今年の外国人旅行者数は2400万人を予測、「成長は踊り場」も注目市場に変化 -JTBFシンポジウムより

インバウンド活況に沸く日本。2015年には訪日外客数と日本人海外旅行者数が逆転、今秋にはインバウンド市場がとうとう2000万人を突破するなど、観光産業にとっては感慨深い転換期を迎えている。そんななか、公益財団法人日本交通公社(JTBF)が開催したシンポジウムで語られたのは「成長は踊り場に入りつつある」状況だ。

ここでは、同社が日本人およびインバウンド旅行市場の最新動向を分析、報告した「第26回旅行動向シポジウム」の内容をレポートする。

塩谷英生氏によるプレゼンテーションの様子

シンポジウムでは、JTBF 観光経済研究部長・主席研究員の塩谷英生氏が2016年を「外客数の伸び率は鈍化し、最終的なインバウンド旅行者数は2400万人。消費額は3.8兆円で、1割未満の伸び率と、成長は踊り場に入りつつある」と予想した。一昨年の同消費額は前年比1.4倍、昨年はさらに1.7倍と驚異的な成長が続いていたが、このペースに比較し、伸び率は小休止状態だ。

さらに今年7~9月期は、訪日外国人による消費額がとうとう前年同期比マイナスになるなど、政府が掲げる目標「2020年に外客4000万人、観光収入8兆円」への道は決して平坦ではないとの見方を示した。背景として、円高や、宿泊施設など供給制限の問題、主要送客市場である中国で、旅行者層が富裕層から中間層に移行していることなどを指摘した。

食材や料理名を活用し、地域ブランド浸透を

観光庁統計によると、今年7~9月期の訪日外国人消費額は、前年同期より約3%減・9700億円。消費項目別の内訳をみると、買い物が大きく減少(4039億円⇒3354億円)。一方で、伸びているのが飲食費(1843億円⇒2047億円)。また宿泊費(2606億円⇒2792億円)も増加傾向を示した。

こうした傾向を裏付けるように、JTBFが今夏、訪日外国人客を対象に実施した調査(有効回答数6198人)によると、「日本で体験したいこと」のトップはアジア各国、欧米豪の全市場で「伝統的日本料理を食べること」。また同3位には「現地の人が普段、利用している安価な食事を食べる」もランクインし、日本の食への関心の高さがうかがえる。

半面、日本の食材に関する認知度は、まだ浅い傾向も見られる。JTBFでは、インバウンド送客市場の中でもリピーターが多く、日本各地に足を伸ばしている‘知日派’マーケット・台湾で流通する訪日ツアー商品を調査した。その結果、日本滞在中の目玉として「和牛」や「カニ」が登場するものの、地域ブランドの表記はほぼないのが現状という。

台湾の場合、国内の店で、オーストラリア産和牛、北海道や十勝産のチーズや乳製品も販売されていることから、「こうした人気食材をフックとして、料理や食材に併せて地域名を浸透させることで、日本各地へと旅行需要を波及できるのではないか」(柿島あかね・観光経済研究部主任研究員)。塩谷氏は「TPP戦略とも絡めて、農作物や食材の地域ブランド化が今後、重要になってくるのではないか」と話した。

一方、JTBFと日本政策投資銀行(DBJ)が実施した別の調査では、年代別にも嗜好が異なり、「例えば20~30代では‘スイーツ’‘日本の酒’などへの関心が全体平均より高く、情報源ではクチコミサイト、個人のブログの利用率が高い傾向が顕著」(外山昌樹・観光経済研究部研究員)。まずどの市場にターゲットを絞るか、というのもマーケティング戦略上、重要なポイトだ。

注目市場は東南アジア、韓国、欧米豪

JTBF志賀典人会長

インバウンド市場のけん引役は、ここ数年、圧倒的に中国市場だったが、成長率を見ると、送客市場の動きにも変化が見られる。JTBFが観光庁統計をもとに推計した数値によると、今年1~9月の訪日外国人旅行者消費額の伸び率は、1位はフィリピン(40%増)。続いて2位がドイツとインド(各30%増)、4位ベトナム(27%増)、5位インドネシア(25%増)。

昨年の伸び率トップ5市場は、前年比約2.5倍を記録した中国が1位。2位は香港(91.8%増)、3位はフィリピン(75.1%増)だった。こうした動きを踏まえ、JTBFでは、今後の東南アジア市場の動向は注目に値するとしている。

2016年冬季スケジュールで、羽田空港発の米国路線が昼便で就航することや、成田、新千歳、福岡の各空港で韓国路線が大幅な供給増になる点にも着目。特に韓国市場は、今年1~9月期の訪日需要も前年同期比20%増(JTBF推計値)であることから、「今後の要注目マーケット」(川口明子・観光経済研究部主任研究員)とした。

絶対数が少ないものの、この数年、欧米豪からの観光客も増加している。JTBFは、同市場はもともとビジネス目的の旅行者比率が高く、2011年の震災前は、観光目的旅行者の数がほぼ横バイだったことを説明。しかし昨年は、観光客が2012年比で倍増の105万人となり、観光目的とビジネス目的の比率も半々になった。滞在日数が長く、日本での娯楽サービス消費が顕著な欧米豪市場を「有望なマーケット」とする視点を提案した。

なお、同シンポジウムは、10月初旬にリニューアルオープンした「旅の図書館」(東京都港区)で開催。今回は開催告知後、1日で満員御礼になる盛況ぶりだったという。志賀典人JTBF会長は「観光産業に寄せられている期待や関心の高さを感じる」とコメントしている。

取材・記事 谷山明子

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