英国の老舗旅行代理店トーマス・クック社が2019年9月23日、追加の資金調達交渉に失敗したことにより、ロンドンの裁判所に破産を申請した。すでに旅行事業を停止し、同社が保有する航空機も運航を中止。23日時点で、同社のツアーによる海外旅行者 は約15万人にのぼり、2020年の予約者も多数抱えているほか、同社の雇用や同社ツアーを取り扱うリテーラーにも影響が及ぶことから、大きな波紋を広げている。
英政府は、海外で足止めされている旅行者を帰国させるために、チャーター機を用意。すでに23日から開始されたものの、英政府は、平時としては史上最大の「救出作戦」となるため、遅れは避けられないとしている。AP通信によると、グラント・シャップス英運輸大臣は「チャーター機は数十機に上る見込みで、遠くはマレーシアまで飛ばす」ことを明らかにした。帰国者の金銭的負担はない。
トーマス・クック社は今年8月に、最大株主の中国投資会社、復星国際(フォースン・グループ)から救済資金9億ポンドを獲得していたものの、先週になって大手株主や主要取引先銀行が信用条件として追加で2億ポンド(約266億円)の資金調達を要求していると明らかにしていた。破綻を避けるために追加融資の機会を探っていたが、不調に終わり、破綻申請を余儀なくされた。
1841年創業のトーマス・クックは現在、英国内の約9000人を含め世界16カ国に約2万1000人の従業員を抱えている。同社の財務問題は数年前から顕在化。今年5月には、12億5000万ポンド(約1663億円)の債務を抱えていることを公表し、その要因として10月末のブレグジットの「合意なき離脱」に向けた不安定な政治状況が夏休みの旅行需要に大きく影響したと説明していた。同社によると、数ヶ月前から予約数が減少。債務も膨れ上がったという。
ボリス・ジョンソン英首相は、「政府はトーマス・クックを救済することはない。海外に足止めされている旅行者を帰国させることには全力を挙げるが、同社の救済はモラルハザードを引き起こしかねず、今後同様な事案で救済を求めてくる会社も出てくるかもしれない」と発言。経営破綻については、「自社でどうにかするべき」との立場を明らかにした。
今回の「救出作戦」は2017年のモナーク航空の破綻に続くもの。その時、英政府は約6000万ポンド(約79億8000万円)を拠出したが、今回のトーマス・クックの事案はそれをさらに上回ると予想されている。
現在、約100万人の予約者がいると見込まれ、その予約はすべてキャンセルされるが、英政府の旅行者保護を目的とした補償制度(Air Travel Organizer’s License)の条件にしたがって払い戻される。
トーマス・クックの破綻は同社ツアーの旅行者だけでなく、およそ500店舗と見込まれる同社の販売網にも大きな影響が出ると懸念されている。また、今後ホテルは代金の支払いで問題に直面すると予想され、トーマス・クックの航空機や同社のパッケージ商品を取り扱う代理店は、代替手配に追われることになる。