パッケージツアーの未来はどうなる? トーマス・クック破綻で見えた構図を分析してみた【外電】

逆風のなかで変化を強いられているパッケージツアーだが、英国、ドイツ、中国、カナダなど、オフラインでの旅行手配への支持が根強いマーケットもある。トーマス・クック破綻の原因は、変化に適応できなかったことが一つだが、これ以外にも、様々な要因があったようだ――。

トーマス・クックが消えたことを知り、パッケージツアーの時代は「もうだめ、終わりだ」と思っている人は、ライアン・エアのトップ、マイケル・オライリー氏だけではないかもしれない。だがこの考えは間違っている。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

少なくとも、欧州における二大旅行マーケット、英国とドイツのマーケット状況を見る限り、パッケージツアーは今も健在だ。アジアに目を転じると、例えば中国でもパッケージツアーはかなりの支持を集めている。

もちろん、フライトとホテルを組み合わせ、観光目的のパッケージ商品を作り、オフラインで販売する、という昔ながらの手法は、OTAやダイナミック・パッケージに押され気味だ。オンラインでは、色々なフライトやホテルの中から、もっと自由に選べる旅が提供されている。

昨今の消費者は、オンライン経由で、格安航空会社やホテルを直接予約する傾向が強くなっているため、OTAもオフラインの旅行会社も、ビジネスモデルの見直しを進めてきた。

それでもオフライン販売の観光パッケージツアーは、圧倒的とは言えないものの、特定マーケットで確固たる支持がある。トーマス・クックではパッケージツアー造成のために、自前の航空会社やホテルのない地域では、ホテル客室や航空座席を事前にブロックする必要があり、これに伴うリスクを自社の弱点として挙げていた。だがデジタル経済への対応に失敗したことが、破綻につながった要因の一つだ。

モルガンスタンレーが9月に発表した、トーマス・クック破綻の背景を巡るリサーチによると、英国とドイツでは、「観光パッケージツアーの取扱高は、ここ10年、増加している一方、全体に占めるマーケットシェアは変わっていない」。つまり、旅行の予約方法において、OTA経由や、航空会社やホテル直販が今や主流を占めているのだ。

とはいえ、以下のグラフから分かるように、英国とドイツでは、オフライン販売の観光パッケージツアーのシェアは安定している。2018年実績では、それぞれ40%弱と43%を維持していた。(モルガンスタンレー調べ)

格安航空会社やOTAは、一人当たりのコストが高い従来型の旅行業にとって脅威だが、老舗の経営破綻につながった原因は、他にもあるとモルガンスタンレーは指摘する。

同社リサーチでは、「独TUIと同じく、トーマス・クックでも、自社のグループ傘下ブランドへのホテル囲い込みを進めてきた。だがそれ以外にも、航空座席の供給過多、リゾート需要が地中海の東から西へとシフトしたこと、昨年の熱波、そして大きな負債額が破綻の原因だ」としている。

英国の旅行代理店協会、ABTAが2019年6月に明らかにした内容によると、英国から海外へバケーションに出かける旅行者で、パッケージツアーを予約した人は、全体の半分ほど。この数字は2014年から変化していない。だが、パッケージツアーの中身については、珍しい場所を訪れるテイラーメイドのツアーやアドベンチャー、海や川でのクルーズ、健康によい過ごし方、あるいはオールインクルーシブなどの要素が好まれる傾向にある。

英旅行市場において、米国など他国よりパッケージツアー支持が高い理由に、ATOL(Air Travel Organiser’s License=航空旅行手配ライセンス)補償がある。この制度により、今回のトーマス・クックのように、万一、手配した旅行会社が破綻しても、英国の消費者は払い戻しを受けられるほか、海外にいる場合は、自国までの帰路を用意してもらえる。

英国やドイツ以外では、中国でもパッケージツアー支持が根強い。上海を本拠地とするシートリップはOTAだが、電話などオフライン経由でもパッケージツアーを多く販売している。同社によると、パッケージツアーには一定以上の市場シェアがあり、2018年総売上の12%を占め、2018年度の売上は前年比27%増だった。

変わりゆく消費者の行動

英ABTAが指摘している通り、トーマス・クックとTUIはどちらも、従来型の観光パッケージツアー事業が、OTAや格安航空会社、クルーズの台頭により、難しい局面を迎えていると認識していた。両社とも、観光パッケージツアーをオンラインでもっと便利に予約できるようにするなど、利用者にとってフレキシブルな体制作りに取り組んでいた。TUIでは、オールインクルーシブ商品など、他とは違う独自コンテンツをアピールしている。

トーマス・クックが2018年11月、つまり破綻の10カ月前に行った2018年決算発表では、2019年度の最優先課題の一つとして「(事前仕入れによる)在庫リスクを減らし、ダイナミック・パッケージングを拡大する」としていた。

