JALとANAが、2020年春をめどに包括運賃(IT運賃)にダイナミックプライス(変動運賃)を導入する方針を固めたことで、旅行業界は大きな変化の時を迎えている。このほど、旅行業界向けテクノロジーを提供するフォルシア社が「旅行業界ダイナミックプライス対策セミナー」を開催。そこでは、米国の旅行調査会社「フォーカスライト」の日本代表である牛場春夫氏が、「ダイナミックプライスの衝撃 、パッケージ旅行に未来はあるのか?」をテーマにした基調講演を行った。
牛場氏は、日系の大手航空会社が予測残席数に応じて航空運賃を変動させるダイナミックプライスにかじを切った背景として4つのポイントを指摘した。まず、サプライヤーの力。年々、その力は強くなっており、「マーケットは売り手市場になっている」現状を挙げた。UNWTOの予測でも国際旅行市場は今後も年率2.1%で増加し、2030年には18億人に達するなど、需要は堅調に成長すると見込まれていることから「この傾向は続くと」と見通す。
次に指摘したのは、デジタルマーケティングの進化による販売チャネルの多様化。
航空会社は2000年ごろまでは、旅行会社は仲介業者として、GDSを通じて顧客と航空会社をつなげていたが、2010年ごろからOTAが台頭することでそのシェアは縮小。さらに、メタサーチなどの登場によって仲介業者である旅行会社の意義がさらに薄れてきた。加えて、国際航空運送協会(IATA)が推進する流通の新規格NDCや直販の増加によって、「航空会社が自らイールドを管理する時代になっている」と指摘した。牛場氏によると、国内線の直販率はすでに70%を超えているという。
今後の見通しについては、OTAの成長は競争の激化などで頭打ちになると予想される一方、直販の規模は2018年の3840億ドル(約38兆円)から2021年には4930億ドル(約49兆円)に拡大する見込み(フォーカスライト調べ)。そのうえで、日本のオンライン全体の販売率は2017年の45%から「将来的には北欧並みの70%近くにまでいくのではないか」との見方を示した。
3つ目のポイントはトラベルテックの進展だ。
牛場氏は、「タビマエ、タビナカ、タビアトのシームレスな旅行を提供できるものが勝者になる」としたうえで、タビマエでは顧客のタッチポイントが増加しているなか、的確な販売アプローチと顧客サービスが必要とされ、WeChatやLINEなどの「スーパーアプリ」が存在感を強めていると付け加えた。また、旅行者がパーソナルな体験を求めているなか、タビナカではMaaS、民泊、カーシェアリング、将来的には自動運転も含めトラベルテックの勢いが増しており、「ゲームチェンジが起こっている」と説明した。
最後に、4つ目のポイントとして「パッケージ離れ」をあげる。
欧米との比較では、伝統的なパッケージツアーの2018年の売上高は、欧米では前年比微増となった一方、日本は微減となった。牛場氏は「欧米では若い世代を中心にリアルエージェントへの回帰が起こっている」と説明。その理由として、専門性、ヒューマンタッチのサービス、個人的な信頼関係を挙げ、「日本でもこの分野で旅行会社の強みを生かしていくべき」と主張した。また、「今後はアメリカのように日本でも、OTAがダイナミックパッケージ、リアル旅行会社はパーソナルな高額商品の販売と棲み分けが起こるのではないか」と予想した。
そのうえで、ダイナミックプライスによって事前の価格設定が難しくなるうえに、旅行者のエクスペリエンスを求めるニーズからも、「紙のパンフレットの時代は終わるだろう」と予測。今後はサプライヤーによる直販が拡大し、ロイヤリティプログラムなどサプライヤー側の工夫も増えていくなか、「旅行会社がこれに対抗するのは難しい」としたうえで、「旅行会社にとっては、サプライヤーから仕入れる単品にどのような付加価値を付けていくかがカギになる」との見解を示した。また、シームレスな旅を提供していくうえで、「不満、不足、不自由の3つの『不』に対応していくことがサプライヤーとの差別化につながる」との考えを示した。
フォルシア、旅行会社向け共通基盤を来年夏めどに提供
セミナーではフォルシア取締役の大西孝明氏が、ダイナミックプライスによって旅行会社が直面する課題について説明した。同社はデータ検索を賢く、無駄のない形で提供する情報検索プラットフォーム「Spook」を開発。データの整理・統合、データの圧縮・軽量化、DB高速処理、UI/UX最適化などのソリューションを提供し、旅行会社には検索レスポンスを高める高速検索、一括検索の横断検索、最新情報を反映させる更新頻度で導入実績がある。
大西氏はまず、商品面の課題として、サプライヤー側が価格交渉で優位に立つほか、素材の同質化によって差別化が難しくなる可能性があると指摘。また、これまでの価格設定のノウハウが生かされなくなると警鐘を鳴らした。
販売面の課題では、少品種大量販売のビジネスモデルが崩れる可能性に触れたほか、パンフレットを基本とした提携販売店モデルも見直しが必要になるとした。
さらに、システム面の課題としては、ダイナミックプライスによってこれまでの商品造成のシステムの見直しが迫られ、それをうけて外部システムとの接続でコストが発生するほか、複数システムとの接続でパフォーマンスの課題も起こりうるとの認識を示した。
こうした課題の解決に向けて、フォルシアではダイナミックプライスに適用に合わせて、旅行会社向けに販売共通基盤の構築を進めているという。この基盤には、現在展開している「共通宿データ配信サービス」をもとに宿泊素材の取り込み機能を付加するほか、航空やレンタカーなどの素材で複数情報を取りまとめるゲートウェイ機能を搭載。日付やエリアなど細かい条件に基づいて利益を計算できる「マークアップ設定」や特定条件を可能とする「条件設定」などの管理システムも加える。
また、将来的には蓄積されたデータをもとにAIによる旅行代金最適化も視野に入れるほか、エンドユーザーに対してその嗜好性や検索購買行動から最適な商品を提案するパーソナライズ機能も検討していくという。
同社では、この共通基盤ソリューションについて、必要な機能を必要なだけ利用できるように、SaaS (Software as a Service)形式で来年夏頃をめどに提供していく計画だ。