「子どもが発熱し、明日の宿泊予約をキャンセルせざるを得なくなった」、「OTAで予約をしたものの、操作ミスで返金不可のプランで決済してしまった」――。誰しも一度は直面したであろう旅行者の悩みと宿泊施設側のキャンセルのリスクする解決するビジネスがCansell(キャンセル)社が展開する宿泊予約売買サービス「Cansell」だ。2016年の事業開始後、同社は宿泊施設に対してキャンセル料を一部保証するプランを導入するなどサービスの拡充を進めてきた。2019年11月からは、キャンセル料保証の対象を訪日外国人にまで拡大している。
日本初の宿泊権利の2次流通サービスを考案したキャンセル社の狙いは何か?インバウンド客数が過去最高を更新続けるなか、キャンセル保証の仕組みは宿泊業界や旅行業界にどのような影響を与えるのか? 同社事業の詳細から今後のグローバル展開まで、代表取締役の山下恭平氏に聞いてきた。
宿泊業界のキャンセル問題に踏み込んだ新たなサービス
キャンセル社が展開する「Cansell」は、予約後に行くことができなくなった日本や海外(一部)のホテル・旅館の宿泊権利をネット上で売買できるサービス。サイトへの出品は無料で、キャンセル社が査定して買い取るか、もとの予約金額より低い値段を自身で設定して売買することができる。宿泊予約が正規のものであるかどうか、キャンセル社が内容を審査したうえでサイトに掲載され、売買が成立すれば、同社がホテルへの名義変更、購入者への予約引き渡しを代行し、出品者には15%の手数料を差し引いた金額が支払われる仕組みだ。
もとの予約金額より低い値段でしか出品できないのは、高額転売を防ぐためだ。実際にサイトをみると、東京ベイエリアの高級ホテルから格安のゲストハウス、地方の温泉旅館までさまざまなジャンルの施設が並んでいる。
宿泊業界でかねてから課題になっていたキャンセル問題に踏み込んだ同社のビジネスモデル。ITのエンタメ畑でキャリアを積んできた山下氏は、「門外漢だけあって当初は正直なところ、市場がどの程度あるかさえ把握していなかった。ただ、実体験からも、旅行者、宿泊施設双方ともにキャンセルが悩みの種のひとつになっているのは確信していた。大企業にとって大きな規模ではなくとも、スタートアップのベンチャーとして十分、市場開拓のチャンスがある新領域になると判断した」と振り返る。
訪日客にも拡大した宿泊施設向けキャンセル保証
在庫を抱えることができない宿泊業界にとって、キャンセルの問題は旅行者以上に頭の痛い問題だ。サービス開始後、宿泊施設や旅行業界関係者からさまざまな課題をヒアリングしたところ、ノーショー(無断キャンセル)による未払いやキャンセル料回収の手間、嫌な思いをするストレスが特に大きいことがわかった。事前カード決済など各種の取り組みが行われているが、まだまだ解決できていないのが実態だ。
キャンセル社は昨年10月から、宿泊施設向けの支援プログラム「Cansell パートナープログラム」を導入。基軸は、無断キャンセルが発生した場合など、パートナーとなった宿泊施設で宿泊者へのキャンセル料が発生した場合にキャンセル料の一部保証を行うものだ。パートナープログラムに入会すれば利用は無料。自社サイト、OTA経由のネット予約が対象で、月3回から、キャンセル請求金額の10~100%を受け取れる。
もっとも、無料で保証されると聞くと、なかには疑ってかかるような宿泊施設もあったのではないだろうか。日本のOTAの中には、同様のキャンセル保証サービスを提供しているところもあるが、自社OTA経由限定など支払い条件はより厳しい。さらに、そもそも宿泊権利の譲渡は問題がないのか。この問いに関し山下氏は、「権利の譲渡自体は法的に問題ありません。宿泊施設に対し当社が名義変更が可能かどうか、直接確認を取るようにしている。これは購入者が買った予約をチェックイン時のトラブルなどで利用できなくなるリスクをなくす目的もある」と説明する。
宿泊施設に無料でキャンセル料を保証するビジネスモデル構築は、保証会社のGardia、大手保険会社と共同開発し、サービス開始まで約2年をかけた。「無料より月額制のほうが、むしろ信頼度が高いのかなど、さまざまな議論を重ねたが、根本的な問題は本来支払うべき人が払っていないこと。お金をいただいて保証しますだけでは最終的に解決にならない。最初は100%当社の投資からスタートしたが、回収を促す仕組みも同時に構築し、宿泊施設に還元するモデルとして確立していく」と山下氏は話す。
全国40都道府県以上の旅連、宿泊施設を直接訪れてサービス内容を説明して回った結果、「こういう仕組みを待っていた」と歓迎する声が増えるようになったという。2019年2月には日本旅館協会から宿泊施設向けの推薦プログラムとして認定。パートナー企業は本格展開から約半年で500社(2019年11月時点)に上り、2022年までに1万社との提携を目指す。
相次ぐ増資、投資家からの高い期待感
2017年1月のDGインキュベーションやカカクコムなどを引受先とする4000万円に続き、2018年にも2億円の第三者割当増資を実施したキャンセル社。市場の期待感が高いことを反映し、キャンセル料保証の対象を2019年11月から、従来の日本人に加え、訪日外国人に拡大した。日本のほか、インバウンドの多い韓国、中国、台湾、アメリカを対象にし、順次拡充していく。
同社はグローバル展開にも積極的に挑戦する。2019年3月には宿泊予約売買サービス「Cansell」の海外展開を開始。7月に世界20カ国、150万軒以上のホテル比較検索ができるようにしたのに続き、全世界での展開を目指す。ホテルのクチコミ管理世界大手「TrustYou(トラスト・ユー)」とも業務提携し、対象国地域の各宿泊施設のページのクチコミ欄に、トラスト・ユーのレビューを掲載している。将来的には多言語サイト、アプリも展開し、本格的に世界へと打って出る計画だ。
山下氏は「日本から海外に出ていくITのスタートアップ企業は非常に少ない。日本だけでもある程度の規模を創出できるのがひとつの理由だろうが、Cansellには世界で戦うポテンシャルがある。キャンセル料保証などホテル側ともコミュニケーションをとりながら信頼性を担保している当社ならではの強みを活かし、多言語化し世界共通で利用できる仕組みを開発してアピールしていきたい」と力を込める。
「中古車市場が整備されているからこそ新車が売れる自動車業界のように、2次流通が元気な業界は1次流通も活発化している」。最終的に宿泊予約のキャンセルが減れば、施設の信用低下や否定的な評価が広まってしまうレピュテーションリスクの減少にもつながる。「Cansellをうまく取り入れることが、これからの業界スタンダードとなり、宿泊施設様のお客様満足度向上、そしてブランディングにもつながるそんなサービスにしていきたい」と話す。
旅行者はもちろん、宿泊施設側のメリットも意識した「三方良し」のビジネスは、宿泊、旅行業界にこれからどのような新しい風を吹かせるだろうか。
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お問い合わせ:info@cansell.com
記事:トラベルボイス企画部、REGION