三重県、ワーケーション誘致を本格始動、ファミリー型や漁村型など地域の特色生かした「みえモデル」で推進

三重県は、首都圏など都市部からのワーケーション受け入れを推進するプロジェクトを本格的に開始する。県内では各地域がそれぞれの特徴を生かした受け入れ体制を整備。ワーケーションを通じて県内経済の活性化や関係人口の創出、将来的には移住の促進につなげていきたい考えだ。

オンラインで開催されたキックオフイベントで三重県の鈴木英敬知事は「アフターコロナでは、仕事やサービスの提供が住んでいる場所の制約から大きく解放される。デジタルトランスフォーメーションを進めながら、個人のライフスタイルやライフステージに応じて、地方と東京の役割を考え直す時だ」と話し、ワーケーションを進めていく意義を説明した。

三重県ではワーケーション推進に向けて、今年4月に知事直轄部局として「デジタル社会推進局」を立ち上げ、民間から「最高デジタル責任者」を迎えた。ワーケーションの課題は多岐にわたることから、プロジェクトは県9部局17課の横断的な取り組みとして進められている。

伊勢神宮の式年遷宮の考え方で、新しい発想や生まれ変わりを意味する「常若(とこわか)」をキーワードに、「みえモデル」を県内各地域で構築。モデルプラン、宿泊施設、ワークスペースなどを提供する県内事業者とワーケーションに関心のある企業や個人とをマッチングするサイトもオープンした。

県内各地域では、それぞれの環境とその土地での体験を組み合わせたプランが用意されている。たとえば、志摩市では家族と過ごす「ファミリー型」、津市では地域課題の解決でビジネス展開を目指す「地域包括型」、南伊勢町では漁村生活を体験する「漁村ワーケーション」、尾鷲市では多拠点居住を進める「還流型」など。また、伊勢志摩国立公園など国立・国定公園の自然の中でのワーケーションも提案するなど、観光と仕事との両面で三重ファンを創出していく。

鈴木知事は、「人材確保・育成、環境整備、情報発信を3本柱として、市町、商工団体、民間事業者などとオール三重で『みえモデル』を進めていく」と意気込みを示した。

三重県の取り組みを説明する鈴木知事企業にとってのワーケーションの意義とは

コロナ禍でテレワークが普及し、それに合わせるようにワーケーションの注目が高まっている。政府も、旅行業界団体も、経済団体もワーケーション推進に動いてるが、言葉だけが踊り、ワーク+バケーションの定義も、方法も、効果も曖昧なままだ。

ワーケーションという概念は、コロナ禍で突然生まれたものではなく、コロナ前から新しいワークスタイルとして模索が続いていた。三重県のキックオフイベントでは、これを踏まえて識者によるトークセッションが行われた。

JALは、2017年に休暇取得の促進と働き方改革の一環としてワーケーションを導入。同社人財本部人財戦略部厚生企画・労務グループアシスタントマネジャーの東原祥匡氏によると、ワーケーション制度を利用する社員は年々増え、2020年度は1月までで、テレワークが可能な社員約2000人のうち約400人、2割がこの制度を利用したという。人事制度として「年数回の特別なことと位置づけると利用のハードルが下がる」としたうえで、「地方との交流が社員の活力になってきた。モチベーションを高めた人は組織の中で重要。企業にとっても財産になる」とワーケーションの効果を説明する。

総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官の箕浦龍一氏は、「非日常の中で誰と会うかが非常に大事。会社に行けば仕事になり、新しいことが生まれると思っている人もいるが、そうではないと考えている人がワーケーションのよさに気づいているのだろう」と発言。Wi-Fiやコワーキングスペースなどハード面というよりも、その土地の「人」との交流による新しい発想の創出がワーケーションの意義だとした。

東海エリアを中心に起業家支援を行っているLEO代表取締役CEOの粟生万琴氏は、今年4月に三重県菰野町にオープンする共創空間「AOU no MORI」について、「非日常の空間で、スタートアップやベンチャーが集い、新たな発想を生む社会実証」と説明。時間と場所の解放に加えて、心の解放もワーケーションにおいては大切だとした。

JALの東原氏は、人材育成の立場から、「若者の価値観を見ていく必要がある。特にメンタルヘルスが大切だろう。企業戦略として、そこにコストをかけていくことも重要になってくる」との考えを示す。

また、総務省の箕浦氏は、ワーケーションの効果測定について、「定量的に測定するのは難しいが、企業目線で何に活かせるのか、その狙いを会社として定義することが大切ではないか」と提言した。

トークセッション(左から)モデレーターを務めたスパイスアップ・ジャパン代表取締役の豊田圭一氏、JAL東原氏、LEO粟生氏、総務省箕浦氏一方、受け地である地域にとってもワーケーションは地域活性化の大きなチャンスだが、誘致に向けた差別化は難しい。どの地域も、観光客誘致と同様の考え方で、魅力を発信するからだ。

箕浦氏は、地域でワーケーションの誘致に取り組む友人の話として、「ワーケーションで人を呼びたいなら、地域の魅力ではなく、地域の課題を発信するべき」という声を紹介。観光色の強いワーケーションではなく、地域課題を探し、その解決に取り組む一歩踏み込んだワーケーションの形が、企業と地域の双方にとって意義が深いとした。

LEOの粟生氏も「三重は日本の課題の縮図」としたうえで、AOU no MORIの存在意義として、地域の課題解決を挙げ、将来的にはスタートアップだけでなく、大企業のオープンイノベーションの場にしていきたい考えを示した。

JALの東原氏は、2018年に徳之島で実施したワーケーションの実証事業を紹介。「雇用が課題の徳之島で、観光客を誘致するためには何ができるのか、地元と参加者が考えた。地域の実情が分かれば、どこに飛行機を飛ばすのがいいのか分かってくる」と話し、地域課題の解決と本業との相乗効果にも期待を寄せた。

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