今年は日本各地で深刻な被害をもたらした自然災害が発生したが、被災地域と同じ道府県にある主要観光地は今、どのような状況だろうか。9月20日~23日に開催された「ツーリズムEXPOジャパン2018」の出展ブースのうち、被災地域近くに主要観光地のある岡山県と北海道のブースを訪ね、観光の現状を聞いてみた。
岡山県、北海道の各主要観光地では災害後ほどなく、以前と変わらない観光ができている。そして、旅行会社など観光事業者との商談は災害以前と同様に通常通り行われ、次の誘客に向けた観光ビジネスが始まっている。
岡山県:観光客数は9割くらいまで回復
岡山県は、平成30年7月豪雨で災害救助法の適用を受けた11府県のなかでも、特に甚大な被害の様子がテレビ・新聞で多く報道された地域。しかし、岡山県観光連盟・誘客促進グループ課長の畝岡治氏によると、県内の主要観光地はほとんどの場所で影響がなく、「見れない、行けない場所はない」と断言する。
観光に支障があったのは、雲海の城として人気の備中松山城と県を代表する温泉地・美作三湯の一つ、湯原温泉の川沿いの天然露天温泉「砂湯」、鍾乳洞の井倉洞くらい。備中松山城は2つある登城道の一方の道路の一部損壊によるもので、城自体には全く被害はなく、7月18日には観光受入を再開。湯原温泉の砂湯は川の増水によって数日中止となったものの、その後すぐに通常通りの入浴が可能となった。井倉洞も浸水の影響が出たが、1週間ほどで再開している。
交通網も、一部の小さい市道では不通の個所はあるが、国道などは問題がない。電車もバスも復旧しているという。
気になるのは、県一番の観光地・倉敷美観地区のある倉敷市の状況。美観地区も豪雨による被害はなく、災害後も通常観光が可能だった。7月21日に重要文化財の町屋家屋「大橋家住宅」の土塀の一部が崩落したが、内部の鑑賞は通常通り可能だ。
しかし、倉敷市観光課観光主幹の藤原賢典氏によると、災害発生から10日間(7月7日~7月16日)の主要観光施設の入場者数は前年対比48.6%、バス駐車場の利用状況は53%と半減。ただし、1か月後(7月7日~8月6日)には入場者数が70.7%、バス駐車場利用が74.3%となり、直近(7月7日~9月上旬)には8~9割の間くらいまで回復した。
「災害後は一般のお客様からは、『観光ができるのか』との問い合わせが多かった。もちろん、今もそういうお問い合わせをいただくが、徐々に観光地への行き方など、観光に行く前提の具体的な質問が増えている」(藤原氏)。
旅行会社などの観光事業者からは「現地の受入が問題ないことは確認いただいており、次の送客に関する商談が始まっている。災害の以前と変わらない」(倉敷観光コンベンションビューロー 観光推進事業課・コンベンション誘致推進課 主事 平松純氏)という。
ただし、岡山県観光連盟の畝岡氏によると、岡山や倉敷の各市内ホテルはボランティア特需などがあるが、美作三湯などの県北の方は宿泊客が減少。観光客の県北への交通手段として大きな役割を担っていたレンタカーの供給が追い付いていないという。公共交通機関の少ない地方部への送客には、旅行会社のパッケージツアーが期待されるところだ。
北海道:修学旅行の視察旅行が予定通り実施
北海道胆振東部地震が発生したのは、9月6日午前3時頃。地震発生からまだ2週間ほどだが、ツーリズムEXPOジャパン2018には北海道胆振総合振興局も参加し、観光情報を提供した。
観光振興係長の石村晃子氏によると、大きな被害があった厚真町と安平町、むかわ町の東部3町では現在、生活避難をしている方々がおり、温泉施設などは避難所として使われている。それ以外の観光地域は通常通りの観光が可能だが、「胆振地方の主要観光地である西側の洞爺湖や登別でも、宿泊キャンセルが発生している」と話す。
登別国際観光コンベンション協会 専務理事の大野薫氏によると、地震発生時に全戸停電となり、域内の14の旅館・ホテルのうち2軒が自家発電で営業。停電は7日夜に解消し、9日には通常通りの営業となった。同じ胆振地方だが、東部地域と登別は約80キロ離れており、登別の最大震度は4程度だったという。
ただし、宿泊キャンセルは最初の4日間で1万2000件、9月全体で約5万件で、8~9割がキャンセルに。その理由は交通機関の影響だった。新千歳国際空港が一時閉鎖したのをはじめ、停電の影響でバスもストップ。レンタカーやマイカー以外の物理的な移動手段がなくなったことが多い。また、近年は4割を占めるようになった訪日外国人客も、韓国人のツアー客などが影響を受けた。
現在はキャンセルは落ち着き始め、少しずつ予約が上向いており、「修学旅行の延期などが戻ってくれば」と期待する。
石村氏によると9月15日と16日に予定していた首都圏の中学・高校向けの修学旅行FAMツアーは、予定通り実施された。参加者は胆振地方西部を中心に、壮瞥町のロープウェーや、室蘭で鉄のアクセサリー作りなどを体験。先々の修学旅行を見据えて行なう視察ではあるが、参加した教職員も現状で現地が問題なく観光できることを確認したという。
北海道は全土がふっこう割の対象に
政府は9月21日、胆振東部地震の風評被害対策のふっこう割を、北海道全土を対象とすることを決めた。地震による観光被害が、熊本地震を上回る94万人泊117億円という規模を受けてのもの。その要因は、地震後に発生した全土停電が大きいようだ。
震源地域から直線距離で140キロ超離れた観光都市・函館市では、地震による被害は五稜郭の石垣のわずか一部程度だが、宿泊キャンセルは発生。北海道渡島総合振興局 食・観光・海外戦略推進室 観光推進係長の齋藤方嗣氏によると、市内と大沼地域の主要宿泊施設では、施設によって異なるものの9月分でおよそ6~9割ほどのキャンセルとなった。
停電時に、北海道新幹線をはじめとする交通網が運休した影響もあるが、齋藤氏は「全土停電の終了後の『2割節電』等の呼びかけも誤解を生んだ」と話す。節電の協力を要請するもので、日常生活や観光に全く影響はないが、「『行っても大丈夫か、危なくないか』などの問い合わせもある」という。ちなみに現在は、「無理のない範囲での節電」への協力要請に変更となっている。
もう一つ、観光客数減少の大きな要因が、観光シーズンに合わせて開催予定だった人気イベントの中止。9月8日、9日の「函館グルメサーカス」は中止せざるを得ない状況だったが、昨年、2日間で23万9000人が訪れた大型イベントだ。
実は函館や札幌、胆振地方も、9月が観光のベストシーズン。地域は違えど、「キャンセルの割合の分母が大きい」(斎藤氏)、「ピーク期にキャンセルになるのが痛い」(石村氏)と、口をそろえる。登別商工会議所経営支援課・課長の田中将大氏は、「9月の登別は気候がさわやかで、世界一、気持ちのいい場所だと思う。農産物も海産物も旬が多くて美味しい。この時期にここに来ないのはもったいない」と、アピールする。
インタビューでは、「『風評被害』という言葉は好きではない。同じ仲間が苦しんでいるときに、そんな言い方はできない」というような、被災地を思いやる言葉も聞こえてきた。だから、北海道ではキャンペーンで「#まってるよ」と呼びかける。今の時期だからこそ楽しめる観光の魅力を用意し、訪れた観光客を震災前と同じように迎え入れている。
地震後の市内観光地の様子を伝える動画(函館市制作)
記事:山田紀子