観光分野の生成AI活用状況は? グーグル年次カンファレンスにJR東日本、星野リゾート、LINEヤフーが登壇

Google Cloud(グーグルクラウド)が2024年8月1日、2日、年次カンファレンス「Google Cloud Next Tokyo ’24」を開催した。生成AIをテーマにした初日の基調講演の顧客事例にJR東日本と星野リゾート、LINEヤフーが登壇。観光分野での生成AIの活用が着実に進み始めていることを印象付けた。

JR東日本が生成AI活用の旅行計画支援サービス

JR東日本の代表取締役副社長、伊勢勝巳氏(イノベーション戦略本部長 CTO・CDO・CIO)は、2024年7月29日に全世界に向けて発表した訪日外国人向け旅行計画支援サービス「JR East Travel Concierge」に、Google(グーグル)の最先端の生成AIモデル「Gemini 1.5 Pro」を搭載していることを説明。世界での実証実験を開始した。

同サービスはユーザーとのチャット形式の対話や過去の体験などに基づき、ニーズに即した「スポット提案」「情報提供」「旅程生成」をおこなう。Gemini 1.5 Proによって、対話をしながらユーザーの反応を取り入れていくことで提案内容を絞り込み、よりパーソナライズされた情報や体験をタイムリーに提供できるのが特徴だという。

同サービスは、本社内の「Digital & Data イノベーションセンター」(DICe)で、グーグルの支援とグーグルクラウドとの連携のもと、開発した。

伊勢氏は、外国人旅行者が急増する一方で「言葉の壁や文化の違い、地方に関する情報の不足など課題が多く、それは地方経済の発展機会を逃していることを意味する。弊社の観光戦略にとっても大きな課題」と指摘。この解決に向け、「生成AIの力を借りて、日本での旅行の幅を広げて安心感を提供し、地方の良さを堪能していただく」と話した。

このほかJR東日本では、主要駅や地下街、駅構内の案内をするアプリや、電車の遅延を加味した経路検索などにもGoogleの技術を活用している。また、DICeは2023年に、社員によるデータ利活用や生成AIの活用、アジャイル開発、データガバナンス等の推進を目的に設置しており、デジタル活用した業務変革による成長戦略に力を入れているという。

JR東日本 代表取締役副社長 イノベーション戦略本部長 CTO・CDO・CIO 伊勢勝巳氏

星野リゾート代表が考える、生成AIのメリットと向き合い方

生成AIのGeminiをGoogle Workplaceで活用できる「Gemini for Google Workspace」の導入企業として登壇した星野リゾート。代表の星野佳路氏は、「生成AIをいち早く導入し、社員に早く慣れるように徹底するという意思決定をしている」と説明。「生成AIは観光産業を変革する。ここに迅速に参入することが、次の成長と競争力の維持につながる。生成AIを味方にし、パートナーとして持つことが重要だと思っている」と強調した。

星野氏は、生成AIを導入する理由を4つの観点、(1)外国語、(2)正確性、(3)固定観念からの脱却、(4)創造性の刺激、で提示。

特に(3)固定観念からの脱却については「スタッフの日々の小さな意思決定に重要」と話した。なぜなら「大きな意思決定では市場調査を入れるが、小さな意思決定をスタッフがするときには予算も時間も限りがあり、各自が自分の感覚を信じるしかない。私はそれがボトルネックになると思っていた」(星野氏)。実際のマーケットでは個々の感覚とは違うことが起こっており、「固定観念をいかに脱却できるか、生成AIに期待している」と話した。

一方、星野氏は、生成AIを導入することで、それまで要していた時間とエネルギー、コストを「違う分野にかけられるようになる」とし、その対象も(1)国語力の表現、(2)発想をひねる、(3)選択肢を外す、(4)個性の表現、の4つを提示。「生成AIはマーケットの全員が手に入る道具。オリジナリティ、自分の戦略をどう出すかが重要になってくる。生成AIが出す選択肢の中から何を選ぶかの決定や、ブランディング、パーソナリティの表現は、我々自身でしなくてはならない」と説明した。

そして星野氏は、「これらは経営の仕事」と説明。今まで社員がしていた仕事を生成AIがしてくれることで、「これからは社員一人一人が、経営の観点で仕事ができるようになる」と、最大のメリットを話した。

星野リゾート代表 星野佳路氏

LINEヤフー、トラベルでも利便性の高い購買体験へ

顧客事例の先陣で登壇したLINEヤフーは、上級執行役員生成AI統括本部長の宮澤弦氏がコマース領域での取り組みを紹介。Yahoo!フリマサービスで、テキストや画像など複数の情報を処理できるVertex AI Gemini APIを利用し、ユーザーの出品時に入力した商品名やカテゴリ、画像から、商品説明文を自動生成できる機能を提供。出品の簡易性を高めている。

その結果を検証したところ、従来利用していたモデルよりも、文章の生成速度が平均4秒と約5倍速くなり、クオリティも改善。出品完了率も3%向上したという。

宮澤氏は「当社は複数のサービスを繋ぐことができるのが生成AIの強みと考え、より快適なユーザー体験を見出していきたい」と表明。検索領域でも、Yahoo!トラベルやYahoo!ショッピングで、チャット形式での購買体験の提供を予定していることを明かした。

LINEヤフー 上級執行役員 生成AI統括本部長 宮澤弦氏

生成AIは「試す」から「使う」段階へ

基調講演で先陣を切って登壇したグーグルクラウド日本代表の平手智行氏は、「生成AIを駆使し、日本のビジネス変革を加速するために邁進したい」と意気込むと同時に、「ビジネスの現場では、AIは試す段階から使う段階に確実にシフトしている」と、多くの企業でAIの活用が進んでいることを強調。その基盤となるのが、大容量のコンテキストの扱いが可能で、かつ、テキストや音声、画像、動画など異なる形式のデータを同時に処理できる生成AIのGemini 1.5 Proであるとアピールした。

また、その活用方法も「モデルの活用に注力するフェーズから、生成AIエージェントの活用へと急激に移行している」と説明。AIエージェントとは、特定の目的を達成するために、人の介在なしに複数のタスクを考え、実行する自律型のシステムのこと。

LLM(大規模言語モデル)単体では、メールのドラフト作成や会議の要約など、特定のタスクの実行のみに留まるが、平手氏は「AI エージェントを通じて既存のアプリケーションと連携することで業務全体をカバーでき、業務効率化や自動化が実現される」とし、今後は企業において生成AIエージェントの構築・活用が本格化していくと話した。

そしてグーグルは「大胆かつ責任あるAI」という理念のもと、「Geminiをはじめ、ビジネスの現場で信頼して使えるAIアプリケーションを開発運用するためのフルスタックのサービスラインナップを提供している」とアピール。平手氏をはじめとするスピーカーが、Google CloudとGoogle Workspaceの最新製品をはじめ、各種サービスを紹介した。

グーグルクラウド日本代表 平手智行氏

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