ホテルコンサルタントの堀口です。
今日は、インターネット(ウェブサイト)経由の団体予約について考えてみたいと思います。
ネットからの団体予約の問題が大きくなってきている
訪日外国人旅行者の大幅な増加により、国内主要都市や主要観光地では客室不足が指摘されていますが、これに比例するように増えているのが「ウェブからの団体予約」です。
仕事柄あちこちのホテルの方と情報交換することが多いのですが、ここのところ「どう対策したら良いか」という相談を受けることがとても増えてきています。
どのような問題なのか、簡単にまとめるとこんな感じです。
- ウェブを通じて、団体予約が発生している
- 団体予約が宿泊日直前でキャンセルされる事例が増えてきている
- 団体予約キャンセルを穴埋めできないことがある
- ウェブは個人予約が前提なので、キャンセル規定が団体予約に適していない
需要が高くなれば、ホテルとしてはより自社に有利なお客様(マーケットセグメント)やチャネル(予約経路)で販売しようとします。すると、海外の旅行会社やイベント会社などからの団体予約は、料金が見合わなかったりキャンセルされるリスクが高かったりするなどの懸念から、販売を控えるようになります。
しかし、そうした旅行会社やイベント会社もなんとかホテルを予約したい、というわけで利用されているのがウェブ予約、ということのようです。
ウェブから団体型の予約が入ってきたとしてもキャンセルされなければ良いのですが、実際にはこんな理由からキャンセルされることが度々あるようなのです。
- もっと安いホテルが見つかったからそちらに乗り換えた
- 航空券が取れなかったり集客が不十分だったりして催行されなかった
キャンセルされることがあらかじめ予想できるのであれば、その分多めに予約を受注するなどしてホテル側も予防策を取れます。一般的な団体について、キャンセル予測にはレベニュー・マネジメント(RM)の団体管理のノウハウ(例:団体の減少リスクに応じて予約区分を設定する)が有効です。
ところがウェブからの団体型予約は、ほとんどのホテルが「個人予約」として捉えており無自覚なことが多く、RMの団体管理の手法を知っていたとしても適用できていないのです。
結果、宿泊日直前で10室、20室という予約が急になくなってしまいます。宿泊日直前での予想外のキャンセルは穴埋めすることが難しいのです。
- リゾート地など地域によっては、宿泊日直前の予約が見込めないことがある
- GW前など期間によっては、宿泊日直前の予約が見込めないことがある
- 値下げによって穴埋めできたとしても、当初期待ほど「売上」は大きくならない
このような支障があるため、「ウェブから入ってくる団体にどう対応するべきか」という問題を考える必要がどんどんと増してきているのです。
ウェブからの団体予約にどう対応するべきか
結論から言いますと「これで問題を解決できます!」というような良い策はありません。残念ながら、少しでもリスクを回避できる程度の予防策しかないというのが現状です。
いくつかのホテルで取られている予防策を挙げてみましょう。
- ウェブからの団体予約を団体として扱う
- キャンセル規定を別途用意する
- 団体が予約されないように、客室在庫を小出しにする
- 事前カード決済を活用する
1. ウェブからの団体予約を団体として扱う
ウェブから入ってくる予約を注視して、規定以上(例:10室以上)の予約がウェブから入った場合、先方に問い合わせをして団体として扱い、RMの団体管理のノウハウを適用するというのがこの方法です。
まとまった数の予約や予約者が同じ予約を見つけたら、連絡先を確認します。メールアドレスであれば「@」以降の文字列から予約者の会社名(これが旅行会社であったりイベント会社であったり)が判明したり、電話番号をウェブで検索かければ会社名がわかったりします。そのうえで先方に連絡を取り、確実にいらっしゃるかどうかを確認するのです。
ただし、この方法は先方がきちんと対応してくれることが前提になっています。その意味では残念ながら確実性はそれほど高くないようです。
