京都市の観光政策を担当部長に聞いてきた ―日本人減少への危機感から、民泊・ラグジュアリー自治体連携まで

「質」に焦点を当てた観光政策を進める京都市。訪日外国人が急増するなか、宿泊施設不足や交通渋滞などさまざまな課題に直面している。日帰りも含め年間5,500万人を超える観光客が訪れるが、日本人の観光客数は減少し、満足度も低下している現状に、京都市産業観光局観光MICE推進室MICE戦略推進担当部長の三重野真代氏は「大きな問題」と危機感を示す。

日本人入洛を維持・増加させていく視点も併せ持つ京都市のインバウンド戦略。そのなかで必要とされる「質」とは?

日本人入洛者減少に危機感

山県有朋の別荘で名勝として知られる無鄰菴

2015年に京都市を訪れた観光客数は日帰りも含めて前年比2.2%増の5,684万人と過去最高を記録。2年連続で5,500万人を超えた。そのうち宿泊客数は同1.6%増の1,362万人。ただ、京都市では「1.6%増にとどまった」との認識を示している。

その理由は日本人宿泊者数の減少。外国人宿泊者数が前年よりも133万人多い316万人で過去最高になった一方、日本人宿泊者数は112万人減少したことから増加率は低調に終わった。

三重野氏は「現状、観光客が多すぎるため、日本人の京都離れが進んでいる。日本人のリピーターを受け入れるためにも、外国人をどんどん受け入れればいいという話ではない」と明かす。

京都市がまとめた2015年の京都観光総合調査によると、日本人の総合満足度は「大変満足」から「やや満足」までが88.9%。ここ数年ほぼ変わっていない。しかし、中身を見ると、「人が多い、混雑」が前年の10.3%から13.8%に、「道路の渋滞」が7.0%から11.4%に上がるなど多すぎる観光客への不満が表れている。

地元タクシー運転手によると、「清水寺や嵐山など京都市の観光名所はそもそも大型バスを受け入れるスペースがない。そこに外国人観光客が団体で押し寄せるため、大渋滞が起こる。特に紅葉シーズンは車が動かなくなる」ようだ。そういう状況の中、「京都の風情がなくなった」という日本人の声も多く聞くという。

上質な宿泊施設の誘致で特別認可も

妙心寺退蔵院の枯山水

京都市は今夏、「京都市宿泊施設拡充・誘致方針」を打ち出したが、その大きな目的は、インバウンド市場での質の高い宿泊観光の推進だ。そのなかで話題となっているのが、「上質な宿泊施設の誘致」。立地が制限されている住宅専用地域、工業地域あるいは市街化調整区域でも、「上質宿泊施設」を誘致する方針を打ち出した。

ここで言う「上質な宿泊施設」について、三重野氏は「必ずしも高級ホテルという意味ではない」と強調。「想定しているのは、周辺環境の魅力を活かしたラグジュアリータイプホテル、MICE開催が可能な宴会場やスパ、フィトネスなどを備えたフルセット型ホテル、オーベルジュタイプの3種類」と説明する。

この政策によって、行政側が供給をコントロールすることで、ラグジュアリーな観光客の需要を呼び込みたい思惑がある。

京都市ではパブリックコメントを踏まえて、制度設計を行い、認可要件をつくっていく方針。三重野氏は「案件ごとに審査することになる。建築審査会を通す必要があるほか、住民の合意も必要となるため、かなりハードルは高くなるだろう」と話す。

民泊、簡易宿所の申請が急増、指導要綱をまもなく作成

76539_0京都市は、宿泊施設の質の点で民泊のあり方についても留意している。トラベルボイスでもリポートしてきた通り、京都市は、来春の民泊新法施行後も独自の民泊ルールを定める方針だ。「京都らしい暮らしが体験できるもの。付加価値のある宿泊サービスという位置づけにしたい」と三重野氏。「おそらく集合住宅での民泊は認めないことになるだろう」との見解を示す。

民泊でも、京町家の一棟が貸しなどは進めていきたい考え。今年4月に厚生労働省は、旅館業法での簡易宿所の要件緩和を行い、フロントの設置義務の弾力的な運用を認めたが、京都市はそれ以前の2012年度に条例を改正し、京町家の一棟貸しでのフロント設置義務の免除を認めた。

大本山妙心寺

京都市は昨年、民泊プロジェクトチームを立ち上げたが、その直後から簡易宿所の新規強化申請が相次いだ(三重野氏)。2014年は79件だったものが、2015年には246件、2016年も4〜7月だけで201件にのぼっている。京町家の新規申請も同様で、2014年の25件から2015年は106件、2016年4〜7月で70件と急増。「どのような事業者がどのようなビジネスをするかによって、観光の形態が変わってくると思う。いい事業者は、しっかり許可を取り、周辺住民ともうまくやる」。

民泊に関するヒアリングの結果、最も大きかった問題は騒音だったという。三重野氏は「その土地のルールも知らない外の人がビジネスをすると、トラブルになるケースが多いようだ」と明かす。京都市ではそうしたトラブルを回避するための指導要綱をまもなく作成する予定だ。

7自治体とアライアンス、いずれも特区ガイドを育成

観光の質については、宿泊施設だけでなく訪日外国人に対しても独自の取り組みを進めている。そのひとつが、今年4月に立ち上げた「日本ラグジュアリートラベルアライアンス」だ。京都市のほか、札幌市、石川県、高山市、京都府、奈良市、和歌山県の3府県4市。主に欧米豪の富裕層誘致を積極的に行なう地域で連携し、マーケットの情報収集や取り組みの情報交換、共同プロモーション、受入環境の向上に取り組む。連携の第一弾として今年9月〜10月にかけて2回のファムトリップを実施。1回目が金沢、高山、京都でアメリカとイギリスから、2回目が札幌、和歌山、奈良、京都でフランスとオーストラリアからそれぞれ旅行会社を招いた。

「インバウンドのレベル感が高い自治体が集まった」と三重野氏。各自治体とも独自の特区ガイドを育成しており、「ラグジュアリー旅行者を呼び込むためには、しっかりとしたガイド必要だと認識している自治体が図らずも集まった」と評価する。ファムトリップを受けて、参加者からラグジュアリートラベルに対する意見をフィードバックしてもらい、今年11月の第3回の会議で、特区ガイドの課題、ガイドの方法などを共有する予定だ。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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