生成AIに関する話題は大げさすぎる。現段階では、まだ正確さやセキュリティの問題を抱えている技術だ。とはいえ、こうした問題点も数年以内に解決されて、ホテルのレベニューマネジメントは大きく変わるだろう――。
ホテル各社は、人工知能(AI)を導入すると、宿泊レートの価格決めがもっとうまくできるようになるのではと期待している。いわゆるレベニューマネジメントの領域は、予測に頼っており、大変革の機は熟している。
ものごとが変わるには、ある程度の時間がかかる。ホテルのレベニューマネジャーは、今の生成AIのセキュリティや信頼性をまだ心配している。だが数年後には、ソフトウェアメーカーが問題を解決し、ホテルに効率的な手法をもたらすだろう。
「今ある生成AIアプリケーションの多くは、問題解決の糸口を探すものという印象だが、レベニューマネジメントは、絶好のユースケースになる」と話すのは、ジェフ・エドワーズ氏。もとIHGの経営幹部であり、現在はコンサルタントをしている。「大量のデータが必要で、人間がリアルタイムで対応するには、あまりに複雑すぎるからだ」。
信頼を醸成する
AIが自動的に算出するおすすめレートが、ホテルの意思決定者からも信頼されるようになれば、状況は大きく前進するだろう。
現行のレベニューマネジメント・ソフトウェアは、表やスプレッドシート形式になったものが多く、その解釈は、担当マネジャー次第だ。
「ベンダー各社には申し訳ない話だが、結局、コンピュータが提示するおすすめレートは採用しないホテルが多い。充分な信頼がないからだ。特に、日程が近くなればなるほど、不安になる」とエドワーズ氏。
だがAIであれば、マネジャーがチャット形式で質問し、そのレートの根拠などについて、シンプルな言葉で確認することができる。こうしたやりとりを重ねることで、AIの提案レートに対するホテル側の信頼が高まるのではないか。
生成AIのメリットは、組織トップまでレベニューマネジメントに関するインサイトが行き渡ること、と話すのは、Duetto社の最高プロダクト責任者、ダレン・コッホ氏だ。同社のプライシング関連ツールは、4000軒以上のホテルおよびカジノリゾートで利用されている。
「一般的に、アセットマネジャーとオーナーが市場での取引価格、資産価値を把握しているはずなのだが、その認識が極めて不正確ということがある」とコッホ氏は指摘する。
「こうした人たちは、『チームがきちんとやっていないからだ、一晩当たり1000ユーロは稼げるはずなのに!』などと考えている。だが将来は、コンピュータが彼らに説明してくれるようになるかもしれない。ゲストのレビューや各種スコア、コメントを分析した結果、その平均値の低さがレートに影響しています。客室のリノベーションが必要です、とね」。
ソーシャルメディアの画像が価格予測を左右する?
ホテルのソフトウェアサービス会社、Shiji Americasの上級副社長、ライアン・キング氏は生成AIについて、人間では気が付かないことまで情報源として活かし、需要動向のシグナルを見つけ出すことができると指摘する。
「技術が進歩したことで、AIが処理したり、組み立てられるデータ量は飛躍的に増加。以前よりも多くのデータを読み込み、分析し、プライシングに役立てることができる」。
事例の一つが、ソーシャルメディアに投稿された画像だ。将来的には、そこから旅行者の嗜好トレンドを割り出すことができるかもしれない。
今のホテルシステムで典型的な手法は、客室タイプ別にレートを決めること。例えば、クイーンサイズ・ベッドの置いてある客室など。だが今後は、テクノロジーの進化により、客室一つ一つのダイナミック・プライシングが可能になるかもしれない。例えば、同じ客室タイプでも、他より広い角部屋の画像は、ソーシャルメディアでよく使われている。つまり、少なくとも理論上は、他よりも高いレートで然るべきだ。
「頻繁に画像がシェアされている部屋や、他より多く写真が投稿されている客室タイプがあるか考えてみてほしい。こうした客室は、他より需要が高いということ」とキング氏は説明する。「レベニューマネジメント・ソフトウェア(RMS)のプラットフォームでも、認知度が高い特定の部屋には、別レートを設定してもよいかもしれない」。
つまり、非構造化データも分析できるAIモデルが登場したことで、ホテルのプライシングは全く違うものになりうる。
旅行テックのスタートアップ、Flyr系列のPace Revenue共同創業者兼最高執行責任者のジェイソン・ピント氏は「特に生成AIは、テキストから画像、動画まで、コンテンツの扱いが非常に得意だ」と話す。
ホテル・プライシングのより良き未来とは
現行のレベニューマネジメントは、アンシラリー(付帯サービス)など、宿泊費以外の売上の取扱いに手間がかかる点も問題だ。
「生成AIならば、レベニューマネジメントをより精密に分析できる」とエドワーズ氏は指摘する。「例えば、この顧客は宿泊以外にも色々なサービスを利用し、レストランで食事もしてくれる。当社のロイヤリティプログラムでの会員ステータスはXクラス。それなら相応のレートを・・・、といった対応が可能になる」。
よくあるソフトウェアの分析は、ある日の需要動向を予測し、それに合わせてレートを上げるべきか判断すること。しかし、間際予約が多い高単価のビジネス客や、宿泊以外にも多くのサービスを購入してくれる婚礼のお客様に備えて、いつまで客室在庫を残しておくべきかは、ソフトウェアだけでは判断が難しい。
Pace Revenueのピント氏は、AIがもたらすレベニューマネジメントの変化について、大きな意味では、ルールに基づく手法から「確率論的な」手法へ変わることだと表現する。この分野がもっとダイナミックになり、ほぼリアルタイムに近い対応が可能になる。ホテルは、とにかく客室を埋めるのではなく、ゲストの収益性にもっと目を向けるようになる。
SEOより生成AI最適化(GAIO)?
