新しいビジネスプラットフォームとして注目が集まる「ウーバー(Uber)」。グローバル展開で拡大を続ける同社がビジネス拡大のチャンスが多いと見ているのが "日本" だ。その狙いはどこにあるのか。移動と旅行の関係性からウーバーは旅行業界でどんな存在になりえるのだろうか。
前回に引き続き、ウーバー・ジャパン執行役員社長の高橋正巳氏に話を聞いた。高橋氏は、日本でのシェアリングエコノミー普及が加速しないことに警鐘を鳴らす。
前回インタビュー>>>
訪日市場は大きなチャンス、旅行会社との協業も視野に
「個人的なライフワークは日本を元気にすること――」。ウーバー・ジャパン執行役員社長の高橋正巳氏はそう話す。そのうえで、ウーバーが日本の経済や社会に対して貢献できることとして、訪日旅行と高齢化社会への対応の2つを挙げた。
言語バリアがあり土地勘もない訪日旅行者にとって、タクシーは便利な交通手段だが、日本でタクシーを利用する外国人旅行者の割合は全体の14.4%に過ぎない(出典:2014年6月 三菱UFJリサーチ調査レポート(PDFファイル))。最大の理由はコストが高い点で、その割合は約60%にもおよんだ。ウーバーでは、そこにビジネスのチャンスがあると見ている。
ウーバーのテクノロジーは言語バリアフリーだ。たとえば、英語で目的地を「Marunouchi」と入力すれば、日本人のドライバーには「丸の内」と表示される。支払いのやり取りも必要ないため、外国人旅行者は乗車するだけ。究極的にはドライバーは「ハロー」と「サンキュー」だけでことが済む。カスタマーサポートも母国語でできる仕組みを構築しているため、利用者にとっても言語ハードルは全くと言っていいほど感じられない。インバウンドで可能なことは、もちろんアウトバウンドでも同じだ。「海外で利用する日本人ユーザーも多く、それが日本でも利用するきっかけになっているケースも多い」と高橋氏は明かし、「ドライバーの情報が世界中で可視化されているところが安心感を生んでいる。インでもアウトでも旅行会社との連携は考えられることだろう」と将来を見据える。
A地点からB地点への移動は誰もが必要とするサービスであることを考えれば、旅行ビジネスだけでなく、飲食業など他業種との連携も考えられる。しかし、高橋氏は「現状は、需要が供給を大きく上回っている状況。必要な場所に必要な時間に車を配置できる仕組み完璧にすることが先」との認識だ。
高齢化対応、交通空白地帯に新たな交通手段を
ウーバー・ジャパンが展望するもうひとつの価値は、少子高齢化が進むなか、交通空白地帯に新たに交通手段を提供すること。過疎化によって公共交通機関が先細りしていくなか、高齢者が町に出る手段を提供することで、その町の活性化につなげようとするアイデアだ。同時に、供給を満たすための雇用も創出されると期待する。
「日本は世界でも急速に高齢化が進んでいる国。高齢者に対するソリューションも日本でいち早く立ち上げれば、海外に向けて発信できるようになる」と高橋氏の夢は大きい。日本発シェアリングエコノミーの新たな形だ。現在は海外発のビジネスモデルを取り入れ、日本向けにローカライズしているが、「日本独自のサービスを海外に展開できるような流れをつくっていきたい」と意欲を示す。
シェアリングエコノミーの普及の遅さに危機感
同社のタクシーやハイヤーの配車プラットフォームは、日本国内の合法下で実施されているものの、日本ではシェアリングエコノミーに対する規制がまだまだ多いのも事実だ。
たとえば、世界で展開中の「需給に応じて料金を弾力的に変動させる」アルゴリズムは、ウーバーが借り上げているハイヤーでは適応させられるが、メーター規制がある国内タクシーでは適用できない。
また、世界の主要都市では、相乗りサービス「Uber Pool」が提供され、交通量の軽減に一役買っているが、東京では現在のところ提供されていない。
「日本ではシェアリングエコノミーという言葉は、ここ半年くらいでやっと広まってきたのは、うれしいこと」と高橋氏は話すが、一方で普及の遅さに「危機感を覚えている」とも付け加える。
ウーバー・ジャパンは、2020年までに「日本中どこにいてもウーバーを利用できるようにする」ことを目標に掲げるが、法整備のスピードを考えると、シェアリングエコノミーが広がるには「時間がかかる」との認識。ライドシェアでは、2015年10月20日に国家戦略特別区域諮問会議で、過疎地での観光客の交通手段として規制緩和に向けた検討開始を安倍首相が言及した段階。民泊では、規制緩和への現状把握が始まったばかりだ。
「世界でシェアリングエコノミーはもっと早く動いている。そのムーブメントは止められない。日本でそれをどう受け入れて、促進できるか。数十年前に書かれた法では対応できないところが出ている。IT時代にあった法整備がさまざまな業界で求められているのではないか」と警鐘を鳴らす。
求められる認知度と理解度の向上
ウーバー・ジャパンは現在、サービス普及に向けた認知度向上に努めている。利用者向けにはさまざまなキャンペーンを実施。これまでにも、アイスクリームの配達や宅配や衣類リサイクルで東北復興を支援するイベントなどを行い、消費者の関心を高める取り組みを行った。
一方、ドライバーには生産性向上をアピール。「ウーバーと契約すると料金が安くなるため"儲け"が減るのではないかと思われがちだが、その分乗車頻度が上がるので収入は増える」と高橋氏は訴える。
「利用者の利便性とドライバーの生産性向上の両輪がうまく回っているからこそ、これだけ世界に広がった。とにかく、一度利用してもらうと、そのよさが分かってもらえるはず」(高橋氏)。
最近では、LINE TAXIという同業他社が現れるなど、市場が活性化されつつある。タクシー/ハイヤー配車サービスが将来、CtoCのライドシェアにつながり、日本でも本来的なシェアリングエコノミーが発展していくのか。ウーバーの挑戦は、その試金石になるかもしれない。
関連記事>>>
聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫
記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