【続報】 旅行業ビック3が語る海外旅行の戦略、モノを持つか持たざるか?その違いが鮮明に

サプライヤーの直販やOTAの台頭で、競争力低下が指摘される旅行会社。生き残るための鍵はどこにあるか――。

海外旅行の需要喚起をテーマにJTB、エイチ・アイ・エス(HIS)、阪急交通社のトップが登壇した「ツーリズムEXPOジャパン フォーラム2016」の「海外旅行シンポジウム」は、300人以上が会場に詰めかけ立ち見がでる大盛況。日本の海外旅行の将来像とともに、リアルエージェントが直面する課題、各社が持続的成長のために描く青写真がつまびらかにされた。

パネリストは、JTBの髙橋広行社長、エイチ・アイ・エス(HIS)の平林朗社長、阪急交通社の松田誠司社長。モデレーターはワールド航空サービスの菊間潤吾会長が務めた。

編集部注:このシンポジウムは9月24日に行われたもの。10月3日にはJTBが海外旅行事業の再編を発表した。

2000万人到達はいつ?

JTB 髙橋広行社長

2012年から3年連続でマイナス成長を喫した出国日本人数。テロの頻発や中国・韓国との政治的関係悪化が主な要因とされるが、16年は円高の追い風を受けて1~8月累計で前年同期比5.5%増と回復基調に入った。このまま推移すれば年間で1700万人に届くと予想されている。

では、長く海外旅行のキーワードとなってきた渡航者数2000万人の目標値について各社はどうみているのだろう。JTBの髙橋社長が「現状では非常に厳しい」としたのに対し、HISの平林社長は「5~7年で到達できる」と述べ、JTBとHISの見解が分かれた。

JTBの髙橋社長は日本の出国率が12.8%にとどまっていることを理由に挙げ、パスポート保有率の向上など、すそ野拡大が不可欠だと訴えた。一方、HISの平林社長はIT技術の進展で海外旅行の阻害要因となってきた言葉の壁が解消されつつあり、さらにインバウンドの拡大に伴う航空座席供給量の増加が好機になるとみる。阪急交通社の松田社長は「出国率の拡大、75~85歳のシニア層の取り込みが鍵になる」と述べた。

リスク負う仕入れが不可欠

HIS 平林朗社長

シンポジウムでは、3人のトップが海外旅行に関する環境認識と自社戦略について言及した。

JTBの髙橋社長は、マーケットの伸び率に対し旅行会社の伸び率が大きく下回っている点をJTBグループ最大の課題に挙げた。

「FIT化により、従来、需要をけん引してきたパッケージや募集型ツアーがマーケットに受け入れられなくなった」との認識で、世界的な潮流である買い取り・リスクテイク型の仕入れへの転換、チャーター強化、価格変動型のパッケージツアーの推進などを復活への戦略に掲げた。

ワールド航空サービス 菊間潤吾会長(モデレーター)

ワールド航空サービスの菊間会長がホールセールビジネスの将来について切り込んだことに対しては、「チャネルごとに売る商品を選別する。ホールセールでは海外ネットワークを活かし、旅程管理、安全・安心を担保する商品をリテーラーに供給することでサプライヤーの直販やOTAに対抗できる」(JTB髙橋社長)と述べた。

また、髙橋社長が地方需要拡大のポイントで挙げたチャーターについては、松田社長が「失敗した時のリスクが大きい」と回答するなど、阪急交通社は消極的な意向であることが浮き彫りに。HISの平林社長は「ローコスト・キャリア(LCC)だけでなく、増加する日本発着海外クルーズも活かしながら地方発を開拓していく」とし、旅行業界の連携が重要になるとの考えも示した。

ヘビーリピーターを取り込め

阪急交通社 松田誠司社長

続く各社の戦略では、シニア層を主力とする阪急交通社の松田社長が、海外旅行回数10~20回のヘビーリピーターが増加している点に着目し、「従来のメディア販売を中心としたお値打ち商品だけでなく、リピーターに向けた特化型ツアーに力を入れる」と語った。松田社長によると、現状では前者が取り扱いの9割を占めているものの、将来的に後者を3割にまで高めたい考え。企画力を向上させるため、専門特化型旅行会社との業務提携を積極化したい考えも明らかにした。

一方、HISの平林社長は、世界65カ国、228拠点で展開する海外店舗を活かした販路拡大を重視している方針を示した。予約の流通経路がウェブに移行するなか、オンライン完結型サイト、オムニチャネル化も不可欠とした。HISは旅行会社である一方、バンコクを拠点とする航空会社や“変なホテル”で知られる宿泊施設もグループに所有する。こうした経営体制について、「モノを持つ観点からすると、必ずしもすべてのビジネスが旅行会社との間でシナジーが出るとは思わない」と明言。旅行業界における流通の競争が複雑化していると指摘し、垂直統合型で知られるドイツのTUIをモデルのひとつに挙げた。それに対し、JTBの髙橋社長は「過去の痛切な反省からモノの持たない経営を志向している」と述べ、両社の経営戦略の違いが明確になる部分もあった。

再び動き出した海外旅行マーケット

旅行業界のビック3がそろい踏みしたシンポジウム。冒頭にJTBの髙橋社長が「このメンバーが非常接近するのは極めてまれ。今日は呉越同舟で仲良くしたい」と切り出し、HIS平林社長が「呉越同舟よりもっと近寄ったほうがいい」と応ずるなど和やかに進みつつも、日本の海外旅行の将来に向け最前線の深い議論が繰り広げられた機会となった。

最後はワールド航空サービスの菊間会長が「日本マーケットは再び動き出し、成長し続けている一方、流通を含め変化している。マーケットが成長するなか、旅行会社のシェアが小さくなるのは面白くない。企画力、提案力、コンサルティング力など旅行会社ならではのプランが求められている」とまとめた。

取材・記事 野間麻衣子

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