レベニューマネジメントの要は、複数ソースから宿泊客を獲得するために必要なコストだ。これまで空室が多い時は、OTAを頼ってレジャー客を集めていた。すると売上は伸びるが、コミッション支払いが発生して収益率は低下し、時には利益を相殺することもある。
生成AIを使えば、利益を度外視した集客に頼らずに済むかもしれない。
また、宿泊客を獲得する手法も、まったく違ったものになるかもしれない。OTAやグローバルなホテルグループが世界展開するマーケティングにおいて、圧倒的な影響力を持つのはグーグル検索だ。だがもし、オンライン検索に替わり、大規模言語モデルを使った新しいチャット形式の検索が広く普及したらどうなるだろう?
「どのようにビジネス化できるかが未知数なので、まだ話をするには時期尚早。とはいえ、検索の在り方は確実に変わる」とホテル関連のデータ分析会社Kalibri Labsの共同創業者兼CEO、シンディ・エスティス・グリーン氏は話す。「検索エンジンへの最適化やデジタル広告に替わり、別のコストや手法が必要になるだろう」。
旅行者の検索方法が変われば、生成AIへの最適化(GAIO)が議論されることも想像できる。
「ブッキングドットコム他の話によると、グーグル検索で上位に表示されるために、コスト効率が良い方法という。特に中小ホテルや独立系ホテルにとって重要だ」とピント氏。「こうした事業者が知りたいのは、予約システムに搭載された生成AIには、どんな質問があり、その回答の中に自社ホテルが入るようにするノウハウだろう。自社ホテルに関するマーケティング・コンテンツ作りを工夫すれば、効果が上がるのだろうか?」
ホテルのレベニューマネジメントで起きる地殻変動
生成AIが約束する未来は壮大だが、実現にはあと数年かかる。とはいえ、幸先の良い兆しは見えている。
ホテルのソフトウェアシステムを手掛けるCloudbeds社では、すでに生成AIツールを業務運用で利用している。コード作り用の生成AI、GitHub Copilotと、コピーライティング用のJasperだ。顧客サービス・リクエストの分析でも、生成AIを取り入れている。
「上記3つの領域では、生産性がそれぞれ10~20%ほど高くなる好結果につながっている。CEOである私としては、非常に満足している」とCloudbeds創業者でもあるアダム・ハリス氏。「当然、これ以外の領域でもポテンシャルの大きいテクノロジーだと期待している。レベニューマネジメントもその一つ」と話す。
一方、アナリストの中には、生成AIがレベニューマネジメント分野で急速に普及するのか懐疑的な声もある。
「オープンAIがチャットGPT3で経験したようなビッグバンが起きることは考えにくい」とコッホ氏は見ている。「特にホテル業では、まずありえない。データもテクノロジーもばらばらだからだ」。
言い方を変えると、レベニューマネジメント・システムの優劣は、読み込ませるデータの優劣で決まる。だが現状では、大半のホテルで、使用しているデータがまだ不十分だ。複数のシステムを組み合わせているところが多く、システムごとにデータがサイロ化しているからだ。中には、ホテル内でしか閲覧できないものもあり、クラウド上で活用できないなど、データ統一がうまくいっていない。
こうした状況は、むしろチャンスという考え方もある。いち早くデータを統合し、生成AIを導入できれば、より収益性の高い需要を囲い込み、ライバルと大きく差をつけられるかもしれない。
一方、不正確な情報やセキュリティ不安など、AIが生み出す「幻覚」も懸念されている。
ブルームバーグTVのインタビューで、チョイス・ホテルズの最高情報責任者、ブライアン・カークランド氏は「商取引に利用するためには、安全性を徹底する必要がある」と指摘する。「プライベートなデータセットはどう扱うのか。回答内容のキュレーションは?」。
同氏は「商取引でも使えるようにする方法を、皆が必死で考えているところだ」とカークランド氏は話す。「ビジネスのやり方を、全く違うものにするだろう」。
Duettoのコッホ氏も同じ意見だ。「今は、多くの情報が偏っているが、徐々に改善されると思う」と同氏。「まだ感情論も多いが、より事実にもとづいた議論になっていく」と見ている。
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Hotel Experts Say AI Will Make Room Pricing More Profitable
著者:Sean O'Neill氏