ホテルのオンライン評価マネジメント(ORM)会社、トラスト・ユーは2015年12月、日本支社を開設し、代表取締役社長に下嶋一義氏が就任した。日本での本格的な展開開始に伴い、トラスト・ユー共同創業者であり、最高執行責任者(COO)のヤコブ・リーガー氏がこのほど来日。今後の戦略について話した。
※冒頭写真はトラスト・ユー共同創業者のヤコブ・リーガー最高執行責任者(COO=写真左)と同日本支社の下嶋一義代表取締役社長
世界中のクチコミの95%
以上を対象にデータ分析
トラスト・ユーは、世界中の様々なウェブサイトやSNS上に消費者が投稿するホテルのレビュー(いわゆる“クチコミ”)を収集・分析し、独自の解析結果や総合スコアを構築。これをオンライン旅行サイト(OTA)やホテルなどに提供している。
顧客企業数は、現在1万2000社。分析対象とするレビューは、「ネット上にある投稿の少なくとも95%以上は網羅している。日本語を含む20以上の言語のレビューを分析するメタサーチ機能を開発し、膨大なデータの処理が可能になった。この規模でホテルのレビュー分析ができるのは当社のみ。また自社ブランドを前面に押し出した予約販売など BtoC業務は行わず、あくまで評価分析を専門にすることで、どのOTAやホテルに対しても中立性を堅持している」とヤコブ・リーガーCOOは説明する。
日本市場への参入は、すでに東京で業務を展開しているオンライン評価マネジメント(ORM)会社、ブランド・カルマとの戦略的提携により実現した。トラスト・ユーは今後、同社のORM事業を引継ぎ、既存顧客である日本の大手ホテルチェーンを含む100軒以上のホテルに、メタサーチ機能を使った各種データやサービスを提供していく考えだ。「まずはクライアント企業がトラスト・ユーのサービスに満足してくれることが重要。展開を急ぐよりも、盤石な基盤を固めたい」(リーガーCOO)としている。
一方、トラスト・ユーの日本代表に就任した下嶋一義氏は、これまでグルーポン、楽天トラベル、アゴダ、オクトパス・トラベル、ソラーレ・ホテルズ&リゾーツなどに勤務し、eコマースやホテル業に精通。「アゴダ時代は、最初の3年間で1700軒のホテルと契約したが、当時はまだインバウンド需要が今ほど活況ではなかった。現在の環境なら3000軒以上は達成可能」と話す。
グーグルもトラスト・ユーの総合スコアを採用
トラスト・ユーは昨年秋から、グーグルのホテル検索ページにも、総合スコアの提供を開始。リーガーCOOは「非常に誇らしい出来事。グーグルはホテル検索の入り口であり、ここでの評価は重要な意味を持つ」と話す。この他にも、カヤック、トリバゴ、スカイスキャナーなどのOTAがトラスト・ユー提供のホテル総合スコアを採用。日系OTAでは、Hotel.jp/Travel.jpが数年来の顧客だ。
トリップアドバイザーなど、独自のホテルレビュー結果を掲載している旅行サイトもあるが、「分析の対象としているレビュー数の桁が違う。対象が多いほど、精度の高いデータになるのは当然のこと」(リーガーCOO)。トラスト・ユーがこれまでに分析したレビュー数は累計で3億件以上、さらに毎週、300万件ほど増えているという。トリップアドバイザーも含め約200サイトをモニターし、様々な分析データを作成している。
またOTAやホテルのサイトを通じて一般公開する総合スコアについては、収集したデータの中から「実際に予約した人の評価のみを対象に作成しているため、きわめて信頼性が高い」(同COO)とも指摘。同社の本拠地ドイツのミュンヘン大学や、米国の教育機関との共同調査などにもこのデータが活用されているという。
トラスト・ユーの総合スコア項目は、「ロケーション」「客室」など主要なものから「ノンアルコール飲料」「バスルーム」などまで、細かいものも含めると100余り。この中から各ホテルの特徴を表している良い評価と悪い評価を5つほど表示。簡潔で分かりやすい内容表現を目指している。
また、 ユーザーの使用言語などを基に、市場別の特徴も割り出せる。例えばインバウンド市場開拓に取り組む日本のホテル向けに、中国、ドイツ、米国、アラブ圏など、マーケット別の評価分析を提供することが可能。リーガーCOOは「複数の大手OTAのレビュー結果を比較しても、実は似ている場合が多い。ところが市場別に分析すると細かい違いなどが分かり、そこではじめてターゲットに合わせた戦略構築に役立つ」という。
「クチコミ」はホテルの敵ではなく味方
今やインターネット上の「クチコミ」の影響力は絶大だ。ホテル側からは「膨大な数のレビューはコントロールできない」と嘆く声もあるが、リーガーCOOは「実は、最大のレビュー提供者は、ホテル自身だということを知ってほしい」と強調する。例えばトラスト・ユーでは、顧客ホテルが自ら実施している調査内容を、社内だけでなく、対外的な評価の精度アップにも役立てることができる仕組みを提案。これは、宿泊客のチェックアウト後に送る満足度調査メールの最後に「この内容をグーグルに送信する」という選択項目を掲載。宿泊者がそこをクリックすれば、そのままグーグル上での評価スコアに加算、コメントも掲載されるといったものだ。
同時に、ホテルの自社サイトでもこうしたレビュー結果を積極的に掲載するべきだと力説。「旅行者の95%は、予約前に平均5~7件のレビューを探して読んでいる。レビューをOTAで読めば、そのサイトから予約を入れる可能性が高くなるが、ホテルのサイトにレビューがあれば、直接予約を獲得できるチャンスが拡大する」(リーガーCOO)。
実際に、トラスト・ユーのデータを掲載したサイトでは、閲覧から実売へとつながるコンバージョン率は向上するという。「ドイツ、オーストリアのホテルチェーン、アルコテルでは、自社サイトからのオンライン予約が20%以上伸びた」(同COO)。
利用客の投稿で、ホテルのサイトも活性化
顧客ホテル向けには、2つの新サービス導入を積極的に進めている。1つ目は昨年12月に登場した「インパクト・スコアズ」。バスルームやWi-Fiなど、営業面での効果が即、期待できるオペレーション上の項目を具体的に割り出し、ホテル側に提示するものだ。
2つ目は、既存のモバイル端末アプリ「トラスト・ユー・レーダー」を使った新しいアクティブ・サポート機能。新しいクチコミやメタレビューが掲載されるとホテルスタッフに通知されるアラート機能などをさらに拡充。例えば、利用客がホテルでの食事写真を「インスタグラム」に投稿した際にも、スタッフに通知されるようになった。万が一、「お皿に髪の毛が入っていた」といった不満が確認できればすぐに現場が対応するし、美味しそうな画像であれば、ホテルのサイトにも掲載して新鮮なコンテンツの充実につなげる。結果として、サイト閲覧者へのマーケティング効果が生まれるという。
リーガーCOOは「データ分析の結果を、実際の予約獲得の増加につなげるマーケティングの視点が大切。こうした仕組みを提案できるのはトラスト・ユーだけ」と、日本市場での取り組みに自信を示した。
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- 聞き手 トラベルボイス編集部 鶴本浩司
- 記事 谷山明子