ジャパネットが拡大する旅行事業の次の一手を聞いてきた、高級クルーズ、国内ツアーの仕入れや販売手法まで

通販会社「ジャパネットたかた」を展開するジャパネットホールディングスが、第1種旅行業登録をして旅行事業に本格参戦したのは2017年のこと。以降、外国客船による日本発着クルーズのチャーター販売で成長を続け、2023年は乗客定員5568名の大型客船「MSCベリッシマ」のフルチャーターを計13本設定するまでに拡大してきた。なぜ、同社は、専門知識が必要といわれるクルーズ販売で顧客のニーズをつかみ、日本のクルーズ市場に新たな需要を呼び込めたのか? そして、旅行事業を拡大する理由は?

今年3月には、これらの業務を担ってきたジャパネットサービスイノベーションから旅行事業を独立させる形でジャパネットツーリズムを設立。販売する客船ブランドを追加するほか、国内旅行のツアーや宿泊販売も開始も予定している。

「家電と旅行は、大きく乖離している商品だとは思っていない」と話すジャパネットツーリズム代表取締役社長の茨木智設氏に、ジャパネットグループにおける旅行事業の位置づけから、販売商品としての「旅行」の利点、さらなる成長への次の一手まで話を聞いてきた。

顧客主義の商品開発

ジャパネットのクルーズ事業を立ち上げた茨木氏は、旅行商品としてクルーズを扱うことに「特別感はなかった」と話す。

その理由は、クルーズ商品はジャパネットがこれまで販売してきた商品の基準にあっていたからだという。「我々が扱う商品として重視するのは、お客様の人生を豊かにする商品であること。世の中に知られていない商品を、メディアを使って伝えるのが当社のポリシー。乗客がそれぞれのスタイルで休暇を過ごせるクルーズは、我々が提供したい価値として相性が良かった。何より、顧客層との親和性も高かった」(茨木氏)。

ただし、販売にあたっては「品質の担保やその伝え方、品質改善は、ジャパネットのノウハウが必要」とも感じたという。

ジャパネットでは、販売商品を「ジャパネットオリジナルモデル」とし、顧客層にあわせた“チューニング”をすることが多い。例えば、パソコンは次々と高スペックの商品が開発・販売されているが、「当社のお客様は年賀状や書類作成、印刷を用途とする方が多く、スペックが過剰な場合もある。当社では、そこはかなり気を付けてオリジナルモデルを開発している」(茨木氏)。

この顧客主義の商品開発は、クルーズでも同じ。MSCベリッシマのチャーターでは、通常はクルーズ代金とは別払いとなるドリンクパッケージ(アルコール類など対象の有料ドリンクを規定分まで飲み放題とするセット料金)のほか、寄港地の港から市街地を結ぶ「ジャパネット循環バス」を用意し、旅行代金に組み込んだ。

茨木氏は「船上でのビールやカクテルは船旅気分を上げるが、それを気軽に楽しめるようにしたい。寄港地でも、市街地への移動が大変。お客様が『旅行購入後も、度々お金が必要になった』という印象を受けないようにしたかった」と、同社の顧客の多くを占めるシニア層がクルーズをより楽しめることを第一に工夫をしたと明かす。

ドリンクパッケージや寄港地のシャトルバス、ツアーは、本来、船会社の大切な収入源のひとつ。それでもジャパネットは交渉した。

「当社と同じゴールに向かってくださる企業としか、(顧客向けの商品を)作り上げることはできない。MSCクルーズ社と長年いい関係を構築できている理由は、そこにある。日本でのクルーズでは日本の文化を取り入れて良くしていきたいと考えていらっしゃるからこそ、我々の改善も快く受け入れていただいた。それが、お互い進化できているポイントだと思う」。

ジャパネットツーリズム代表取締役社長の茨木智設氏

こうした取り組みによって、同社が提供するクルーズの参加者うち約8割が、クルーズの初心者という結果となった。長年、リピーターが支えてきた日本のクルーズ市場に、ジャパネットが新しい需要を呼び込んでいるのは間違いない。

「参加者のアンケート結果を見ると、当社のクルーズに乗船するために初めてパスポートを取得したお客様も少なくない。これをきっかけに次は海外旅行へなど、お客様の世界が広がっていくことを想像すると感慨深く、それもまた我々の価値だと思う。当社のチャーターとは別のクルーズに乗る方もいると思う。それを含めて、お客様に喜ばれ、旅行業界が盛り上がるならいいことだと思う」と、茨木氏は話す。

事前仕入れだからこそ本気で売れる

旅行はジャパネットが通常販売している商品と異なり、時間と空間を売る在庫のきかない商品。時間が経過すれば、在庫は消えてなくなる。乗客定員5000人という大型客船「MSCベリッシマ」をチャーターすることに躊躇はなかったのか。

一般的な日本の旅行会社は、販売実績に応じたコミッション(販売手数料)収受がビジネスとなる。それに対しチャーターは契約した数を事前に買い取るため、売れ残った場合のリスクを背負うことになる。

