政府、「観光白書2023」を発表、「産業の構造的課題」に焦点、「稼ぐ力」の好循環が解決のカギに

政府は2023年6月13日、令和5年(2023年)版「観光白書」を閣議決定し発表した。今回の白書では、第Ⅰ部「観光の動向」のテーマ章で「持続可能な地域づくり」を取り上げ、観光産業が回復する一方で、賃金・人員不足、雇用の波動といった観光産業の構造的課題が顕在化していると指摘。データによる見える化とともに、世代を超えた住民とさまざまな異業種が参画し、地域のストーリーを磨き上げ、付加価値の高い体験型観光商品の提供などを通じて、稼ぐ力の好循環による持続可能な観光地域づくりを推進することが期待されているとした。

2021年の産業別離職率で最も割合が高かったのが、25.6%の宿泊業・飲食サービス業(入職率は23.8%)。観光白書では、新型コロナの影響から地方の経済や雇用の担い手となるべき観光産業が回復に向かうなか、生産性の低さや人材不足、雇用の波動性によるスキル蓄積の制約といった感染拡大以前からの積年の構造的課題が一層顕在化していると指摘。解決のカギとして、観光産業の「稼ぐ力」の強化に着目した。

日本の観光GDPは世界と大きな差、稼げる産業への変革を

また、雇用者所得、企業の利潤や投資など経済循環の源泉となる観光GDPをみると、日本は11.2兆円(2019年)で新型コロナ感染拡大前まで着実に増加してきたものの、経済全体に占める比率は2%で、先進7カ国(G7)平均の4%と大きな差がある。観光GDPとは、国内で生産した観光サービスのうち付加価値額。国連世界観光機関(UNWTO)が策定する国際基準に準拠して、日本では観光庁、世界各国の観光機関が毎年実施し推計している。

従事者1人あたりの付加価値額でも、日本は全産業の806万円に対し、観光産業他が491万円、宿泊業が534万円と相対的に低い。特に、宿泊業では米国(976万円)が顕著に高く、スペイン(709万円)、イタリア(690万円)が続いている。

観光白書ではこうした国際比較からも、「日本は観光の付加価値額や経済全体に占める割合が低位であり、『稼げる産業』への変革に向けて売上の増加(客単価×顧客数の増加)が取り組み課題になる」と指摘。そのうえで、観光サービスの生産において「稼ぐ力」を示す付加価値額をさらに強化することで、雇用者報酬への分配増加や観光DXをはじめ企業の再投資などの支出につながるとし、日本が目指す姿に「観光地を核とした地域活性化の好循環」を挙げた。

さらに、自らの観光地の「稼ぐ力」を地域経済分析システム(RESAS)などデータで「見える化」し、地域関係者で分析・共有するプロセスが重要だとも言及した。

住民とともに地域のストーリーを磨き上げ

一方、国内外の旅行者にとっても、地域の暮らしに関わるコンテンツが魅力的な非日常体験として価値が高まりつつある。この好機を「稼ぐ力」に変えるため、住民とさまざまな異業種が参画し、地域のストーリーを磨き上げ、高付加価値の体験型観光商品により滞在魅力を高め、地域への観光消費を住民の雇用と所得、地域の税収に還元し循環していく「持続可能観光地域づくり」が期待されるとした。

発表資料より

なお、観光白書では、国連世界観光機関(UNWTO)のデータから、世界の観光の動向もまとめた。これによると、2022年の国際観光客は前年比4億6200万人増の9億1700万人(101.5%増)、2019年比では37.4%減となり、新型コロナに伴う渡航制限等による旅行需要の減少が続いたが、2020年を底に回復傾向。アジア太平洋の遅れが目立つものの、2023年の国際観光客の回復見込みは、シナリオ1では2019年比で95%、シナリオ2でも80%になるとみている。

観光白書2023(PDFファイル、68ページ)

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