エイチ・アイ・エス(HIS)は、2021年10月期(2021年度)の連結業績(2020年11月1日~2021年10月31日)を発表した。売上高は前年72.4%減の1185億6300万円で、前期から大幅に減少。営業損失640億5800万円、経常損失632億9900万円、当期純損失は500億5000万円で、赤字幅は過去最大、コロナ禍初年となった前期と比べ、約2倍に拡大した。
特に主要事業の旅行事業は、売上高が430億2800万円で前期比98.0%減。コロナの影響のない2019年度(売上高7225億円)と比べると、6%程度まで落ち込んだ。海外旅行の比重が高いHISだが、2021年度も国際移動の制約が続いた。そのため、国内旅行に注力するも、当期はGoToトラベルキャンペーンのあった2020年11月と12月の一部と、緊急事態宣言が全国で解除となった2021年10月を除き、計9カ月間、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などで県境を越える移動の自粛が要請されていた。
代表取締役会長兼社長の澤田秀雄氏は「今期は非常に厳しい時期を迎え、以前油断ができない状況」とコロナによる影響の大きさを説明。しかしワクチン接種が国内外で進んでいることなどから今後の人流回復に期待を示した。すでに国内旅行のほか、テーマパーク事業やホテル事業の国内ホテル、九州産交グループなど国内需要の割合の大きい事業では回復の動きが始まっており、今後も各事業の国内需要に注力する方針。一方で、海外旅行は「夏ごろから回復すると期待している」と展望。国内需要・海外旅行とも、「コロナ対策の発展が追い風になる」と期待を示した。
経営方針:需要回復局面で反転速攻
今後の経営方針は従来と変わらず、「業績、需要回復客面では反転速攻。スピード感を持った経営でシェア拡大」(澤田氏)する方針。コスト削減と生産性向上による財務戦略の強化と新規事業の挑戦で、早期の黒字化を目指す。
例えば国内旅行の強化では、従来の全日空(ANA)のほか日本航空(JAL)とも直接契約を締結したほか、HISとして初めて鉄道会社との提携となる東武鉄道とも船車券契約を締結。契約ホテル数も2021年度には前年の2.5倍以上の約5500件に増加しており、取扱う路線や商材・商品の拡充で、国内旅行の売上高を2022年度には2019年度比で2倍強の800億円に、2024年度には4倍の1600億円に急成長させる計画だ。
一方、海外旅行では、強みを持つハワイやグアムなどビーチ方面と日本発海外船クルーズの再開からの回復を想定。「マスクへの意識の強い日本人の同乗が多い路線や商品から再開する」(取締役専務執行役員の中森達也氏)と見込む。海外旅行の再開時には、キャンセルサポートの提供やエイチ・エス損保のコロナ保険などで他社との差別化を図るとしている。
さらに、旅行事業でのデジタル化を推進。すでに2021年度はダイナミックパッケージとホテルサイトで、「約9万8700人、売上27.5億円を自動化で創出した」(中森氏)。商品のデジタル化以外にも、仕入・手配ではアゴダやブッキング・ドットコムなどの海外OTAのほか、グローバルホールセラーやホテルチェーンとの接続でホテル契約数を42万施設に拡大するなど、オンライン在庫投入で、生産性向上を図る方針だ。
子会社のGoTo不正による修正:返還額は最大6.4億円
連結子会社のミキ・ツーリストとジャパンホリデートラベルによるGoToトラベル不正取引を受け、設置した調査委員会による内部調査報告書の内容に基づき、2021年度決算で修正をおこなった。影響額は、売上高はマイナス20億100万円、営業利益はマイナス5億8700万円、当期純利益はマイナス3億9500万円。
ミキ・ツーリストの事案では売上高は自社利用のため発生しておらず、JHATからのホテル買取金額8100万円を売上原価から販管費へ修正。また、JHATのホテルを海外で販促することで契約した協賛金6300万円を取消し、販管費へ修正。その結果、営業利益はマイナス1億400万円となった。
ジャパンホリデートラベルの事案では、販売金額が不当に吊り上げられた価格のため売上高20億100万円を取り消した。販管費を計算した結果、営業利益はマイナス4億8200万円となった。この事案での給付金不正受給の返還額(発生が見込まれる最大額の債務)は、給付金3億1200万円と地域共通クーポン3億3000万円の計6億4200万円。この返還額のうち、収支差額を差し引いた4億2200万円(最大額)は法人顧客4社に対する請求額で、現在は立て替えている状態だとしている。