チャーターすることに躊躇はなかったか?という質問に対して茨木氏は「当社はもともと(家電商品など)すべて事前仕入れ。その単位も、1~10万個という数を約束する。なので、チャーターに大きなリスクを感じることはなく、いつもの当社のビジネスと変わりない」と話す。

そして、同社の商品仕入れに対する考え方について「事前仕入れは相当な覚悟と選定が必要であり、仕入れた後も売るための相当な努力が必要。だからこそ、売り切るために顧客にあった商品改善が必要であり、お客様には全力でその商品の良さを伝える。バイヤーの本気度が違う。もし、販売手数料を取るビジネスをするのであれば、売れた分だけでよいという気持ちがベースになると思う 」と強調した。

旅行商品には、特有のメリットも感じているという。「当社から見れば、旅行商品は仕入れから旅行実施までリードタイムがある。一方、家電製品などはオリジナルモデルの完成後、すぐ別の新商品が販売されることもあるため、できるだけ早く売り切る必要がある」。

ジャパネットのチャータークルーズ:同社ホームページより

クルーズは超高級分野に進出

旅行事業の専門会社「ジャパネットツーリズム」として歩みだした今年、クルーズでは2024年に新たなチャータークルーズを実施する。客船は、欧州に拠点を置くシルバーシー・クルーズ社の「シルバー・ムーン」(乗客定員596名)だ。

スモールラグジュアリークルーズである同社のクルーズは、カジュアルクラスのMSCクルーズ社よりも高額。ホテルやレストランの各部門で最高級の商品とサービスをオールインクルーシブで提供し、世界の富裕層の支持が高い。ジャパネットはこれまで通り、顧客を見据えて“チューニング”をする予定だ。

その1つは、船内で提供される日本食。「船内の食事は本当に美味しいのだが、当社の独自のサービスとして日本食のレストランを設計したい。洋食が最高だからこそ、日本人でも日本食を同じレベルで美味しいと感じるようにしたい」(茨木氏)。具体的には、格式のある料亭の船上店を開くイメージで、ジャパネットがそのシェフを乗せることも計画しているという。

また、寄港地観光にも力を入れる。「どの外国客船もそうだと思うが、外国のメイン市場をターゲットに組んでいるツアーが多い。日本の寄港地観光を日本人向けに出すなら、特別な体験ができるツアーを組みたい」という考えだ。

こうした考えと、船会社の理解と協力のもと「日本人のお客様にとっては、通常のシルバーシー社の日本発着クルーズよりも、いいツアーになると思っている」と茨木氏は自信を示す。「だから、安売りはしない。むしろ高いと思われるかもしれない。少なくとも、シルバーシー社の料金より低くはならない」とも明かした。

想定する販売金額は、約9~10日間のクルーズで1室あたり約300万円(最多客室クラスの場合)。特別体験を組み込む寄港地観光は、オプション設定とする。販売手法はMSCベリッシマのチャーターとは異なり、テレビの地上波では原則、紹介しない方針。まずはジャパネットのクルーズのリピーターを中心に、質感あるDMでラグジュアリーなチャータークルーズの案内を開始。すでに手ごたえのある反応を得ているという。

茨木氏

国内旅行の仕入れや販売もジャパネット流で

さらにジャパネットツーリズムでは、国内旅行の販売も開始する。扱うのは、フライトと宿を組みあわせたパッケージツアーと、宿泊施設の単体予約。パッケージツアーの場合、2泊3日で10万円程度の価格帯を想定する。そしてこの分野でも、従来の旅行業における商習慣とは異なる考えでの仕入れ、商品造成、販売の道筋を描いている。

例えば、仕入れはクルーズ同様「買取契約」を視野に入れる。宿の規模にもよるが、閑散期の平日に施設の客室を全て買い取ることもあり得るという。「需要が低い時期に安く出してもらうことで全部仕入れれば、宿泊施設もお客様も喜ぶ」と茨木氏。「まとめて買い取る覚悟はある。それを一緒に取り組んでいただける宿泊施設があれば、ぜひ一緒に進化していきたい」と力を込める。

一方で、旅行販売に関しては「1週間くらいでどこかに行きたいと考える人も多いと思うが、多くの旅行サイトでの商品検索は、最初に旅行先を選択する必要がある」と話し、一般的な旅先が決まっている前提での旅行販売とは異なる手法をとる可能性も匂わせる。

さらに、ジャパネットツーリズムでは、グループが2024年の開業に向けて進める地域創生事業「長崎スタジアムシティ」プロジェクトの旅行事業も担う。「長崎以外から域内へ送客する。そのためにも、長崎の魅力的な観光ツアーづくりもミッションだと思っている」と話す。

ジャパネットの旅行事業は、クルーズ販売で大きな注目を集めたが、商品ラインナップを拡大し、さらには地域創生事業まで、じわりと存在感を高めている。

聞き手 トラベルボイス編集部 山岡薫

記事 山田紀子

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