航空の新流通規格NDCは加速の勢い、2020年には20%に、座席や機内食を組み合わせた提案も可能に ートラベルポートLIVE2019

トラベルポートが主催した「トラベルポートLIVE2019」。そこでは、国際航空運送協会(IATA)が進める新流通規格NDCについての議論が展開された。トラベルポートがNDC接続している航空会社は現在のところ5社。同社NDC担当副社長のイアン・ヘイウッド氏は、「現在20社と話を進めている」と明かす。シンガポール航空は来年4月からの実装をすでに発表。2020年は他社でもその動きは加速すると予想されている。NDCの現状について、そして将来のリテールの見通しについても議論が進められた。

シンガポール航空、2020年末にはNDC流通が20%に

トラベルポートは来春を目途に基幹システムの「スマートポイント」において、NDCに対応したプラグインをリリースする予定にしている。ヘイウッド氏は「NDCコンテンツを市場に投入する目の前にきている」としたうえで、改めてNDCのメリットを説明した。

まず挙げたのが、検索の段階で顧客の趣向が分かること。また、個人ごと、旅行会社ごとにパーソナライズが可能になり、顧客の趣向に合わせて、さまざまな座席や機内食を組み合わせた商品を提案することが可能になることもNDCの強みとした。

さらに、これまで以上に早い機動性、アンシラリーの販売、ダイナミックプライスへの対応を挙げたほか、NDCによって旅行会社は、航空会社との関係において他社とは異なる商品を提案できることから、差別化を図ることができる点も強調した。

パネルディスカッションに登壇したシンガポール航空Eコマース&ディストリビューション担当地区VPのブライアン・コー氏は「まずはアンシラリーサービスとロイヤルティ関連のコンテンツから始める。2020年末までには20%がNDCの流通になるのではないか」と明かす。

ただ、課題もまだある。ひとつは航空会社と旅行会社やアグリゲーターとの関係だ。コー氏も、NDCを進めることで、「中間業者を飛ばしてビジネスをすると捉えられてしまった。バリューチェーンのパートナーに頼るところはまだ多い。NDCですべてをカバーすることはではない」と説明する。

また、オーストラリア旅行業協会(AFTA)チーフ・エグゼクティブのジェイソン・ウエストベリー氏も「すべての旅行会社がNDCで契約をしなければいけないのかと心配している。より透明性のある航空会社が出てくれば、変わるだろう。航空会社にはもっと事前に情報を出して欲しい。旅行会社は地殻変動が起きていることを認識する必要はあるが、情報がなければ、旅行会社は判断しようがない」と旅行会社の立場を代弁する。

中国と香港で航空券販売を展開するFlightroutes24のビジネス・ディベロップメント担当VPのナンシー・ツォー氏は「航空会社ごとに考え方がある。顧客からは他の航空会社はどうなっているのかとの質問を多く受ける」と現状を明かし、ウエストベリー氏も「いろいろな航空会社がいろいろな方法をすると失敗する。業界での標準化が必要」と航空会社への要望を口にした。

トラベルポートのヘイウッド氏も「ATPCOとNDCコンテンツとの組み合わせになると思うが、それに苦労しているアグリゲーターもいる。共通の規格を使えば問題ないが、そうはなっていないところが課題」と認め、技術面での整備もまだ必要との考えを示した。

NDCパネルディスカッション。(右から)トラベルポートNDC担当副社長のイアン・ヘイウッド氏、AFTAのジェイソン・ウエストベリー氏、Flightroutes24のナンシー・ツォー氏、シンガポール航空のブライアン・コー氏

テクノロジーで航空リテールはもっと進化する

NDCによって、今後さまざまなオプションや組み合わせが増えていくと予想される。トラベルポートのトラベルパートナーズCCOのジェイソン・クラーク氏は「以前は航空会社の商材はシンプルだったが、今はいろいろなオファーやバリューがある。消費者が理解しきれない状況になっている」と指摘する。

そこで、トラベルポートはATPCOが進める新しい航空券の比較検索規格「Next Generation Storefront(NGS)」のワーキンググループに参加している。NGSは、複雑性をできるだけなくし、価格ではなく価値を売ることでアップセールを目指すもの。「複雑性の中で、自分が買った運賃の中身が分からないことにストレスを感じている消費者は多い」ことから、その改善を進めていき、基幹システムであるスマートポイント上の検索での展開を目論む。

プレゼンテーション資料より

また、クラーク氏はテクノロジーの進化によってリテールの方法が変わると指摘。たとえば、現在250億ドル市場と言われているビジュアル検索ビジネスだが、来年の終わりにはボイスリサーチが大きく成長すると言われている。「バーチャル広告をクリックすると、広告の方から購入を呼びかけてくるサービスも出てくるだろう。直接会話でブッキングすることができるので、非常にエンゲージメントがいい」。

機内では、乗客自身のスマホやタブレットとペアリングすることで、映画などのエンターテイメントを提供するだけでなく、リテールの機会も設けられる。「たとえば、飛行中でも、現地ツアー、レストラン、ホテルなどタビナカ素材の広告を出すことができる。それは、ラストミニッツで商品を売るチャンスになる」と未来を予測する。

他の業界ではリテールはもっと進化している。クラーク氏によると、スーパーで鶏肉を買うと、何を料理するか聞いてくる。回答すると、その売り場に誘導してくれるため、スーパーとしてはアップセールにつながる。NBAは、AR開発会社Magic Leapと提携し、ARによる観戦体験の提供を始めている。ナイキは、画面上でさまざまな色のスニーカーを自分の足に合わせることができるサービスを提供。クラーク氏は「今の消費者はこういうことを期待している。旅行でも没入感のある体験を考えていく必要がある」と主張した。

トラベルパートナーズCCOのジェイソン・クラーク氏

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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