2016年の旅行市場はどのように推移するだろうか。JTBの見通しでは、訪日旅行はいよいよ2000万人を突破し、2350万人(19.0%増)と2ケタ増の成長が続くとし、国内旅行も2億9360万人、(前年比0.7%増)、海外旅行も1620万人(0.3%増)とプラス成長を見込む。2016年の旅行市場に影響する市場環境や動向、トレンドなどを、JTBが発表した「2016年の旅行動向見通し」からまとめた。
消費税10%化を翌年に控え、駆け込み消費の可能性も
緊縮ムード弱まり、興味あるコト・モノへの出費が積極化
2015年は物価上昇が安定化し、ガソリン価格の下落が始まるなど、経済環境に落ち着きが感じられるようになった。この基調を持続しつつ、雇用環境の堅調さや大手企業を中心に給与や賞与アップの動きがみられることから、これまでの緊縮ムードは弱まり、多少値が張っても納得のいくモノやコトへの消費が活発化する傾向が続くと見る。
このようななか、2016年のポイントとなりそうなのは、2017年4月予定の消費増税。JTBでは、税率10%に引き上げられる前に、欲しいモノ・コトを消費しようとの需要が少なくないと予想する。
旅行に対する支出については、「現状維持」(0.3ポイント増の58.1%)が主流(JTBの個別訪問による消費者アンケートの結果)。ただし、伸び率では「増やしたい」(1ポイント増の12.9%)が「減らしたい」(1.3ポイント減の29.0%)を上回った。
国内旅行の回数は「増える」(0.3ポイント減の14.3%)に対して「減る」(2.9ポイント増の22.9%)が増加したものの、海外旅行は2015年に大幅に減少した「増える」(0.6%増の5.3%)が好転。2015年に控えた分、2016年に海外へ行きたい気持ちが見られるとする。
ターゲットとして注目したいのは未婚層。アンケート調査では現在の生活について、既婚層は男女とも「普段の生活費も趣味等も節約」が最多だったのに対し、未婚層男性は「普段も趣味等も特に節約していない」(37.2%)、未婚層女性は「普段を切り詰め趣味等のお金は惜しまない」(29.6%)が、それぞれ既婚層を10%以上離して高い結果となった。
未婚層は、経済に影響のある層として世界的に注目される「ミレニアル世代」にも含まれている。未婚層の興味を旅行にどう引き込むか、そのカギはミレニアル世代への対応にあるといえそうだ(後述を参照)。
20年ぶりに新祝日「山の日」が誕生
気になる連休の日並びと旅行市場の周年記念
2016年の連休の回数は2015年と同じで、ゴールデンウィークと正月を除く週末の3連休が6回。ゴールデンウィークは、後半5連休のあった2015年よりも短く、4月29日(金)~5月1日(日)、と5月3日~5月5日(木)の3連休ずつとなる。ただし、5月2日を休めば7連休、6日を休めば6連休となる。連休をとりやすい日並びとし、2015年に比べると日程が分散化すると見る。
2015年に大型連休となった秋の「シルバーウィーク」は、今年の祝日が9月19日(月)、22日(木)と離れるため、9月の夏休み取得は減少すると見る。逆に、今年は8月11日に20年ぶりに新しい国民の祝日「山の日」が制定されることから、11日(木)と13日~14日の週末をあわせたお盆休みの取得が多くなると予想する。
旅行市場の周年記念は以下の通り。
- ディズニーシー、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)がそれぞれ15周年
- 日本/シンガポール国交樹立50周年
- 日本/フィリピン国交正常化60周年
- 日本国連加盟60周年
世界の新潮流はミレニアル(新世紀)世代
SNSデジタル化への対応がますます重要に
JTBの「2016年の旅行動向見通し」では、ミレニアル世代への世界的な注目がトピックとして挙げられた。ミレニアル世代とは現在20代後半~30代の世代のこと。2014年のダボス会議(世界経済フォーラム)でも「今後の消費を大きく変える“新しい”消費者」として取り上げられたという。
その理由は1.アジアなどの新興国で、国内外の企業で高収入を得るミレニアル世代が増加している、2.若いころからSNSなどデジタル社会の影響を受けていること。
JTB総合研究所の調査でも、ミレニアル世代が「SNSの投稿を見ていってみたいと思った場所へ出かけた」「SNSで知った情報で良いと思ったものを購入した」などの割合が高く、これまでの世代に見られなかった行動や感覚があると指摘。新興国では海外旅行を楽しむ層も若い世代が中心であることから、インバウンドを含め、ミレニアル世代の動きに注目を促している。
【2016年、旅行・観光に関わる予定一覧】
- 1月10日(日) NHK大河ドラマ 「真田丸」放送開始(長野県上田市が主な舞台)
- 2月7日(日)~2月13日(土) 中国の春節※2月6日、14日は出勤日
- 2月未定 新東名高速道路 浜松いなさ-豊田東ジャンクション開通
- 3月26日(土) 北海道新幹線 新青森駅~新函館間 開業
- 3月31日(木) ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)開業15周年
- 4月15日(金) 東京ディズニーシー15周年“ザ・イヤー・オブ・ウィッシュ”
- 4月29日(金) 京都鉄道博物館グランドオープン
- 4月29日(金)、30日(土) ニコニコ超会議2016
- 5月26日(木)、27日(金) 主要国首脳会議が伊勢志摩で開催
- 6月19日(日) 公職選挙法による18歳投票が施行
- 7月未定 世界三大EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)フェスの一つ「Electric Daisy Carnival」が日本初上陸
