ウェルネスツーリズムの最新動向を取材した、注目すべき3つのテーマから、Z世代の強い関心まで

アジア太平洋旅行協会(PATA)は、「ウェルネスツーリズムにおけるアジア太平洋地域の可能性」をテーマとしたウェビナーを開催した。観光市場でウェルネスツーリズムが成長分野として注目されるなか、市場調査会社ユーロモニターインターナショナル社の専門家による最新の調査結果をもとに、観光市場の動向と同地域とウェルネスツーリズムの成長見通しを示した。

持続可能性との連動が不可欠

ウェビナーでは冒頭、PATAのノア・アハマド・ハミドCEOが、現代の旅行者は健康を向上させる体験を求めていると指摘。「アジア太平洋地域(APAC)の豊かな文化や自然、地域に伝わる知恵がそのニーズに応えられる」とし、ウェルネスツーリズムが長期滞在や持続可能な観光、地域社会とつながることへの期待を述べた。

PATAのCEO、ノア・アハマド・ハミド氏

ユーロモニターインターナショナル社の旅行調査部門責任者キャロライン・ブレムナー氏によると、2024年の観光支出(国際および国内)は5兆ドル(約745兆7400億円)に達する見込みだ。市場を牽引しているのはレジャーであり、「ウェルネス、アドベンチャー、文化的体験のセグメントでは、質の高さと1回の旅行あたりの高い支出がみられた」という。APAC地域は、今後5年間に生み出される観光収入の約半分を占める重要市場で、アジア太平洋地域に成長機会があると強調。細分化する消費者に合わせて実施した旅行者セグメントの調査では、ウェルネス愛好家の70%以上が持続可能な観光を求めており、意識する必要があると訴えた。

ユーロモニター社の英国の旅行調査部門のキャロライン・ブレムナー氏

ブレムナー氏がトレンドを説明するなかで、特に注目したのはZ世代だ。

この世代は持続可能性とウェルネスに強い関心を示している。調査によると、Z世代のウェルネス愛好家の67%が、自分が望むウェルネス体験に多額の支出をする意向を持ち、51%は持続可能な観光に対して30%以上の追加支払いをいとわないと回答した。これらのデータはZ世代の旅行における「持続可能性とウェルネスの重要性」を裏づけているともいえる。

さらに、全世界が持続可能な観光へシフトするなか、今後5年間で成長が見込まれる旅行カテゴリーとして、鉄道旅行やガイドツアー、文化体験、国立公園が上位に挙がり、スパや医療ツーリズムもトップ13位内に入った。

「没入型の体験」への高いニーズ

ユーロモニターインターナショナル社は、APACのインバウンドおよび国内観光が年平均6.4%で成長するとの予測も出してる。同社香港ベースのコンサルタント、プルーデンス・ライ氏は、APACの観光市場と消費者動向の分析から、地域間旅行が盛んであることに注目。APACへの旅行者の66%が域内の近距離旅行者であり、その主な送客市場は中国、香港、韓国、ベトナム、台湾、アメリカ、オーストラリアだ。これらの旅行者はリラクゼーション、安全性、地域文化への「没入型の体験」を求めていることを指摘した。

APACは、世界から手頃な価格で高品質なウェルネスを提供している市場とみられており、高級スパから日本の温泉、韓国式サウナ、ヨガや瞑想まで多様な選択肢がある。医療ツーリズムも重要な分野で、今後5年間で約10%近い成長が見込まれる。なかでもタイは、APACの医療ツーリズムの40%以上のシェアを占める。APACのインバウンドと国内旅行の観光消費におけるウェルネスの割合は、2024年は1%だが、今後5年間で世界平均の2倍にあたる8.7%に増加する見込みだ。

ユーロモニター社香港のプルーデンス・ライ氏

APAC消費者の購買行動に関する調査では、旅行とウェルネスへの関心の高さも示された。厳しい経済状況下で、約49%が節約すると回答した一方で、旅行とウェルネスへの支出は節約に次ぐ優先事項となっている。これについてライ氏は、「お金を節約しながら旅行を楽しみたいというコスト意識の高い旅行者が、日本と中国での国内観光ブームを牽引している」と分析した。

また、APAC消費者のウェルネス習慣の上位は、運動、屋外活動、マッサージがあり、健康的な食事、ヨガ、瞑想が続く。これらの習慣が旅行に反映されたのが、スピリチュアルツーリズムやスリープツーリズムで、ヨガやウェルネスリトリートへの関心も高い。

特に買い物より体験にお金をかける傾向が強い若い世代にとって、ウェルネスと旅行は「単なる高級ホテルでのスパやマッサージを超えた新しい価値を持つもの」で、ニーズや好みはさらに細分化する傾向にある。なお、消費者のウェルネス志向が世界平均よりも高いのが中国、ベトナム、インドの3カ国。ただし、国や年齢層で志向や行動が異なるため、この3カ国のニーズに応じるには多様性や包括性にも配慮しながら柔軟に対応する必要があるとライ氏は指摘した。

 APAC消費者にとって旅とウェルネスはトッププライオリティ:ユーロモニターインターナショナル投影資料より

高まる総合的な健康への関心

こうしたデータを踏まえながらライ氏は、観光産業がウェルネスツーリズムの分野で成長するために、「没入型体験」「メンタルヘルス」「旅程全体へのウェルネス組み込み」の3つのテーマを提案した。

「没入型」のウェルネス体験は、APACでは開発段階だが、先進的な例として、イタリアには嵐をテーマにしたスパ「QCテルメミラノ」、アメリカでは2026年開業予定の神経科学を取り入れた没入型スパ「Submersive」などがある。

「メンタルヘルス」については、APAC消費者の65%以上が健康状態に影響を認識していると回答。ストレス、睡眠、消化器系などが健康の問題として挙げられ、「心身だけでなく統合的な健康への関心が高まっている」と指摘したうえで、メンタルヘルスへの懸念は身体的なものから気分的なものまで細かい段階に分けられる点について言及した。

ウェルネス要素を旅行の全行程内へ組み込む試みも進んでいる。

シンガポールのチャンギ空港にはフィットネス施設、羽田空港には温泉など搭乗前のウェルネス施設が備わり、日本では足湯付き列車など移動中に体験できる手軽なウェルネスもある。ドバイでは「SIRO One Za’abeel」のようなフィットネスに特化したホテルがオープンし、その他のホテルでも睡眠をサポートする枕や空気清浄機を導入するなどウェルネス要素を取り入れる事例も出てきた。また、旅行は、目的地だけでなく、旅先の検索や選定からさまざまな段階を網羅するため、「どのセグメントをターゲットにし、どの段階のニーズに対応するのかを見極めることが重要。その上でどのようにカスタマイズするかが鍵となる」とライ氏は訴えた。

ウェビナーの最後には、質疑応答がおこなわれ「ウェルネス市場に向けてサプライヤーはどのような準備をすべきか」という問いが投げかけられた。これに対し、ライ氏は「多くの人々が模索している段階だが、今後の消費者行動に影響を与える大きなトレンドになる重要分野。先駆けて取り組むことが差別化につながる」と指摘。ブレムナー氏も、「ウェルネス愛好者をステレオタイプ化せず、多様なニーズを全体的に捉えることが重要」と述べた。

APACの豊富な資源を活かした独自のウェルネス体験の提供が期待されるなか、多様化する消費者ニーズに対応しつつ、ウェルネスツーリズムを通じた持続可能な観光を目指すことが求められている。

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