トラベルコマースプラットフォームを展開するトラベルポートは、毎年恒例となっている「トラベルポートLive 2018」をバンコクで開催した。ビッグデータ、IoT、AI、VR、モバイル、そしてIATA(国際航空運送協会)の新流通規格NDCなどテクノロジーの進歩に合わせて旅行業界を取り巻く環境が激変しているなか、トラベルポートが考える未来の旅行の流通について議論が進められた。
キーワードは個別化、関連性、透明性
トラベルポートLIVE 2018の開幕にあたって、トラベルポート・アジア太平洋マネージング・ディレクターのマイク・ミーハン氏は、ソフトバンクの孫正義氏がアリババへの投資で莫大な利益を上げていることや、ライドシェア「グラブ」がアジアではウーバーを撤退に追いやっている事例を出し、「さまざまな分野でDisruption (創造的破壊)が起こっている」と指摘。「旅行業界も積極的なイノベーションでこの変化を引っ張っていくべき」と強調し、その象徴的な存在としてNDCを紹介した。
また、テクノロジーによって旅行の流通はより柔軟で機動的になると予測し、「今後は『Personalization (個別化)』『Relevant (関連性)』『Transparency (透明性)』が求められる」とした。
「インダストリー4.0」ではパートナーとエコシステム構築を
ITサービス・コンサルタント会社TATAコンサルタンシ−・サービスのEVP兼CTOのアナンス・クリュナン氏は、新しいテクノロジーによって「インダストリー4.0 (第4次産業革命)が起きている」と指摘。この激変する環境のなかで成功している企業は、「パーソナライゼーションに成功し、パートナーやネットワークを組み込んだエコシステムを作り上げ、そのエコシステム全体でサービスを創造している」と説明した。
トラベルポート・チーフ・アーキテクトのマイク・クラウチャー氏は、トラベルポートは現在のところIBM、TATA、マイクロソフトとエコシステムを形成していると説明。IBMとはブロックチェーンを活用した流通の仕組みを構築し、TATAとはVRツールの開発、マイクロソフトとはAR(拡張現実)関連サービスの開発に取り組んでいると紹介した。今後のステップとしては、エコシステムにパートナーを加えていくよりも、顧客獲得に注力していく考えだ。
このほか、クラウチャー氏は「自動運転の登場によって、運転技術だけでなく、都市のあり方も変わる。旅行でも、テクノロジーの進化に合わせて、そのなかで起きることすべてを考え直す必要がある」と指摘。そのひとつとして「今旅行者は体験を求めている」とし、セグメントごとではなく、Airbnbのように旅行+体験の組み合わせを、テクノロジーを使ってどのように提供できるかが重要だとした。
旅行者とパーソナルでインタラクティブな関わり方を
デジタル・エンゲージメントをテーマとしたセッションでは、トラベルポートデジタル・プロダクトマネージメント&マーケティング担当VPのファーガル・ケリー氏が登壇し、旅行への消費者の関わり方に言及。「現在の検索では、最初から音声と動画で関わることが普通になっている。さらに、検索を飛び越えて、アプリの中で旅程計画・予約が完了することも起きてくる。ホテルでは、スマホでルームキーや室内操作を行うconnected roomが登場している」と紹介したうえで、今後は旅行のロケーションに応じたパーソナライゼーションで、旅行者とのインタラクティブなコミュニケーションが求められてくるとの考えを示した。
データを活用した旅行体験の提供についてのセッションでは、トラベルポート・ビジネス・インテリジェンス・マネージャーのマシュー・ウェブ氏が、「ロイヤルティーを獲得するためには、データをもとにした予測と分析を行ったうえで、パーソナルタッチが必要」と発言。タビマエ、タビナカを通じて常に旅行者とrelevant (関わり)を持つことが大切としたうえで、「より感情的なつながりを提供できれば、リピーターになる可能性は高い」とした。
また、タビアトについては、Spotify、Netflix、Amazonを例に、データにもとづいたカスタマープロファイルの重要性に触れ、「人のライフスタイルは変化する。ペルソナの変化に合わせた情報提供が必要になる」と強調した。
AIとスマートボイスの活用で異業種の参入に対抗
旅行体験をテーマにしたセッションでは、トラベルポート・オンライン・ビジネス・グループGVPのロブ・ブラウン氏が登壇。OTAを含めた旅行会社の新たな競合は、アリババ、Google、Amazonなどの異業種だとし、「彼らを念頭に何も手を打たなければ、顧客とのrelevantは失われていく」と警鐘を鳴らした。そのうえで、現在各方面で急速に広がっているAIとスマートボイスの活用を提案。調査結果にもとづいて、その重要性を指摘した。
その裏付けとして、世界で40%の大人が1日に1回はグーグル・アシスタントなどの音声検索を利用し、アメリカではその数は6050万人にのぼるというデータを紹介。また、旅行の検索や予約に関しては、世界中で3人に1人が旅行の検索や予約で音声アシスタントに興味があると答えているという。AIについては、その市場規模は2025年までに1,000億米ドル以上に成長。2021年までには、人間によるアシスタントよりもAIによるアシスタントの方が多くなる。
この根底にあるのがビッグデータ。ブラウン氏は、ビル・ゲイツの『データの収集管理こそが差別化につながる』という言葉を引用しながら、「さまざまなソースからデータを収集し、リアルタイムにパーソナライズすることが求められる」と強調した。
B to B for Cのスタンスを大切に
トラベルポート・グローバルディストリビューションセールス・アンド・サービス担当VPのダミアン・ヒッキー氏は閉幕にあたり、「エンドユーザーである旅行者のニーズを忘れてはいけない」と発言し、旅行業界のB to B for Cのスタンスの重要性を指摘。「業界が成功するためには、業界内の対話が必要」として、トラベルポートとしては旅行というエコシステムのなかで「ビジネス機会を一緒に探していきたい」と締めくくった。
記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