世界の潮流となりつつある「シェアリングエコノミー」。ネットの普及で個人と個人の"シェア"という取り引きが、日本でも普及しつつある。
シンガポールに拠点を置き、個人宅の仲介をする「トラベルモブ(TravelMob)」も、そのひとつだ。シェアリングエコノミーのプラットフォームを構築し、アジア太平洋地域でバケーションレンタルのビジネスを展開。昨年日本市場にも参入している。
このほど「WIT Japan 2015」に登壇するために来日したトラベルモブCEO兼共同設立者のトゥロチャス・フアド氏に、日本市場の未来とシェアリングエコノミーの将来性について、話を聞いてみた。
ホームアウェイグループとしてアジア太平洋で事業展開
トラベルモブは2012年に「宿を探すゲストと、宿として貸し出しのできるスペースを持つ現地のホストをつなげるソーシャルマーケットプレイス」としてシンガポールで設立された。いわゆる、消費者の需要と供給をマッチングさせるシェアリングエコノミーだ。
取り扱う物件は、個人宅、個人宅の部屋、アパート、ビラなど。フアド氏は、同業他社となるエアビーアンドビー(Airbnb)との違いについて、「トラベルモブでは、セカンダリーハウス(別荘)を提供する『バケーションレンタル』の考え方でビジネスを進めている」と説明する。
2013年には、この分野のパイオニアであるホームアウェイ(HomeAway)に買収され、そのグループメンバーとなった。現在ホームアウェイが取り扱う物件数は世界で約120万。18社ほどを傘下に置き、それぞれ特定の地域でビジネスを展開することで事業を拡大している。トラベルモブの主戦場はアジア太平洋だ。
「実は、設立後まもなく、エアビーアンドビーから買収の話が持ちかけられたが、総合的な判断で断った。ホームアウェイに買収されるまで、自力で資金調達を行い、事業を継続した」とフアド氏は裏話を明かす。
現在、アジア太平洋で取り扱う物件は1万4000軒以上。昨年には日本語サイトも立ち上げ、日本市場にも参入を果たした(ドメインは、ホームアウェイ)。
訪日市場拡大に合わせて日本での収益増、日本人には海外ビラが人気
フアド氏は日本市場について、「トラベルモブのサイトを訪れる日本人旅行者は増加している。バケーションレンタルを好む日本人が増えている証拠。たとえば、バリ島への旅行ではビラが人気だ」と自信を示す。レビューの日本語翻訳、JCBなどによる支払い、日本語対応が可能なビラの紹介など、「旅行者の好みに合わせたサービス」の展開を心がけている。
日本での利用状況については、現在のところ外国人利用が多いようだ。フアド氏は「新しい友だちを探す感覚で個人宅を選ぶ旅行者も多い」と話す。また、需要の高い季節について、「特に花見シーズンはホテルや旅館が取りにくくなることから、利用が伸びている」と明かした。
訪日市場拡大に合わせて、日本市場の収益も増加。人気旅行先ランキングでもトップ5に入るほどの成長を見せている。「ブランディングが遅れているにも関わらず、日本市場は急速に成長している」との認識だ。
しかし、日本での認知度は今のところエアビーアンドビーに後れを取っているのも事実だ。そのため、トラベルモブでは知名度向上に向けてさまざまなパートナーとのコラボを検討。「たとえば、シンガポールではシンガポール航空と共同プロモーションを展開しているが、同じようなパートナーシップを日本でもできないか模索している」(フアド氏)。
また、親会社のホームアウェイは旅行メタサーチ大手カヤックとパートナーシップを結んだことから、「日本でも近い将来カヤックでトラベルモブを含むホームアウェイのプロパティー検索が可能になるだろう」と話し、それが日本市場への浸透につながるきっかけになるとの見通しを示した。
規制緩和に期待、日本語翻訳の改善にも注力
日本で順調にビジネスを拡大しているトラベルモブだが、課題もある。ひとつは、旅館業法下での規制の問題だ。これについて、フアド氏は「日本ではまだグレイであることはわかっている。しかし、訪日旅行需要が拡大していくなかで、供給不足が明白になってきている。すでに規制を緩和している国は多く、日本もそうなるのではないか」と話し、今後の日本政府の対応に期待をかける。
また、「オンライン事業は、いつも規制の先に行くものだ。しかし、私たちはプロパティーのオーナー、旅行者、そして規制当局とウィン・ウィンの関係を築いていかなければならない」との立場を明確にした。
このほか、レビューの日本語翻訳についても課題が残る。現在自動翻訳でサービスを提供しているが、その能力には限界があり、「意味不明」の部分も多いのが現状。「本来は人の手による翻訳にすべきだろうが、それには多額の投資が必要になる。しかし、これを克服していかなければならない」とし、今後の改善に向けて努力していく考えを示した。
マイクロ・アントレプレナーが産業革命を起こす
「日本は2020年に2000万人の外国人受け入れを目標としているが、私たちのバケーションレンタルは、それを手助けすることができる」とフアド氏。インド・ニューデリーで行われたコモンウェルスゲームや昨年のブラジルでのワールドカップでシェアリングエコノミーによる宿泊が大きく伸びた例を出しながら、「東京オリンピック・パラリンピックは大きなチャンス」と意気込みを表す。
その成長のチャンスは日本に限ったことではない。「アジアでは毎年、1900万人の中間所得層が生まれている。2030年には世界の60%の中間層はアジアから生まれるだろう。レジャー旅行市場は確実に拡大する。しかも、彼らはすでにインターネットユーザー」とアジア市場の将来性について触れ、そのなかで「シャアリングエコノミーのモデルはどんどん広がる」と展望する。
それは消費サイドの話だけではない。フアド氏は言う。「エクスペディアの創業者が言っているが、『産業革命は人々の豊かさを求める力によって引き起こされる』。その意味で、消費者が消費者であると同時にサービスプロバイダーにもなるシェアリングエコノミーは、マイクロ・アントレプレナー(小さな起業家)を数々生み出し、産業に革命を起こすのではないかと思う」。シェアリングエコノミーは「次の時代を開くドア」になるとの考えだ。
日本における個人宅の宿泊サービス、いわゆる民泊について、現段階では規制が存在しない状況だ。政府は、先月、2016年度に民泊の規制についての結論を出すという「規制改革実施計画」を閣議決定したところ。その結論がでるまでに、日本国内では利用者も事業者も増えていくことが想定される。今後のトレンドに注視しながら、結論を待ちたい。
参考記事:
- 個人宅への宿泊サービス(民泊)の規制緩和、2016年に結論へ、政府が「規制改革実施計画」を閣議決定(2015年7月2日)
- 個人宅宿泊の「airbnb(エアビーアンドビー)」は日本で普及するのか? 実際にロンドンで泊まって考えた
取材・記事:トラベルジャーナリスト山田友樹
編集:トラベルボイス編集部