秋本俊二のエアライン・レポート
シンガポール航空ショー会場から
シンガポールを拠点に2012年6月に運航を開始し、アジアやオセアニアを中心に着々と翼を広げてきたLCC(ローコストキャリア)のスクート。台北(桃園)線を延長する形で成田にも就航したのは、同年10月だった。
*写真:シンガポール航空ショーで展示中のスクートのボーイング787-9
欧米やアジアなど、世界の空でさまざまなLCCが活躍している。もはや「ローコストキャリア」という言葉だけで単純にくくるのは難しく、会社の数だけ個性があるというのが私の実感だ。では、スクートの個性とは何か?
多くの会社が短距離路線を中心に運航しているのに対し、中長距離路線に特化してビジネスを推進しているのがスクートの一番の特徴だろう。そのためLCCでは珍しく、親会社のシンガポール航空から譲り受けた400席クラスのボーイング777-200のみを使用してきた。そしてその777-200が、現在は新造の“ドリームライナー”787にすべて切り替わっている。
2016年2月16日からシンガポールで始まったアジア最大の航空ショーでは、スクートの787が展示されていた。モデルは、前日にシンガポール入りするのに私も成田から利用した長胴型の787-9。基本型の787-8のボディを6.1メートル延ばしたタイプである。ボディを延長することによって重心位置が変わってしまわないよう、主翼の前方と後方で3.05メートルずつストレッチされ、見た目にも精悍さが増した。
展示機の機内では、スクートを率いるCEOのキャンベル・ウィルソン氏が私のインタビューに応じてくれた。ウィルソン氏はかつてシンガポール航空の日本支社長として活躍した人物だ。その経験から「フルサービスのキャリアとLCCでは明らかに企業カルチャーが違う」と、次のように話す。
「一般に大手ではトップダウンで物事が決まるのに対し、若い社員たちが力を合わせて会社をつくっていくのがLCCです。787の導入は、そんな社員たちに新たな活気を与えました。エンジン音の静寂性や身体にやさしい機内環境などを実現した787で利用者にもっともっと快適な移動を楽しんでもらおうと、現場のどのスタッフも夢中で仕事に取り組みはじめています」
CEOという肩書きはついていても自分も単なるスタッフの一人だ、と笑みを浮かべるウィルソン氏。オフィスも空港近くに借りたシンプルなワンフロアで、そこでスタッフたちと机を並べて和気あいあいと仕事をしているという。自由な雰囲気の会社のリーダーにぴったりな人、という印象だ。
スクートはボーイングに787を20機発注し、これまで10機を受領した。内訳は基本型の787-8が4機、長胴型の787-9が6機。従来機種より燃費を約20%節約できる787は、中長距離でこそ威力を発揮する。787を活用することで、今後さらなるネットワークの拡大が可能になるだろう。
日本路線では787-9でデイリー運航する成田線のほか、787-8で関西にも週3便で就航。3番目の都市への乗り入れもすでに構想にのぼっている。「3都市目は札幌ですか?」と質問を向けると、ウィルソン氏は「まあ、正式発表まで楽しみにお待ちください」と口もとをゆがめた。