2019年7月にハワイ島の復活を目的として、日本の旅行会社と現地サプライヤーとの商談会「ハワイ島サミット」が開催された。昨年5月のキラウエア火山の噴火は日本でも大きく報道され、その影響でハワイ島への日本人旅行者は大幅に減少した。その余波は現在も続いており、今年1〜5月の実績では前年比25.8%減の6万1809人にとどまっている。ハワイアン航空と日本航空がコナに直行便を飛ばしているにもかかわらずだ。地元では「報道による風評被害の面が大きい」と訴える。今、ハワイ火山国立公園とその周辺はどうなっているのか。実際に見に行ってみた。
キラウエアの噴火被害は局所的
まず、ハワイ島の基本情報として、その大きさに触れておく。ハワイ島はハワイ主要7島のなかで最も大きく、他6島を合わせた面積よりも広い。四国の約半分、岐阜県とほぼ同じ広さだ。ハワイ島には、北からコハラ、マウナケア、フアラライ、マウナロアの火山があり、今も活動を続けているキラウエアは最も南に位置する。西側のコナ国際空港からは島を横断する「サドルロード(ダニエル・K・イノウエ・ハイウェイ)を通っても160km以上、約2時間30分ほどかかり、東側のヒロからは噴火の火柱が見えたというが、40kmほど離れている。
キラウエアの活動的なリフトゾーンは東と西にあり、昨年5月に割れ目噴火を起こしたのは西側の「レイラニ・エステート」地区。ここの住宅は溶岩流の被害を受けたが、ハワイ島全体から見れば、狭い点でしかない。噴火の連動で頻発した火山性地震によって、最も有名なハレマウマウ火口は陥没したが、火口近くに位置するビジターセンター、ボルケーノ・アート・センター・ギャラリー、ボルケーノ・ハウス・ホテルへの被害はなく、変わらず営業している。
噴火被災地を「生々しい」観光素材に
被害が大きかった「レイラニ・エステート」はリフトゾーンの上にあり、そもそも危険度が高いと分かっていた場所で、それを承知で住民も暮らしていたという。噴火から1年以上が経った現在では、生々しい割れ目が各所に残り、そこに近づくと、熱風を感じるが、危険はない。被害が大きかった場所はいずれも私有地だが、ハワイ州観光局(HTJ)では、この「生々しさ」を観光素材として商品化できないかと模索しており、現在3人のオーナーと話を進めているところだという。
そのうちの一人、「フィッシャーナイン(第9亀裂)」の近くで被害にあったクリスさんは「噴火の時は飛行機のジェットエンジンのような音がした」と振り返りながら、今は凝固した溶岩を歩き、自宅があった場所を案内してくれた。噴火後、クリスさんはかろうじて難を逃れた近隣の家を買い取った。理由は「安かったから」だという。それだけ、住民と火山との距離は物理的にも精神的にも近い。
同じくフィッシャーナインからの噴火で被害にあったヒースさん。噴火によって崩壊した自宅を現在もそのままにしてある。噴火の熱で焼けただれた芝刈り機も当時のままだ。「周りの木々も焼かれ、ここの環境も変わった。海からの風が入るようになり、前よりも乾燥して気温も上がった」と説明してくれた。雨が降ったり、気温が低い時は、割れ目からの蒸気が激しくなるという。
ハワイ島の成り立ちが分かる過去とリアルな今が垣間見られるレイラニ・エステートは、新しい素材として魅力的だ。ただ、同行した旅行会社からは「しっかりと説明できるガイドが必要」との意見も聞かれた。ストーリーの語り手による「学び」の機会を旅行者に提供しなければ、ハワイ島の理解につながらず、旅行者の記憶にも残らないだろう。
神聖なワイピオ渓谷で乗馬体験
キラウエア火山が南のハイライトなら、ワイピオ渓谷は北の絶景だ。アウトルックからは、切り立った崖とその懐に抱かれた緑の渓谷が一望できる。青い海とのコントラスがハワイらしい。その谷はカメハメハ大王が幼少期を過ごした地と言われており、ハワイアンにとっては神聖な土地。黄泉への入口につながり、ハワイアンの霊(マナ)が宿ると信じられている。
谷底へは急勾配の坂を降りなければならないため4輪駆動の車に乗り換える必要がある。歩いても下れるが、帰りの上りが相当きつい。4駆で降りる時、膝に両手をついて、肩で生きをしている旅行者を何人も見た。現地ツアーに参加するのが無難だ。
谷底では乗馬ツアーに参加した。馬に乗って、タロイモ畑の周辺を巡り、川を渡り、自然と一体になる。馬上は視線が高いため、開放感も抜群だ。手綱の扱いも簡単。インストラクターに教えられたとおりにすると、馬も従順に従う。実際のところ、馬にとっては歩き慣れた道。いつもの散歩コースに我々が連れて行ってもらっていると言ったほうが正しいかもしれない。
参加した乗馬ツアーは現地オペレーターのホロホロアイランドツアーズの催行。若いカップルと女子旅の二人との混載だった。若いカップルは初ハワイ。モルジブなども旅行先候補にあがったが、「モルジブだとリゾートで何もすることがなさそうだったので、アクティブなことができるハワイ島を選びました」と教えてくれた。
この後オアフ島にも向かうがハワイ島のほうが滞在は長いという。一方、女子旅の二人組は二年連続でハワイ島。昨年はキラウエア噴火直後の7月に訪島。マウナケアでの星空鑑賞を楽しみにしていたが、悪天候で中止になったため、そのリベンジで今年もハワイ島を選んだという。しかし、今年も断念。TMT(Thirty Meters Telescope:30メートル望遠鏡)の設置反対運動でマウナケアへの道路が封鎖されたためだ(2019年7月中旬)。「ツイてませんよね」と言うが、「乗馬は楽しかった」と満足そうだった。
ハワイ島をゆったりと楽しむグランピング
定番の観光やアクティビティに加えて、ハワイ島活性化に向けて新しい商品の開発も出始めた。そのひとつが、全米屈指の白砂ビーチを持つウェスティン・ハプナ・ビーチ・リゾートがJALと開発したグランピングだ。敷地内のビーチと海を見下ろす丘に豪華なキャンピング施設をセッティング。巨大ジェンガなどのゲームも用意されている。美しいサンセットを眺めた後は、ワンランク上のBBQディナーを楽しむ。陽が完全に落ち、闇夜に包まれたあとは、満天の星空を鑑賞するスターゲイジングの時間も設けられている。
このグランピングは、JAL便利用でウエスティンに宿泊の旅行者限定のプランで、宿泊期間は今年の12月21日まで。ウエスティンの担当者は「ハワイ島の新しい観光のハイライトになれば」と今後に期待感を示した。
取材・記事 トラベルジャーナリスト山田友樹