日本政府は日本への入国者制限を1日1万人にまで段階的に緩和し、2022年4月1日から感染症危険度レベルをレベル2に下げた。その後、筆者はハワイへの日本旅行業協会(JATA)視察団に同行して2年半ぶりに海外取材に出かけた。久しぶりの海外渡航を体験し、「海外旅行は、まだまだハードルが高い」という現実をまざまざと実感した。渡航前、現地滞在中、帰国後でのその顛末をリポートする。
渡航前チェックリストを作って、必要書類を準備
まず、渡航前には、さまざまな書類を準備する必要がある。
ハワイへの渡航で必要な書類は、PCR検査の陰性証明、自治体が発行するワクチン接種証明、米疾病予防管理センター(CDC)が航空会社に確認を義務付けている宣誓書とコンタクトシート。PCR検査は、アメリカの場合、渡航日の1日前(出発時刻ではない)の検査での陰性証明が必要となる。
価格は場所によってさまざまだが、筆者の場合、ハワイ州観光局(HTJ)推奨の病院が自宅近くにあったため、そこで検査を受けた。検査料3万円と発行料5000円の3万5000円。ちなみに羽田空港第3ターミナルの東邦大学は2万円。いずれにせよ、高額で、たとえば家族4人旅行だと、検査料だけで10万円ほどかかる計算になる。
また、ワクチン接種証明の取得にも注意が必要だ。マイナンバーカードを持っていれば、デジタル発行が可能だが、取得していない場合は、紙での発行になる。マイナンバーカードがない場合、筆者の居住地では、郵送のみの申請で、発行には1週間から10日がかかる。ちなみに、総務省のデータによるとマイナンバー取得率は約4割だ。
用意した複数の書類の確認のために、羽田空港でのチェックインにも時間を要した。それほど長い列ではないにも関わらず、カウンターを離れるまで約1時間。列に並びながら、ふと思い出しのは、ワクチンパスポート(デジタル陰性証明)の存在だ。昨年、航空各社はさまざまなデジタルパスポートの実証を行い、「海外旅行の切り札」として期待されていたが、海外旅行の再開に向けて動き出そうとしている現在、その姿は見る影も無い。
滞在中も帰国に向けてやるべきことを忘れずに
ホノルルのダニエル・K・イノウエ国際空港に到着。ちょうど韓国からの便と重なり、そのゲートから多くの観光客が降りてきた。聞くと、韓国では入国規制がかなり緩和されているという。入国審査の列に並びながら、どれくらいの時間がかかるのかと不安だったが、コロナ前と変わらない印象だ。係官からの質問も通常通りで、何日滞在するのか、渡航目的を聞かれただけだった。
別室に連れていかれる人もいるが、それがコロナ関連なのかどうかは定かではない。とにかく、拍子抜けするほどのスムーズさで、心配は杞憂に終わり、ターミナルからハワイの青空の下に出ることができた。
そして、すぐにマスクを外した。ハワイではすでに昨年5月から屋外でのマスク着用義務が解除され、今年3月26日からは屋内でのマスク着用義務も撤廃されたのを知っていたからだ(空港などの公共施設内では着用が推奨されている)。久しぶりに屋外でマスクを外す開放感と同時に、ちょっとした罪悪感も覚えたのは、日本でマスク生活に慣れてしまっていたからだろう。
現地滞在中、日本への帰国に向けての準備を進める必要がある。まず、ホノルル出発前72時間前のPCR検査。厚労省認定の医療機関に予約を入れ、鼻腔ぬぐい液を検体とするRT-PCR検査を受けた。15分ほどで結果が出て、陰性証明書を受領。料金は160ドル(約2万円)。ほぼ日本と同等の値段だ。
次に、日本への入国手続きをスムーズに行うために、厚労省の「MySOS」アプリへの登録を進める。質問票と誓約書を画面上で完了させ、陰性証明書とワクチン接種証明書の写真を撮り、それぞれアップロードする。登録内容が審査され、すべて完了すると、画面が赤から緑に変わった。これで一安心。コロナ禍でのデジタル活用による入国は、これまでにない経験のため、ワクワク感さえ覚えた。