2. キャンセル規定を別途用意する
ウェブからの予約受注に際し「10室以上の予約の場合は、団体のキャンセル規定を適用します」といった一文を追加して、キャンセル規定を別途用意する方法です。
個人予約より厳しいキャンセル規定を設けることで、団体予約が入りにくくしたり、キャンセルされるとしても回復な可能な早い時点でのキャンセルに留めようとしたり、という効果が期待されます。
ところが、これも先方の対応次第という問題が残ります。
よくないケースでは、直前のキャンセルに対してキャンセル料を請求したホテルに対して、連絡をしてこない場合があるようです。
今のところ、主なOTA(Online Travel Agent)は「キャンセル規定を別途用意するのは構いませんが、お客様との交渉はホテル側で行ってください」というスタンスのようです。もしこの方法を実施したい場合には、ホテルからそれぞれのOTAに個別に確認を取っていただくことをお薦めします。
3. 団体が入ってこないように在庫を小出しにする
ウェブ販売の客室在庫を10室未満にするなどして、そもそもまとめて予約できないようにする方法です。
これにより団体予約はほぼ発生しなくなりますが、以下の問題が生じます。
- 在庫切れによる販売機会ロスが多発する
- 在庫追加の作業が増え労働生産性が低下する
4. 事前カード決済を活用する
繁忙日など「キャンセルが起きてほしくない日」に、事前カード決済を条件に予約受付をする方法です。事前カード決済は、ウェブからの予約では今の所唯一キャンセル料の回収が確実に行える方法となっています。
ただし、事前カード決済が普及していない現状では、一般のお客様が予約を躊躇するかもしれないという懸念が大きく残ります。以前に比べて事前カード決済を採用するホテルや旅館も増えてきてはいるようですが、まだまだ主流派とは言いがたい状況です。
これからどうしていくべきか
このようにウェブから入ってくる団体予約には万全な対策が取りにくいのですが、ではこれから私たちはどうしていくべきなのでしょうか。
業界の課題として、以下の3点を挙げさせていただきます。
- 事前決済を主流に
- 直前の値下げを止める
- OTAやシステム会社に機能改善の要望を出す
事前決済については、航空券やイベントチケットの販売は事前決済が前提ですし、ホテル・旅館業界としても事前決済を前提とする方が望ましいのではないでしょうか。以前は予約システムが対応していない、ウェブ販売ではカード手数料が高くなるなどの問題がありましたが、現在ではこれらの支障はほぼなくなってきています。
ウェブからの団体がキャンセルされる理由のひとつには、より安価な他ホテルへの乗り換えが挙げられます。直前で値下げするホテルが減れば減るほど、このリスクは小さくなると考えられます。
そもそも、RMでは直前の値下げを失敗と考えます。「この日の需要は少ない」と予測できていれば、最初から安く販売した方が高い価格で販売する期間が減り、予約数の増加が期待されるからです。お客様の立場でも「これからもっと安くなるかもしれない」と疑心暗鬼に駆られるよりも、「今がいちばんお得な価格」という安心感がある方が、予約をしやすくなるはずです。
「パープルプライシング」という価格設定方法がハーバード・ビジネス・レビューに取り上げられています。
「最終価格より高い価格で購入した人には差額を返金する」という保証を組み入れており、ホテル・旅館などには相性が良い価格設定方法と言えそうです。国内でも広く普及してきている「ベストレートギャランティー」は予約時点での最低価格を保証する制度ですが、パープルプライシングをベストレートギャランティーに組み込むと面白いでしょう。
最後に、OTAやシステム会社に機能改善を求めることを挙げておきます。多くのホテルや旅館が困っていることをきちんと伝えられれば、対応してくれるだろうと期待しています。
この問題は4年以上前から気付いていたホテルもあるのですが、最近は本当に多くのホテルの方からお聞きすることが増えてきました。すこしでも良い方向に改善できることを願っています。