パソコンやスマホなど、個人のデバイスから予約可能なレストランを検索して、そのままネットでテーブルを予約する。そんなサービスを展開しているのが米サンフランシスコ生まれのOpenTable(オープンテーブル)だ。米国のほかにカナダ、イギリス、メキシコ、ドイツ、日本に参入。世界で約3万2000店が加盟し、月約1600万人の利用があるという。「アメリカで成功を収めている私たちのソリューションは日本でもきっとうまくいく」。そう自信を示すオープンテーブルCEOのマシュー・ロバーツ氏に、グルメ大国日本での勝算について、単独インタビューで聞いてみた。
レストランを絞込みリアルタイム検索予約
レビューでサービス差別化
オープンテーブルが日本でサービスを開始したのは2007年のこと。現在、フレンチやイタリアンの高級店を中心に約1500店が加盟し、過去8年間の利用者は合計約400万人にのぼるという。利用者は、ある特定の場所、ある特定の日、ある特定の時間、予約可能な人数を絞り込んでリアルタイムにレストランを予約することができる。レストラン側は、オープンテーブルのソリューションを導入することで予約の管理はもちろんのこと顧客の管理やテーブルの配席など経営マネージメントでメリットを享受できる。「オープンテーブルは両者にとって利便性の高いシステムを提供している」とロバーツ氏は話す。
ただのブッキングエンジン(予約機能)ではなく、コンテンツも重視。レストランの内外観の写真、メニュー、アクセスなどの情報とともに、利用者によるレビューも「他社サービスとの差別化のための大切なコンテンツ」(ロバーツ氏)との認識だ。また、レストラン側は、メニューだけでなく各自のコンセプトや歴史などを提供することができるため、よりパーソナルなストーリーで消費者に訴求することも可能になっている。
日本市場での最優先は加盟店拡大
飲食店向けの新ソリューション提供で消費者の選択肢を増やす日本市場の1500店について、ロバーツCEO自身の評価はどうなのだろうか。「私たちは、国単位ではなく都市単位で見ているが、最初は商品数が少ない小売店のようなもの」と表現し、「レストランの選択肢を増やしていくのが私たちの最優先事項」と強調する。
しかし、「時間はかかる」というのが本音のようだ。「テクノロジーを利用した経験のないレストランに、私たちのサービスやソリューションを導入してもらい、トレーニングして慣熟してもらう必要がある。ここが私たちの仕事の大変な部分」と明かす。
そこで新たに開発されたのが「ゲストセンター(Guest Center)」というソリューションだ。直感的なインターフェイスで予約/顧客管理を可能にしたマルチディバイス対応のテクノロジー。クラウドベースのため、「営業活動もこれまでよりも早く、合理的に行うことができるだろう」と期待は大きい。アメリカ、イギリス、ドイツでは本格的にこのサービスが稼働。日本では試験的にサービス提供を始めた。
「レストランの選択を増やし、彼らがシステムを使いこなせるようになれば、利用客も増える。利用者が増えれば、それを導入するレストランもまた増える。確かなソリューションを提供できれば、日本であろうと他の国であろうと、そうしたサイクルができ、市場は拡大していくと思う」とロバーツ氏は日本市場での未来図を描く。
その日本市場でのターゲットについて、ロバーツ氏は「ダイニングは基本的にローカルなサービス。まず注力するのはその地域の利用者」としたうえで、現在訪日外国人が急激に増加していることから、「海外からの旅行者へのサービスも大きなチャンス」と見る。現在、オープンテーブルの日本版サイトは日本語のみの対応だが、「多言語化を急いでいるところ」だという。
単なる機能から体験型サービスへ
アプリ決済を実現、交通やエンタメも視野に
オープンテーブルは、単なる予約機能だけでなく、食事の前中後のトータルな体験型サービスを目指している。そのひとつが「Payment with open table」。スマートフォンやタブレット端末の普及に合わせて、アプリを使った決済をアメリカで始めている。オープンテーブルが、レストランのPOSシステムを介して、利用者の会計処理をサポートするシステム。「レストランは装置ビジネスなので回転率を上げることができれば、利用客が増え、利益も上がっていく」とロバーツ氏はこのソリューションのメリットを説明する。
ただ、日本では、領収書のフォーマット、チップのシステムなど会計の慣習が異なるため、「技術のローカライズが必要になるだろう」との見解。導入にはまだ時間がかかりそうだ。
このほか、体験サービスとして食後の足として交通機関との連携や周辺のエンターテイメントの紹介、そのレストランで誰が給仕して、どこのテーブルで食事をしたかなど次回の利用に役立つ情報を記録する仕組みの構築にも意欲を見せている。
【動画】 Pay with OpenTable: Restaurant Mobile Payments
新たなコンセプトは「ひとつのアカウントで世界共通サービス」
課題は多言語化
オープンテーブルは、新たな取り組みとして「Global Dinning Passport」の開発も進めている。これは、ひとつのアカウントで世界中どこでも検索・予約が可能になるシステム。たとえば、現在アメリカ版アプリで日本のレストランは予約できないが、これをサンフランシスコでも、東京でも、ロンドンでも、利用者が同じ情報を共有することでグローバルに利用できるようにする。ユーザーの志向や履歴が引き継がれたまま、各国で利用できるようになるため、ロバーツ氏はこの仕組みを「私たちが真のグローバルカンパニーになるためのカギとなるソリューション」と位置づける。
Global Dinning Passportは、訪日外国人向けのサービスにもつながるものだが、ここでも多言語化が大きな課題として残る。ロバーツ氏は「(日本の場合)、まずは日本語から英語に訳し、そこから20ヶ国語に広げていく」と今後の方針を話す。サイトの多言語化だけでなく、現在国ごとの対応になっているアプリの共通化も進めていく考え。「私たちのテクノロジーの80%はどこの国でも対応できるもの。拡張性があり、最小限のローカライズで済むように設計されている」と自信を示す。
プライスライングループ企業と連携も
旅行との連動で価値ある食事体験をこうしたグローバル展開の方法論は、同じプライスライングループのブッキングドットコム(Booing.com)から学んだという。オープンテーブルは2014年7月に世界的オンライン旅行会社のプライスライングループの傘下となった。「食事と旅行とは切っても切れない関係」(ロバーツ氏)であることから、今後もグループ企業との連携を深めていく考えだ。
たとえば、Booking.comとの連携では、ホテル予約と連動してレストランの予約を可能にする仕組みも視野に入れる。利用者が旅の中でレストランを予約するタイミング、宿泊ホテルのグレードに合わせたレストラン紹介など利用者目線で予約情報を提供いくサービスを検討中だ。
「オープンテーブルはこの分野のパイオニア。これまで積み上げてきたテクノロジーは、利用者、レストラン双方の信頼性を高めている」とロバーツ氏。プライスライングループのもと、「日本市場を含めた世界で価値ある食事体験を提供していく」と未来を見据える。
- 聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫
- 取材・文:トラベルジャーナリスト 山田友樹