トラベルボイスLIVE特別版:開催レポート
訪日インバウンドでますます存在感を増している中国市場。さらなる成長が見込まれる一方、旅行者の変化も著しい。9月下旬、「中国における認知拡大とブランディング」をテーマに、ナビタイムジャパンと共催したトラベルボイスLIVE特別版でも、「日本人が抱く中国人旅行者のイメージとのギャップ」を指摘する声が上がり、「コミュニケーションの手法は中国市場に歩み寄るべき」とのアドバイスが話された。
いまの中国人旅行者は日常でどのような情報を好み、どのように旅行先を選んでいるのか。来日したアリババグループの旅行プラットフォーム「フリギー(Fliggy)」や、中国で国際ブランドのマーケティングを手掛ける「第一秒电商科技(D1M)」の各マネージャーが語った、中国人旅行者のタビマエ、タビナカの姿をレポートする。
中国人旅行者が訪日旅行に望むもの
トラベルボイスLIVEで、まずナビタイムジャパンのインバウンド事業部部長・藤澤政志氏が、観光庁やJNTOの統計や同社の訪日外国人向けアプリ「NAVITIME for Japan Travel」のデータから、訪日中国人旅行者の個人旅行(FIT)の変化を説明。2019年と2017年を比べると、FIT向けツアーは縮小し、航空券や宿泊を自己手配する人が6割超に拡大した。平均宿泊日数は2017年の5.4日から2019年は3.95日と減少し、短期滞在型へと変わってきている。
さらに同アプリの経路検索ランキングで伸び率をみると、三原(広島)や富山、静岡など、定期便の就航数が増えた地方空港へのゲートウェイとなる駅が上位にあがってきた。特に北海道では、釧路や網走、稚内など道内の各終着駅も軒並み検索数が増えているという。
藤澤氏はこれらデータから、日本でレンタカーの運転ができない中国人旅行者は、個人旅行での移動では電車やバスで「地方空港から行けるところまで足を延ばしている」と説明。今年は、日中合作映画「コンプリシティ」のロケ地となった「大石田町(山形)」、猫のたま駅長で有名な「喜志駅(和歌山)」なども検索されるようになり、「団体旅行では行かない場所を自分でインターネットで見つけている」との見方を示した。
フリギー(Fliggy)オペレーション・ディレクターの沈伯雷氏も、同社のデータから同様の傾向が読み取れることを説明。
中国の海外旅行者が現地で使う金額の32%が買い物であり、日本での消費額は1人あたり4.2%増加していることから、訪日旅行での買物意欲は引き続き高いとした上で、中国人旅行者の傾向として「ディープな体験を求めつつ、旺盛な消費意欲もある。滞在時間が少ないので、買い物は効率的に済ませてより多くの時間を体験に充てたい」と、滞在中の時間配分に対する意識変化も指摘した。
また沈氏は、フリギーが今年から開始した、旅行前に旅先の実店舗の商品をオンラインで購入し、現地で受け取る「フリギーゴー」を紹介。現地での買い物をスムーズに終了させる同サービスが、いまの中国人の旅行志向に合致するものであるとした。フリギーゴーはまず重点市場の日本から開始し、2020年には他市場へも展開。2022年~23年までには中国で「海外での買い物といえばフリギーゴー」といわれるサービスに育てる方針だという。
さらに、D1M(ディーイーミャオ)BD & パートナーシップディレクターの戚丽文(せき れいぶん)氏が、中国のデジタルリテール全般のトレンドについて、中国人消費者が好む情報ソースやその内容、商品の傾向を解説。いま中国では若者を中心に中国国産ブランドの好感度が高まり、「原点回帰」の潮流があるという。
例えば、中年女性が使うイメージのあった老舗ブランド「百雀鈴」のハンドクリームが若者に人気となった発端を紹介。商品を若者が好むデザインや広告内容にリブランドして、メッセージアプリ「ウィーチャット(WeChat)」で若者向けに発信したことで、「中国国産ブランドも海外ブランドに劣らない」と思うようになった若者層の感性に響いたという。
ただし戚氏は、若者も海外ブランドの良さは理解しているとし、「そのニーズに対し、コミュニケーションの部分でローカライズして寄り添うことが大切になる」とアドバイスした。
中国人消費者はかなりの“目利き”になっている
パネルディスカッションには、ナビタイム藤澤氏、D1M戚氏と上海在住で日中間のビジネスコーディネートを行なう小林千夏氏が登壇。モデレーターのトラベルボイス代表取締役社長CEOの鶴本浩司の進行のもと、タビマエの中国人旅行者が日常で見るデジタル情報から商品選定のヒントについて、見解を披露した。
まずは戚氏が、中国人が日本を選ぶ際のポイントとして、「情報」と「利便性」の2点を提示。「情報」ではクチコミや他人のレビューを重視していること、「利便性」ではホテルや現地体験など、予約手続きから現地での移動まで便利に行なえることが大切だと説明した。
これに藤澤氏も同調。先のプレゼンで訪日中国人旅行者が電車で行けるところまで行く傾向を説明したが、その際には「目的地まで電車で行けるかを逆算してプランニングしている姿が垣間見える。行き先は中国人旅行者があまり行かない場所、ローカルな触れ合いを求めている」とし、利便性とユニークな体験を掛けあわせて旅行先を見つけようとしていると見解を述べた。これに戚氏も「ほかの人が知らない場所を選ぶことがアイデンティティに繋がっている」と同調した。
また、戚氏は「日本の発信者と読み手の中国人消費者が使用するプラットフォームやコンテンツにはギャップがある」とも指摘。小林氏も、5~10年前は日本のブランディングだけでも購入されていたが、中国人にとって世界のブランドは横並びとなり、中国回帰のトレンドにある今は「日本というだけでは響かなくなっている」と指摘した。ただし、「日本のモノづくりに真摯に取り組む姿勢は響いている」と話し、「興味を持っている部分をコンテンツ化して、読み手が読みたがるプラットフォームに載せることが大切」とアドバイスした。
戚氏によると、いま、中国人が利用する人気のソーシャルアプリは「ウィーチャット(WeChat)」、ショート動画アプリ「ティックトック(TikTok)」とそれに似た「快手(Kuaishou)」、「小紅書(RED)」の4つ。
このうちREDは日本に似たようなサービスはないが、Instagramのストーリーのようなレビューアプリで、特に若い女性の人気が高い。広告配信も多いが、戚氏によると中国人ユーザーは広告でも質が良けれ支持されるといい、同アプリはプロモーション基盤として注目だという。
最後にトラベルボイスの鶴本は、クチコミやレビュー情報が重視される中国のインフルエンサーマーケティングで、「KOL(キー・オピニオン・リーダー)」のほか「KOC(キー・オピニオン・カスタマー)」の言葉が登場していることを紹介。“リーダー”ではなく“素人”で、影響を与える友人・知人数は100人や200人程度かもしれないが、より消費者に近い存在として発信する人の重要性が高まっているという。
これを踏まえ鶴本は、「いま、旅行をしているその人がデスティネーションのプロモーターでもある」とタビナカの旅行者の重要性を改めて強調した。