2020年10月末、「おきなわ国際IT見本市2020 (ResorTech Okinawa)」が開催された。ツーリズムEXPOジャパンに合わせておこなわれたもの。特別講演には、デジタル化推進と実践を行う政治家として世界で注目される台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏がオンラインで出演。デジタルによる新型コロナウイルス対策やデジタルトランスフォーメーション(DX)で必要なことについて語ったほか、玉城デニー沖縄県知事と今後のデジタル社会について対談した。
デジタル空間で重要なのは「信頼」と「透明性」
タン氏は2016年に35歳という若さで台湾のデジタル担当大臣に就任し、市民参加によるDXを推進。新型コロナウイルス対策では、いち早くデジタルソリューションを導入し、感染拡大を封じ込めたことで世界から注目を集めた。
タン氏は5年前に沖縄を訪問したとき、台風の直撃を受け、何も動きが取れないなかで、日本のオンラインによる災害情報配信に感銘を受けたという。その後、台湾で台風予測システムを構築。「これが今回のコロナ対策の土台になった」と明かした。
タン氏の主導により、台湾政府はマスク在庫管理アプリを構築。2月には早々と、国民健康保険証を提示するだけで、薬局で「処方箋を受け取るように」マスクを手に入れられるようにした。これに加えて、マスクの在庫状況をリアルタイムで示すマップを作成。オンラインで注文し、コンビニやスーパーマーケットでも配給する仕組みをつくった。
「トップダウンではなく、最前線にいる人たちの知恵を取り入れて改善していった。重要なのは市民の『信頼』。マスク配布で最初に薬局を活用したのは、薬剤師たちが地元で信頼されているからだ」と話す。
また、感染拡大を抑えるために必要な濃厚接触の追跡についても、同様に「市民の信頼が欠かせない」と強調した。台湾でもナイトクラブなどいわゆる夜の街関連での追跡が難しかったという。「彼らは政府を信頼していなかった。見つかれば逮捕されるのではないかと恐れていた」と明かす。
このままでは、彼らはアンダーグラウンドに潜ってしまう恐れがあったため、氏名を明らかにしない接触アプリを開発。夜の街関連の事業者に説明し、収集したデータを政府が共有できるように信頼を醸成していったという。
タン氏は「政府は市民を信じること。市民はその信頼に応えること。そのために必要なのは徹底した透明性だ。ロックダウンでは、お互いが信頼できなくなる」と明快に語った。
台湾では、シビックテック(市民のテクノロジー)というコミュニティーがあり、2012年には「ゼロから行政府の役割を考え直す」というGov Zero (gOv)という活動が立ち上がり、行政府に対して徹底した透明性と情報公開を求めている。タン氏は、その活動と政府とのパイプ役も務めている。
「デジタルイノベーションを使うことで、いろいろなアイデアや地域をつなぐことができる。全員が声を挙げることができる。デジタルスペースでは、お互いが密接につながる。そのなかで信頼性を構築できれば、お互いを信頼できるようなる」と話し、それは一国だけでなく、世代間、国際間でも同じことだと続けた。
タン氏と玉城知事が対談、「台湾×沖縄」でデジタルハブ構築を
タン氏の特別講演を受けて、玉城知事は対談のなかで、「つながることによって救われる命、支えられる生活がある。それを可能にするのがデジタル」との考えを示した。そのうえで、「コロナ禍はデジタルの重要性を考え直すきっかけになっている。デジタルの活用法には大きなヒントがある。コミュニティーをデジタルでつながることで、『誰も取り残さない、沖縄らしいやさしい社会』を創っていける」と話した。
沖縄県では、政策の柱としてSDGsを掲げており、持続可能な社会を創り上げていくうえで、社会、地域経済、観光などさまざまな分野でDXを推進している。
タン氏は、東日本大震災のときに活用されたLINEのインスタントメッセージを例にあげ、「デジタル技術は、人々が通常の生活やビジネスをすることができない危機のときに特に役立つ」とコメント。AIロボットによる遠隔コミュニケーション、チャットポッドによる医療など物理的に離れていても人と人とをつなげる力のあるデジタルは「ポストコロナでも役立つ」と続けた。
玉城知事とタン氏は、沖縄と台湾との共通の課題についても意見交換。まず、玉城知事は離島での課題に触れ、「沖縄でも離島がデジタルから遠く、基盤整備が必要だが、離島だからこそ、コミュニティーが求めていることを突き詰めれば、デジタルの先端の取り組みができるようになるだろう」と発言した。
また、タン氏は、高齢者によるデジタル活用について、コンビニやスーパーマーケットでのマスク配布で高齢者からのフィードバックを参考にしたと紹介。そのうえで「高齢者でも参加できるデジタルシステムを一緒に作れば、世代間のデジタル格差はなくなるのでは」と提言した。
玉城知事は最後に「沖縄県は、アジアの活力を取り込むアジア戦略構想を掲げている。デジタルエコノミーの分野で台湾と協力していきたい。DXの取り組みは、次の世代のためだ」と話し、沖縄と台湾とでデジタルハブを構築することを提唱した。
一方、タン氏は「台湾もデジタルによる活性化で沖縄県と同じ方向を向いている。台湾と沖縄は距離的、文化的に近く、共通の価値観がある。島国しかないレジリエンス(適応力)もある。今後も、デジタルの力を使って、観光や環境などの課題に一緒に取り組んでいきたい」と豊富を語った。