新型コロナウイルス感染が急拡大し、死者数も中国を上回り、全土で移動制限措置を実施しているイタリア。観光が最大の産業のひとつであるこの国のホテル事業者は、この未曾有の危機のなか何を思うのか。また、今後にどのような見通しを持っているのか。フィレンツェで3つのホテルを経営するGiancarlo Carniani 氏が語った。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
ヒューマンタッチの対応に回帰
イタリアでは現在90%のホテルが営業を中止している状況だ。
フィレンツェ当局は、営業を中止したホテルに対して、感染者の収容のための施設として利用したいと要請してきた。いくつかのホテルがそれに応じたようだ。
私のホテルには120人の従業員がいるが、まだ誰も解雇はしていない。彼らは自宅待機中だ。現在の状況が収束するまで、彼らは政府から給与を受け取ることができる。通常よりは少ないが。
また、政府は、営業を中止しているあらゆる企業に対する課税も延期した。私個人についても、いつもよりは少ないが生きていくために必要な収入はある。
これまで、数え切れないほどのキャンセルを受けた。多くの予約者が直接私のホテルに電話をかけてくる。このようなことは最近ではなかったことだ。私たちは、予約者がホテルに現れれば、会うことができるが、彼らのことは何も知らない。
彼らは、エクスペディアやブッキング・ドットコムなどオンライン旅行会社(OTA)で予約するからだ。しかし、OTAはこの大量キャンセルに対応できていない。今、まるで昔に戻ったかのようだ。直接人と人が話してキャンセルしている。私たちはテクノロジーのことをよく話すが、いまは昔のようにヒューマンタッチのサービスが求められている。
まだイタリアへの旅行が禁止される前に、私たちは、返金不可の予約した旅行者に対して、顧客情報をそのままにしておくと伝えたところ、驚くことにほとんどの人がOKと答えた。そして、「今年は無理だろうけど、来年にはまたイタリアに行くよ」と答えた。
オンライン旅行会社の対応に怒り
そのようななか、私が知っているすべてのホテルが、ある一つのOTAに対して怒りを露わにしている。
なぜなら、その会社は、すべての予約者に返金をすると決めたからだ。これは契約に基づいて行うものというが、それは全くフェアではない。
私は3つのホテルを経営しており、そのうちの2つでは20%、もうひとつのホテルでは40%が、そのOTA経由の予約に頼っている。他社OTAを含めると、OTA経由予約が全体の40%を占めている。私のホテルだけでなく、フィレンツェでホテルに対してOTAの影響力は大きい。
すべてのOTAがそのような対応ではない。ホテル側に最良の解決方法を尋ねてくるOTA、社長からは協力を求める手紙を送るOTAもある。
しかし、そのOTAは、契約を盾に返金のみを私たちに強制している。最悪なのは、困難に陥っている人に対して、何の配慮もないことだ。株式市場のことばかり気にしているように感じる。サプライヤーのことは気にせず、ユーザーのことしか頭にないように見える。
私たちはみんな同じ状況にいる。私たちはみんなゼロ地点にいる。この危機がどれくらい続くのか分からないが、とにかくゼロから始めなければならない。そして、私たちには流通を変える力がある。
インターネット革命が起こったとき、私たちホテルは、そこに参加していなかった。OTAやそのほかのオンラインディストリビューターが隙間に入り込んできて以来、私たちのブランド力を活かすことは難しくなった。私は、今回の新型コロナウイルスが、ホテル流通を変えるルネサンスになるのではないかと考えている。
この危機が終わり、家に閉じ込められている人たちが開放された時、彼らがまず行うのは旅行だろう。だから、私たちはまた再起することができると信じている。
私は9.11同時多発テロのときも、このホテルで働いていたが、予約も、旅行者も、フライトもゼロになることはなかった。今回はまったくカタストロフィーだ。
海外よりも国内市場に
今回の事態を受けて、ホテル関係者はみんな、もっと国内旅行市場に注力すべきだと思っている。私も、すぐに海外から観光客が戻っくるとは思わない。海外からの観光客は秋には戻り始めかもしれないが、これまで通りに戻るのは数年かかるだろう。だから、私たちは国内で今でできることに集中していく必要があると思う。
今回は2008年のリーマン・ショックとも全く異なる。あのときは、旅行者の財布の紐は固くなり、ホテルレートも下がったが、それでも世界で旅行は続いていた。
現在、私のホテルが再開したときに収益がどうなるのか全く想像がつかない。しかし、今は誰も収益のことを考えてはいない。ただ、いつ再開できるか――。ただそれだけを考えている。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:"Nothing will be the same": How Italian hoteliers are coping with coronavirus fallout
著者:ミトラ・ソレルズ氏(Mitra Sorrells)