英国の調査会社ユーロモニターインターナショナルはこのほど、「EU離脱を受けて見直しを迫られる英国の観光産業について」と題するレポートを発表した。同社の予測では、2020年までのGDP成長率は2%低下。その影響で英国へのインバウンド市場は主要20か国ベースで当初の予測よりも5%減少する見通しとなった。
一方、短期的な金融市場に着目すると、英国通貨ポンドの下落によりインバウンド需要が増加、アウトバウンド市場は海外旅行関連商品のコスト高などにより大きく落ち込む懸念を示した。
インバウンドは成長率5%減、フランスが今後も最大市場に
現在、英国を訪れる旅行者数が多い国は、フランス、米国、ドイツ、アイルランド、スペインの順。2015年の実績では、西欧と東欧からの旅行者で全体の7割以上を占めたという。
EU離脱後にこれらの国に与える影響をみると、2015年に370万人の旅行者を送り出した実績をもつフランスは過去の景気後退時期からの回復も比較的早く、今後も最大市場であり続ける可能性が高い。
ただし、景気の不透明感がドイツや米国に与える影響は長引く懸念があり、2015年から2020年までの間に減少する年間旅行者数は国に応じて50万人以上に達する恐れも。同社の試算では、インバウンド上位20市場の成長率は、EU離脱決定前の当初の予測値よりも5%減とみている。
以下は、英国インバウンド市場主要5か国に関する旅行者数推計値(2015年~2020年までの合計)。ブレグジット前後の予測結果が示されている。
アウトバンド市場は懸念大、旅行会社に危機の恐れも
アウトバウンド市場は、世界的な景気減退からいまだ回復途中にあり、今回のEU離脱は大きな懸念材料になると指摘。海外旅行需要の低迷のみならず、低価格のパッケージ旅行を扱う企業などを廃業に追い込む恐れもあるとしている。
同時に、旅行業界の動向について最も大きな影響を与えるのは今後の航空規制(単一欧州空域)の行方にあることにも言及。その結果が航空業界をはじめホテル、カーレンタル、オンライン旅行業界など様々な分野の動向を左右するとしている。
国内旅行のスタイルに変化の兆し、「ステイケーション」再流行か
国内旅行については、海外旅行市場の縮小により活性化するとみられる。方向性としては、先の経済危機時期に流行した「ステイケーション」が再度注目を浴び、海外など遠出を控えて近場でレジャー休暇をとるスタイルが活況を帯びる可能性が高い。
ただしこの傾向は、スコットランドなどEU残留を支持したエリアでは異なる可能性がある。これらのエリアでは、今後も英国内ではなく欧州各国での消費やビジネス機会の拡大に着目した行動が継続することが示唆されている。
デジタル市場の行方は? ―OTAに大きなメリット到来、システム再構築のリスクも
なお、同レポートでは、今後の英国の旅行業界におけるオンライン旅行会社(OTA)の動向についても予測を示した。OTAはレビューサイトやメタサーチ、期間限定セールといったサービスを反映しやすいため、価格に敏感なヨーロッパの旅行者をサポートするメリットが生まれる。
その一方で、インフラ面では問題が浮上する可能性も。例えばこれまでEUが提供していた個人情報や決済などを扱うシステムを手放し、新たに英国独自で再構築しなければならないといった大きなリスクが顕在化すると予測している。
トラベルボイス編集部