国連世界観光機関(UNWTO)とは? 日本人職員がその組織や成り立ちを解説 【コラム】

2014年7月から、観光庁のご支援でJTBより国連世界観光機関(以下、UNWTO)へ派遣されています熊田順一です。民間企業から出向している目線で、今後、UNWTOでの勤務を通して感じた日本のツーリズムのあり方や課題をコラムでお伝えできればと思っています。

1992年の株式会社日本交通公社(現JTB)への入社以来、訪日インバウンド事業に長年携わってきました。入社当時は2000万人に届く時代が自分の現役時代に来ようとはゆめゆめ考えもしませんでした。この急激な変化は、現在の日本全体の観光への取り組みに対する姿勢の変化の結果に他なりません。

日本は観光を持続的可能な主力産業として位置付け、取り組む道を選んだ訳です。沢山の旅行者が訪れる地域・企業もあれば、これから誘致に取り組もうとしている地域・企業もあるのだと思います。訪問者が多いのであれば、観光地に住む住民の声はもちろん、お客様の声や観光業に携わる関係者の声など色々な声が観光地の中で聞こえてきているのだと思います。

この声をバランスよく取り入れ、地域のチカラに変えることができているでしょうか? 目の前の成果や一刻の利益に目がくらみ、身の丈以上のお客様を受け入れ、これまで大切にしてきた風景や文化を未来に繋げないようなことになっていないでしょうか? はたまた、地元住民の生活が壊されるようなことは、起きていないでしょうか? 現在、世界を12億人の旅行者が1年間に旅しています。この12億人のチカラが、地域発展の原動力になるか、地域破壊の原因になるか。コントロールをどうするのかが重要です。

これから訪日観光の推進に取り組まれる地域においては、「どうような政策や施策を取ると海外から観光をされるお客様が多くいらっしゃるのか?」「観光をされたいお客様の誘致のため、世界へ発信すべき情報・テーマはいったい何か?」「訪問されたお客様に喜んで旅して頂ける受け入れ態勢はどのように整備したらよいか?」「一体、世界各地ではどのような取り組みを進めているのだろうか?」など、他国・地域の成功事例を収集する場としてUNWTOを利用されている国も多くあります。

UNWTOは、これまで記載したような、国際社会が経験してきた観光に関する課題や知見を集約・検証を40年以上にわたっておこなってきた国際機関です。特に各地域での成功事例や新しいトレンドをリサーチプロジェクトや会議等を通し、各加盟国・賛助加盟メンバーと共有することを大切にしています。


UNWTOの成り立ち

さて、UNWTOについて簡単にご紹介をします。同組織は、1970年秋に採択されたUNWTO憲章(国際間の理解、平和及び繁栄に寄与するため、並びに性、言語又は宗教による差別なく、すべての者のために人権及び基本的自由を普遍的に尊重し遵守することに寄与するため、観光を振興し発展させることを根本目的とした憲章)に基づき1975年1月2日に設立され、2003年12月に国際連合の専門機関となった、観光分野における世界最大の国際機関で、マドリードに本部を設置しています。2016年5月現在、組織構成は加盟国157ヵ国、加盟地域6地域、オブザー2地域が、民間部門からも賛助会員を募っており、日本観光振興協会も含む400以上の賛助加盟員と共に観光に関する諸課題に取り組んでいます。


UNWTOの組織

組織は事務局長が率いるキャビネットを中心に各加盟国の対応窓口として、世界を5地域に分けるアフリカ、アジア・太平洋、アメリカ、欧州、中東の5地域委員会と、広報、統計・TSA、マーケティング、賛助会員応対、ノレッジネットワーク、テミス、テクニカル・コーポレーション、サステナブルツーリズム・危機管理、CSR・倫理、デスティネーションマネージメント、国際組織対応、テーマ分野、情報アーカイブといった14の専門組織の合計19部門で実務部隊は構成されています。その他総務・人事・財務・システムなどを含め総勢で100名程度の要員で運営をしています。また奈良に地域事務所を設置し、アジア太平洋加盟国および賛助加盟メンバーへの観光政策・施策実施の推進や支援を行っています。


アジア・太平洋部の編成

私が勤務しますアジア太平洋部は、中国・韓国・日本・スリランカ・ガーナ・カンボジア国籍の職員10名で管轄地域を2地域に分けて対応を行っています。北東アジア・太平洋地域はオーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、北朝鮮、フィジー、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、モンゴル、パプアニューギニア、フィリピン、韓国、タイ、東チモール、バヌアツ、ヴェトナム、ミャンマー、サモア、香港*、マカオ*の20カ国2地域(*)。南アジア地域ではアフガニスタン、バングラディッシュ、ブータン、インド、イラン、モルディブ、ネパール、パキスタン、スリランカの9カ国。合計29カ国と2地域を担当しており、各国の観光政策への支援を専門家の派遣や国際会議の開催などを通し、技術面・政治面の両方から行っています。


官民連携を重んじる国連機関

UNWTOは国連組織の中では民間企業・地方自治体、大学が賛助加盟員として加盟ができる稀有な機関です。UNWTO主催の国際会議・フォーラム、賛助加盟ネットワークを通じた情報発信、国際プロジェクトへの参加を通して、自国や地域の取り組みについて情報発信しようと各メンバーが競い合っています。アジア・太平洋地域の賛助加盟メンバーは現在55組織のうち日本からはJNTO(日本政府観光局)、JATA(日本旅行業協会)、JTTA(日本観光振興協会)、JTB財団、株式会社JTB、株式会社HIS、株式会社ぐるなび、北海道大学、和歌山大学、松蔭大学、東洋大学、京都大学の12団体が加盟をしており産学官がバランスよく関与し、観光庁を中心に活発な活動を推進しています。


国際舞台での日本観光の発信

UNWTOでは毎年、様々な国際会議やイベントが各国の推進テーマに応じて開催されています。2016年は日本では2月に奈良で「遺産観光に関する国際会議」の開催を皮切りに、6月のアジア太平洋地域委員会と併催される「ツーリズムとテクノロジー」会議、9月の「JATA Tourism Expo Japan2016年」がUNWTOとの共催で行われます。また人的な貢献として、「食とツーリズム会議(ペルー・リマ/4月)」に指宿・白水館社長の下竹原啓一氏が、「開発とツーリズム会議(中国・北京/5月)」にはJATA会長の田川博巳氏が日本を代表し登壇者として参加頂きました。さらに9月にジョージア(旧グルジア)で開催される「世界ワインツーリズム会議」には、日本のワイン業界から山梨県・勝沼の中央葡萄酒・グレイスワインのワインメーカーの三澤彩奈さんに登壇を頂く予定です。世界の舞台で世界各国代表の方々と肩を並べ、思う存分に日本の素晴らしさを語り合う場を今後もどんどん増やしていければと感じていますし、是非とも、積極的にこのような場をご活用頂きたく思っています。きっと日本の取り組みに共感され、一緒に動こうとされる国が出てくると思います。

熊田 順一(くまだ じゅんいち)

熊田 順一(くまだ じゅんいち)

国連世界観光機関アジア太平洋地域部門シニアオフィサー。明治大学卒業後、株式会社日本交通公社に入社。訪日旅行担当、JTBワールドバーケーションズなどを経て、訪日旅行サイト「JAPANiCAN.com」開設・事業推進を行うなど一貫して訪日インバウンド事業に携わってきた。2014年7月から観光庁・JATAの推薦でUNWTOアジア太平洋部門シニアオフィサーに着任。マドリッド勤務は間もなく3年目。

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…