<千葉千枝子の観光コラム>
渡航自由化から50年、2014年の旅行・観光トレンドは?
▼海外旅行 -海外渡航自由化50周年、世界遺産
2014年は海外渡航自由化50周年の節目の年で、それを記念したツアー商品やキャンペーンが続々、発表の予定だ。
消費税増税後の影響が気になるが、もとより旅行商品は内税表示が一般的。業界団体も内税を推奨しているため、増税理由の旅行者離れは一過的とみる。増税に敏感な世代は、大型消費を済ませているため財布の紐は固いが、その他世代のシニア層や若年層へ、どれだけ旅の魅力をアピールできるかが鍵となる。
海外旅行は、世界遺産が引き続き人気キーワードで、なかでも南米やアフリカなど秘境辺境、チベット文化圏、メコンエリアに注目が集まりそうだ。スポーツへの関心が高まっているが、今年はソチ冬季五輪やブラジルW杯など大型のスポーツイベントが目白押しなだけに、運営面も含めて注視されることは間違いない。
▼国内旅行 -都市型観光、LCC国内線、着地型旅行商品
国内では都市型観光が進む。東京は大丸有エリアに「アマンリゾーツ」の日本上陸第一号ホテルが、大阪では超高層複合型商業施設「あべのハルカス」がグランドオープンする。地方では、LCC国内線の就航に伴う活性化が期待される。新たに春秋航空が運航開始(2014年5月)、バニラエアも事業を本格化させたばかりで、「パートナーをすでに見つけている」と発言したエアアジアのCEOトニー・フェルナンデス氏の、今後の動向も気になる。
一方、国内線LCCの一部路線では搭乗率が伸び悩む。その解消に、旅行会社と組んだパッケージ商品が造成も進む。また個人旅行化に対応して、自治体による観光二次交通(ワンコインバス等)で至便化をはかる、地域主体の着地型旅行商品開発が進むものと考えられる。
▼地域 -ニューツーリズム、フードツーリズム、文化観光
各自治体では、地域活性化にニューツーリズムの拡充を狙う。インバウンド増にも積極的で、トップセールスで競い合いが続く。ゆるキャラや自虐系などで沸かせた自治体が記憶に新しいが、特産品など農水・観光抱き合わせのPR合戦がさらに加速するだろう。ニューツーリズムのなかでも比較的、垣根の低い、食がテーマのフードツーリズムや、伝統文化芸能がモチーフの文化観光が確立しそうだ。
▼訪日旅行 -インバウンドビジネス、MICE、カジノ、ムスリム対応
この半世紀、アウトバウンド一辺倒だった日本の旅行業界だが、インバウンドビジネスも萌芽のときにある。ただし法整備が追いつかず、業界団体は政策提言などを活発化させる向きがある。規制ないしは規制緩和も求められる。
インバウンドのなかでも特に旅行消費額が高いMICEは、世界のトレンドが国際会議場を抜いて、ホテルや大学開催が扱いを伸ばしている。オーガナイザーに向けた中・小口のミーティング開催の働きかけなどが功を奏する。またアフターMICEの一環に、カジノ誘致が国内で具体化しそうだ。
ホテル・旅館や観光関連施設では、さらなる多言語化やムスリム対応に追われる。東京や京都に外資有名ホテルが開業する一方、東日本大震災の被災地では老人福祉施設などに転用可能なビジネスチェーン系ホテルなどが開業ラッシュを迎える。外客向けにはゲストハウス(簡易宿所)といった新業態、ホームステイなどへの検討も見込まれる。
▼旅行業界 -人材育成、グローバル人材
今後、気になるのは人材育成である。文部科学省のグローバル人材育成推進事業が今年から本格始動する。6年後の五輪、さらには将来の日本に求められるグローバル人材が、産官学で育成養成されるときにある。それらを視野に観光庁では、将来の地域づくりの担い手づくりと旅育の観点から児童・生徒によるボランティアガイドの普及促進、さらには訪日外国人客向けのボランティアガイド登録制度などを開始した。
航空以外の運輸では、観光列車、カジュアルクルーズのデビューが話題に華を添えるであろう。
▼2014年の提言:東京五輪の先、2030年を見据えた観光のあり方を
私たちは今、大きな転換点に立っている。さらに続くTPP環太平洋経済連携協定交渉や、2015年ASEAN東南アジア諸国連合域内関税撤廃など、人やモノの動きが加速する。変化著しい時代の潮流に、いかに乗るかがビジネスの成否を分ける。
アベノミクス第3の矢・成長戦略の実現に向け昨年、閣議決定された「日本再興戦略―Japan is BACK」(日本経済再生本部)には、2030年の未来の日本が訪日外国人客年間3000万人、国内宿泊者の6人に1人が外国人というアジア屈指の観光立国の姿で描かれた。
ゴールは五輪年ではなく、2030年に目標があることを再確認したい。