到着後、「なぜ?」ばかりの入国手続き
ワクワク感は、日本への入国手続きの中で打ち砕かれることになる。ハワイでの入国のスムーズさとは、まったく別次元の疲労感が溜まる手続きを体験したからだ。
復路の成田便は、成田空港に16時57分に到着した。まず、乗り継ぎ客から機外へ。成田での入国者はしばらく機内で待機した。
航空機を降りると、コンコースで待たされ、その後に誘導されたのが、ファストトラックのカウンター。アプリのQRコードで認証するだけかと思ったら、簡単な質疑応答の後、なぜか、そこでは「紙」で「ヘルス(健康)カード」を渡された。便名、2週間以内の滞在国、陰性証明書の確認、3回目ワクチン接種証明書の有無、入国後の待機の有無(3回目接種済みはなし)。アプリで登録したことばかりだ。ここでペーパー化する意味が分からず、パスポートとスマホ、ヘルスカードと厚労省からの注意事項の「紙」を持ち歩きながら、混乱する。
QRコードを認証機器にかざせば、そのまま入国できるとばかり思っていた。QRコードとはそういうものだと思っていた。「MySOS」の存在意義が薄れていく。QRコードの利便性はどこにいったのだろうか。
このあと、唾液による抗原検査へ。ホノルル出発前に、160ドルを支払って検査を受けているが、出発72時間前から航空機への搭乗まで、あるいは機内での感染を疑っているのだろう。入国者全員を「感染の疑いがある者」とすることが大前提となっている。
腕時計を見ると、18時13分。ここまでで到着してから約1時間15分が経過していた。
次に向かったのは「二次受付」。ここでも、QRコードの認証と、パスポートと連絡先の確認を口頭で行う。これが行われる意義が見いだせず、水際対策もここまでくると、滑稽に思えてきた。到着した人たちは全員、帰国前の検査で陰性が前提だが、3密状況の中での接触機会は増えるばかりだ。
さて、ここからがまた長かった。抗原検査の結果を待つまで待機。時刻は18時30分を過ぎた。待っているあいだ、することもないので、後ろに座っている外国人に話しかけてみた。彼は、インドネシアからの留学生だという。「ずっと日本に行きたかったのですが、やっと来れました」と流暢な日本語で教えてくれた。「これまではオンラインでの交流だったので、これから楽しみです」。
ただ、彼も疲れ切った様子だ。筆者もイライラ度が増していたが、ため息をしながらこの状況を「仕方ないですね・・・」という彼に、なんだか申し訳ない気持ちになった。待ちに待った日本留学なのに、スタートがこれでは・・・・。
検査の結果が出たのは19時38分。そこから、やっと通常の入国手続きに進んだ。顔認証でスムーズに。当然ながら、受託手荷物はすでにターンテーブルの横に整然と並べられていた。税関を抜けて、到着ロビーに出ると、なぜかまた、パスポートの裏に貼られた検査番号の確認。再び、何の意味があるのかと憮然としながら、時計を見るとちょうど20時になっていた。
航空機到着から3時間が経過していた。これが、日本のファストトラック・・・・。事情があって「MySOS」を利用していない人は、どうなったのだろうか。この日の最終便で到着した人はその日のうちに帰宅できたのだろうか。
まだまだ海外旅行や訪日旅行へのハードルは高い。それは、ほぼすべて日本側の問題だ。2回のワクチン接種を完了した旅行者には到着後隔離を免除し、入国のためのPCR検査を求めない国も増えているなか、事実上「まだ海外には行くな」「まだ日本には来るな」という状況が続いている。
トラベルジャーナリスト 山田友樹