未来志向のMICEとは? 持続可能な発展をJTB・マカオ・米シアトルのリーダーが議論

国連が2017年を「発展のための持続可能な観光の国際年」に決定したことで、「持続可能性(サステナビリティ)」というキーワードに注目が集まっている。そんななか、今年のツーリズムEXPOジャパンでは、「持続可能な観光開発」を基本テーマに、第2回目となるアジア・ツーリズム・リーダーズ・フォーラムが開催された。ここでは、同フォーラムのMICEセッション概要を報告する。

  • パネリスト:
    • 大塚 雅樹氏(株式会社JTBコミュニケーションデザイン 常務取締役)
    • トム・ノーウォーク氏(ビジット・シアトル 代表取締役&CEO)
    • マリア・ヘレナ・デ・セナ・フェルナンデス氏 (マカオ特別行政区政府観光局 局長)
  • モデレーター:
    • カルメン・ロバーツ氏(BBC ワールドニュース、プレゼンター)

セッションの冒頭では、モデレーターを務めたBBCプレゼンター、カルメン・ロバーツ氏が、国連世界観光機関(UNWTO)による「持続可能な開発」の定義を提示。「リサイクル素材や環境への負荷が少ないエネルギー利用など、環境資源に配慮した運営方法」、「開催地の社会的、文化的な独自性を尊重したプログラム」、「会議やイベント開催のパートナーは持続可能性を意識した団体や企業を選ぶ」の3点を挙げ、具体的なMICEの条件に置き換えながらイメージを会場全体で共有。その後3人のパネリストが具体的な事例などのプレゼンテーションを行った。

JTBが考える持続可能なインセンティブの条件

JTBコミュニケーションデザイン常務取締役・大塚雅樹氏は、同社が手掛けるインセンティブ・イベントにおける取り組みを紹介した。例えばイベントでは、最初の段階から参加者に環境問題を意識したサステナブルな運営について周知徹底するなど、啓蒙活動を必ず実施。これが企業や組織に対する信頼感を向上させるほか、話題性を高め、次回イベントへの継続性を担保する効果も出ているという。

また、環境への配慮を一過性の“打ち上げ花火“で終わらせず、らせんを描くように継続的に発展させるため、同社ではPDCAサイクルの実施を徹底。インセンティブにおいても開催前・開催時・開催後の各段階でやるべきことを詳細に計画、実施するのが重要だとする。特に最も重視すべきは開催後で、次回開催につなげるためにも、終了後の課題を抽出、経済的な評価や開催地域での評価、定量定性価値などを記録し、参加者へのアンケートも実施。その内容すべてをレポートに残すという。

最近の具体的な事例では、イベント終了後の大道具などの廃棄処分をなるべく減らすため、照明や映像技術を活用した表彰式や、紙の資料を廃してタブレットを活用した会議、太陽光発電を使って開催した株主総会などを紹介。様々な協力会社と共同でイベントを開催するため、こうした関係各社とも持続可能性への意識を共有することが大切と話した。

激戦市場で戦うシアトルのMICE誘致戦略

米国からは、ビジット・シアトルの代表取締役CEOトム・ノーウォーク氏が登壇。同氏は都市間でのMICE誘致競争が激化する米国で、地元コミュニティとの連携がますます重要性を増していることを強調。米国各都市の中でも、環境問題への取り組みが早かったシアトルでは住民のリサイクルや自然保護への意識が総じて高く、MICEにおいても同じ意識が見られるとする。

現在、計100億ドル規模のインフラ拡張工事が市内各地で進行中だが、例えば建設中の2つ目のコンベンション・センターでは、エネルギーや環境対応を取り入れたビルの認証プログラム「LEED」を取得。さらに港湾道路を地下に埋め、海辺のオープンスペースを増やすなど、グリーン都市ならではの開発を追求しているという。

同時に、デスティネーション・マーケティング組織であるビジット・シアトルの立場から、「巨額を投じて建設する新しいホテルや施設を無駄にしないためにも、我々がMICE誘致を成功させなくてはいけない」(ノーウォーク氏)と話すなど、自治体と民間の強固なパートナーシップを強く印象付けた。

MICE誘致でカジノ偏重からの脱却図るマカオ

マカオ特別行政区政府観光局局長のマリア・ヘレナ・デ・セナ・フェルナンデス氏は、カジノのイメージが強いマカオにとって、MICE誘致は需要の拡大や新しい産業の育成、若者の失業対策など、多くの利点があると話す。一例として、環境面での持続可能性を実現したグリーンMICE都市を目指す政府の取り組みを報告した。

中国政府もマカオ特別行政府(SAR)も、カジノ需要偏重からの脱却による発展を目標に掲げるなか、今夏にはマカオ見本市・貿易協会(MFTA)が中国のパール・リバー・デルタ地区(珠江デルタ)の9地域と共同で、MICE誘致活動で連携することを合意。マカオ、香港、中国本土の都市が協力し、環境にやさしいMICE運営の手法、MICE産業におけるグリーン基準の策定などに着手する考えだ。

また、「政府だけが動くのでなく、やはり一般の人々の意識を啓蒙し、草の根運動が広がることが重要」(同氏)と強調。マカオの貿易・投資促進機関と環境保護当局が共催する「マカオ国際環境協力フォーラム&展示会」で、一般市民を対象に実施したグリーン・パブリック・デイなどの事例を紹介した。

ソーシャルメディアは敵か味方か?ミレニアル世代はどう動く?

続くパネルディスカッションでは、MICEの将来を語る上で、ロバーツ氏が無視できない要素としてソーシャルメディアの影響をあげた。

シアトルでは、2つ目のコンベンション・センター建設を検討する際、MICEプランナーなどを対象に将来的な参加者層の予測調査を実施した。ミレニアル世代には、年次総会や全国大会などが嫌われる傾向があるのではないかという予測に反して、ソーシャルメディアを活用することで「MICEの魅力向上に役立っている」(ノーウォーク氏)結果が判明。こうした状況を受けて、最終的にシアトル当局は、16億ドルを投じたコベンション・センター新設の需要は見込めると判断したという。

具体的な活用方法として各氏から挙がったのは、「イベント開催前からデスティネーション情報や魅力的な画像などをツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどあらゆるツールでオーガナイザーや参加者へ発信する」、「MICE初日の参加登録の際、アプリをダウンロードしてもらうことで、紙の資料が不要になる」、「会期中に参加者どうしが連絡をとる、メッセージやツイートを発信する」など。

コメンテーターとして参加した太平洋アジア観光協会(PATA)CEOのマリオ・ハーディ氏は、かつて自身が勤務していた大手イベント会社での経験を披露。その当時、ヴァーチャル展示会という新サービスを開発したものの「実際に会って話したいという要望が強かった。展示会や見本市の記録を残すとか、情報交換には悪くない手法だが、顔を見ながらの会合ほど、高い成果は生まない」と結論づけた。

フォーラムでは最後に、東京五輪やラグビー・ワールドカップなど、日本が控えている大規模なMICEへの提言が行われた。

ハーディ氏は、持続可能なMICE実現への取り組みについて、何らかの効果測定の手法が必要だと提言。例えば米国では、グリーン・ミーティング協会が各都市の格付けなどを実施。さらにコンベンション・センターやホテルをチェックするLEED認証制度もあるとする。「日本のMICE業界が持続可能な発展を本気で追求したいのなら、自らをチェックし、改善するためのベンチマークが不可欠」(ハーディ氏)と呼びかけた。

取材・記事 谷山明子

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