- 7月未定 大手町に「星のや東京」オープン
- 8月5日(金) 第31回夏季オリンピック(リオデジャネイロオリンピック)開幕
- 8月11日(木) 山の日が国民の祝日として制定
- 9月7日(水) リオデジャネイロパラリンピック開幕
- 10月1日(土)~11日(火) 第71回岩手国体開催
- 10月1日(土)~7日(金) 中国の国慶節※10月8日、9日は出勤日
- 11月未定 築地市場が移転し、豊洲新市場が開場
- 11月未定 松坂屋銀座跡地に銀座エリア最大級の商業施設が開業
- その他、2016年中
- 環状第2号線の汐留-豊洲区間が開通
- 瀬戸内国際芸術祭2016
- 「すみだ北斎美術館」が開館
- フォーシーズンズホテル京都オープン
- 上海にディズニーランド®がオープン
- ドリームワークス・アニメーションが上海にテーマパーク「夢中心」をオープン
- 世界初のVRテーマパークがアメリカユタ州にオープン
【国内旅行】
インバウンドの増加がプラスマイナスに影響
キーワードは鉄道、地域に2大テーマパークの周年記念
- 国内旅行人数:2億9360万人(0.7%増)
- 国内旅行消費額:10兆4300億円(2.6%増)
- 国内旅行平均消費額:3万5540億円(2.0%増)
経済環境から旅行意欲の堅調な推移が期待されるなか、訪日旅行の増加が国内旅行に良くも悪くも影響しそうだ。日本人があまり注目してこなかった観光地が訪日客にフォーカスされたことで、日本人自身がその魅力を再認識する機会にもなっていることを指摘する。
一方、訪日外国人の増加によって宿泊単価が上昇傾向にあるとし、旅行平均消費額は増加すると見込む。収益が上がるきっかけとなるが、旅行会社や消費者は「仕入れができない」「予約が取れない」状況も発生し、旅行機会が減少する可能性にもなりそうだ。
国内旅行での話題は、東西の強力な誘客施設である東京ディズニーシーと、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの開園15周年記念。両パークでは記念イベントに加え、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは春に、世界最長かつ最高の高低差となるフライング・コースターが開業する予定だ。
このほか、北海道新幹線の開通や、岡山での新観光列車の導入、日本最大級となる京都鉄道博物館のオープンなど、鉄道関連の注目が続くと予想。また、マラソンなど目的型の旅行が浸透し、スポーツをきっかけにした地域への旅行も増加傾向にあると指摘する。2016年は初開催の鹿児島や、水戸黄門漫遊マラソン、スイーツマラソンなど、テーマ型マラソン大会も注目されているという。
【海外旅行】
LCCやクルーズ、海外への新たな“足”が市場を刺激
上海のテーマパーク開業ラッシュにも注目
- 海外旅行人数:1620万人(0.3%増)
- 海外旅行消費額:4兆4530億円(0.3%増)
- 海外旅行平均消費額:27万4900円(±0.0%)
円安基調や、国際情勢の不安定要素は続くが、旅行意欲は堅調と見込む。人数の増加に対し、平均消費額が前年並みの予測なのは、アジアや太平洋エリアなど、中短距離の方面が人気になるとの予想による。
海外旅行のトピックは、旅行のきっかけとなるLCCの新就航。成田や関空だけでなく、中部でも路線が増加する。中部は今後、LCC専用ターミナルの建設が計画されていることから、さらなる旅行者増加が期待されるとする。
>>2016年の主なLCC就航予定
- Vエアー(ZV):関空/台北線、2016年1月26日就航予定
- ピーチ・アビエーション(MM):成田/仁川線、2016年2月5日就航予定
- 春秋航空日本(スプリングジャパン/IJ):成田/重慶線、成田/武漢線、2016年2月13日、14日就航予定
- エアアジア・ジャパン:中部/台北:2016年春ごろ就航予定
このほか、ハワイアン航空(HA)が2016年7月から成田/ホノルル線を週7便で新規就航。また、5万円台からの設定という新たな外航客船の日本発着クルーズも開始されることで、クルーズ市場の裾野拡大も期待できるとする。
方面別で注目なのは、上海。「上海ディズニーランド」や、ドリームワークス・アニメーションのテーマアーク「夢中心(Dream Center)」の開業が予定されている。また、アメリカのユタ州には、世界初のVR(バーチャルリアリティ)のテーマパークが開業予定で、大きな話題の一つになるとしている。
【訪日旅行】
2015年の“需要シフト”なくなるが、2000万人超えは必至
- 訪日外国人数:2350万人(19.0%増)
2015年(47.3%増の1975万人の着地予想)ほどの伸びがないのは、2015年にあったMERSの発生による近隣国からのシフト需要や、中国本土からの旅行者の総数を抑えた台湾の政策の影響がないとの予想によるもの。また、中郷経済の減速やアメリカの利上げの影響で、アジア経済は大きく落ち込まないものの、比較的フラットの推移とみている。
とはいえ、円安基調の継続で訪日旅行のしやすい環境が続くなか、2ケタ増の勢いが続くと予想。リピーターの増加につれて旅行形態が異なりつつあることも指摘する。日本の生活文化の体験を希望する需要が増加しているほか、広域観光ルートの整備など受入体制も整い、FITの増加に伴って地方への訪日旅行客も増加していくと見る。
また、訪日旅行で注目の話題として、大阪府や東京都大田区での国家戦略特区特例を活用した民泊の開始や、日本の各地で誘致を強化しているクルーズ寄港での訪日を上げる。特に訪日クルーズについては初めて100万人を超えた2015年を上回る推移を見込んでいる。
なお、“爆買い”が注目された中国の大型連休は、今年は春節が2月7日(日)~13日(土)、国慶節が10月1日(土)~7日(金)。