従来型のツアー造成ビジネスモデルでは、客室や航空座席をブロックで事前に仕入れておくため、ツアー参加者が集まらなかった場合のリスクを背負うことになる。

またトーマス・クックでは、2018年度の観光パッケージツアー利用客の数は、3年前より20%増えたものの、利用客の3分の2以上がパーソナライズされた観光に関心を示していると指摘。これに対応するため「自分の好きなビーチチェアと客室が選べる」プランを新しく導入していたが、残念ながら遅すぎたうえ、内容的にも不十分だった。

現存する上場企業の旅行会社としては、世界最大規模を誇るTUIでも、2018年12月に行った2018年度決算報告で、ブリジット・コニックス最高財務責任者(CFO)は、2019年度がチャレンジングな一年になるとの見通しを明らかにしており、特に「OTAやダイナミック・パッケージングによる競争激化」を危惧していた。

時代の変化に適合しているツアーも

計42のツアーとクルーズ、ホテルのブランドを展開しているトラベル・コープのブレット・トールマン最高経営責任者(CEO)は、トーマス・クック破綻について「パッケージツアーの未来とはあまり関係ない話だ。原因は、事業内容があまりにも広がり過ぎてサービスが低下し、25億ドルの負債があり、4年前にハリエット・グリーン氏が去った後は将来へのビジョンもプランもなかったこと。さらに航空会社を抱え、600近い店舗の運営もお粗末だった」と話す。

トールマン氏の会社では、顧客リピート率が過去5年間で30%以上、伸びているが、それは「昨今の旅行者の要望に応じられるよう」(同氏)、テクノロジーに投資し、ビジネスモデルの多様化に取り組んできた成果だという。

「それから負債はないし、航空会社や店舗も持っていない」とトールマン氏は付け加えた。

トロントの旅行会社、Gアドベンチャーズで欧州・中近東・アフリカ担当マネジングディレクターを務めるブライアン・ヤング氏は、ここ数年、業績は2ケタ増で拡大しているという。

この2~3年間で、手軽なクルーズ、格安航空会社、1泊前後の都市観光ツアーへの需要が広がり、旅行マーケットの様相が変わってきたと同氏は話す。

「もちろんビーチリゾートで過ごすパッケージツアーを探している人もいる。こうした需要は今でも大きい」とヤング氏。

ただし、以前は2週間の休暇旅行が中心だったのに対し、最近では7~10日間で考えている人が増えている。さらに、秘境や珍しい体験への関心が以前より高い。「毎日、ビーチばかりでは退屈なのだ」(同氏)。

なかには、14日間の長い休暇をとる代わりに、「2日間のマジョルカ島への旅行を数回に分けて楽しむという人もいる」とヤング氏。

観光パッケージツアーをOTAのダイナミック・パッケージと比較した場合、大きな利点の一つは、旅行会社がツアーの最初から最後まで、現地での体験を含めてコントロールできるため、より質の高いサービスが提供できる点だとヤング氏は指摘する。

OTAが取り組むダイナミック・パッケージ

エクスペディアやプライスラインなど、米国系OTAは、すでに10年以上、ホテルと航空券を組み合わせるダイナミック・パッケージを扱っており、もはや定番商品だ。ただし、各社とも、パッケージツアーの売上については明らかにしていない。

「2018年のエクスペディア・グループ全体での1日当たり平均宿泊レートは、単品での宿泊費より常に高いペースで推移していたし、予約時期も、平均して16日ほど早かった」と同社広報担当のブリジット・ベネリーシャ氏。「それにキャンセル率は、単品の予約に比べて半分以下だった」と話す。

海外旅行のパッケージ商品では、滞在日数が米国内旅行より長くなるが、「それでもキャンセル率は、単品予約に比べて4分の1と、さらに低かった」。

エクスペディアでは2018年、航空券を含むパッケージ商品を予約した人にだけ、ホテルの延泊料金を割引するキャンペーンを展開した。それぞれの単価内訳は明らかにしていない。

同社のマーク・オカストローム最高経営責任者(CEO)は2018年7月、パッケージ商品の取扱いは好調で、予約泊数のさらなる増加を後押ししたとコメントしている。

フレキシブルなダイナミック・パッケージ機能の進化により、これからも観光パッケージツアーが多くの人から支持されることは確実だ。どんなツアーがヒットするかは、その時々の状況や、マーケットによって異なる。だが観光パッケージツアー発祥の地であり、長らく旅の定番商品だった英国ですら、消費者は、選択肢の拡充を望むようになっている。ビジネスモデルが、世代交代の時を迎えている。

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:What Is the Future of Packaged Vacations After Thomas Cook’s Collapse?


著者:デニス・シャール氏

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