外資系ホテルが日本で開業ラッシュ、リブランド進出を加速する理由とは?【コラム】

東洋経済新報社の編集委員、山川清弘です。

記者時代から、ホテル・旅行系企業の取材を精力的におこなってきました。本コラムでは、この数年続いている日本国内での外資系ホテルの開業ラッシュについて考察します。

国内での外資系ホテルの開業ラッシュは、コロナ後の訪日インバウンド市場の拡大に加え、先進国の中で日本はラグジュアリーホテルなど外資系ブランドの進出度合いがまだまだ低いことなどが背景にあります。

最近、特に目立っているのが、既存ホテルをリブランド(看板架け替え)して外資系ブランドにリニューアルするパターンです。

外資系ホテルにリブランドした近年の主な事例

世界に広がる会員ネットワークが魅力

2024年8月28日にはホテルマネージメントインターナショナル(HMI)が、外資系ホテルグループであるIHGホテルズ&リゾーツと戦略的リブランド提携を行い、国内の「クラウンパレス」ブランド3施設を「ANAクラウンプラザホテル」にリブランドすることを発表しました。

この提携により、高知市、知立市、浜松市に位置するホテルが、IHGのグローバルネットワークに加わることとなります。リブランドは2026年上半期に予定されており、HMIの比良竜虎社長は、リブランドにより地方都市の観光振興と経済成長に寄与すると述べました。また、「インドからの訪日客はまだ20万人足らず。保守的に見ても、今後10倍の200万人から300万人は簡単に達成できるだろう」として、インドからのインバウンド増加に期待を寄せています。

IHGホテルズにとってはこれが各都市での初展開となるものの、IHG・ANA・ホテルズグループジャパンCEO兼IHGホテルズ&リゾーツ日本&マイクロネシア マネージングディレクターのアビジェイ・サンディリア氏は「20年前に世界でもユニークなリブランドをANAと成し遂げた」と、ANAインターコンチネンタルホテル東京を含む世界各地でのリブランド事例の蓄積から、今回のプロジェクトにも自信を見せています。

HMIは2024年4月にもマリオット・インターナショナルと提携を行っており、今後も10軒程度のリブランドを予定しています。

国内ホテルにとって、外資系ホテルチェーンの最大の魅力の一つが巨大な会員組織です。最大手マリオット・インターナショナルは2.1憶人超、IHGも1.3億人以上の会員を抱えています。世界各地の同系列チェーンを泊まり歩いてポイントを貯め、割安で宿泊することができます。

事前予約の一定程度を会員が底支えするうえ、非会員でもそのブランドに魅力を感じているファン層の訪日外国人がいるため、予約の獲得が容易になります。空室率が低く抑えられるため価格競争に巻き込まれるリスクが小さく、平均客室単価(ADR)も高めに設定できます。

進出する外資にもメリットが大きい

リブランドは、進出してくる外資系ホテルにとってもメリットが多いです。2002年に施行された「都市再生特別措置法」では、数度の改正を経て、再開発プロジェクトにおいてオフィスや商業施設にホテルを入居させることで容積率が緩和されるようになっため、超高層ビルの上層部分にホテルが入るケースが増えています。

オフィスや商業施設など、他の不動産セクターと比べても、ホテル投資は増えています。JLLの調査ではコロナ以降、ホテルセクターへの投資割合が増加しています。

セクター別投資額割合

ライフスタイル系など海外の新しいブランドが続々と上陸しています。一方で、海外の都市に比べて、日本にはラグジュアリーブランドのホテルはまだまだ少ないです。インバウンドが増加している中で、大手外資チェーンとしては、全国各地に存在する国内ホテルをリブランドしたほうが、一気に棟数・客室数を増やせます。

人手不足やインフレで建築費の高騰が続いており、新規にホテルを建築することは難しくなりつつあります。立地も無尽蔵ではありません。すでに経営しているホテルをリブランドできれば、圧倒的にコストを低く抑えることができます。

ホテルの施設や設備、さらに従業員も可能な限り継続することで、業界の人手不足にも対応できます。外資系ブランドそれぞれのコンセプトに基づいた研修をリブランドに先駆けて行い従業員をスキルアップすることで、採算性の改善も図る戦略です。一からホテルを建設すれば数年かかるところが、早ければ半年から1年程度でリニューアルオープンが可能になるメリットもあります。

また新規ホテルを建設する場合、日本では建築基準法や地域の都市計画に基づく厳しい法規制がありますが、既存ホテルのリブランドではすでに認可されている建物を改修するため、新たな建設計画の審査プロセスを省略できる利点もあります。

地方都市の再活性化にも期待

物件オーナーにとっても、インバウンド客の取り込みやADR向上により収益性の向上が期待できます。高度成長期からバブル期にかけて、数多くの大型ホテルが建設されており、築30~40年以上を経過して老朽化が激しい物件もあります。

最近では都市部のみならず、地方リゾートエリアでも外資系ホテルのリブランド進出が増えています。IHGのANAクラウンプラザホテル(高知、知立、浜松)も3大都市ではありません。インバウンドの地方への広がりで、地方ホテルにとっては外国人宿泊客を取り込むチャンスですが、外国語などサービス面でのハードルは高いです。

リブランドすれば、外資系ブランドの信頼性を活かし、国際的なサービス水準に引き上げることができるので、集客力の強化とともに満足度の向上も見込めるでしょう。

地方での事業には、地元企業との提携も重要な役割を果たしています。運営ノウハウを持つ外資系企業と、地元の不動産企業やホテル運営会社が提携することで、地域経済との調和が図られ、地元の雇用促進や経済活性化にもつながる期待があります。

進出する外資系ホテルチェーンにとっても、既存ホテルの運営会社や不動産オーナーにとってもメリットが大きいリブランド形態は、当分続きそうです。

山川清弘(やまかわ きよひろ)

山川清弘(やまかわ きよひろ)

東洋経済新報社編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業。東洋経済で記者としてゲーム、放送、銀行、旅行・ホテルなどを担当。「会社四季報」副編集長などを経て、現在は「会社四季報オンライン」編集部。著書に「1泊10万円でも泊まりたい ラグジュアリーホテル 至高の非日常」(東洋経済)、「ホテル御三家」(幻冬舎新書)など。

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