することは難しい」などの課題に対し、「国主導での『safety tips』へのアクセス等を記載したマニュアルを作成し、各客室に備え付ける」「防災無線は多言語で放送。特に訪日客の約85%を占める中華圏と韓国の旅行者向けに中国語と韓国語を導入する」といった内容だ。
重点政策ではこのほか、「地球温暖化に対する取り組み」「外国人労働者の受け入れ」「若者の海外旅行の機会創出」の全4項目を作成。若者の海外旅行の機会創出に関しては阻害要因の緩和に向けた優遇施策としてパスポート取得手数料の減免や手続きの簡素化などをあげ、これらの実現には2019年1月に徴収開始となる「国際観光旅客税」の財源活用の検討も求めた。
なお、サービス連合ではこのほど、政策策定における学術的、論理的な裏付けを目的に、一橋大学教授の山内弘隆氏と東洋大学教授の矢ヶ崎紀子氏に政策顧問を依頼した。助言、指導を受けるのは、政策提言(2019~2020年)と重点政策(2019年)の策定、および2021年度の20周年に発表する予定の中期的なビジョンの議論について。
後藤氏は、「サービス連合の政策は働く者の目線を重視したものだが、それを政策という形で昇華させ、しっかり伝えるためにも、観光政策に詳しい両氏を政策顧問に迎えた」と説明。観光産業の従事者が健康で幸せに誇りを持って働ける環境整備がサービス連合の目的であり、そのための活動を今後も引き続き行っていくことを強調した。