グーグルが先ごろ、旅行者向けのプランニングツールやホテル検索サービスなどで新たな機能を公開した。コンシューマー向けでは、例えばホテルと航空券の予約完了メールから、自動的にグーグル検索の結果もカスタマイズされる機能が登場。また、モバイルのみで利用できる「旅行ガイド」機能も拡充。グーグル・フライトの「運賃トレンド情報」では、クリスマスやホリデーシーズンの情報も追加されるという。
一方、広告機能の充実も積極的におこなわれている。今回はそのうちのひとつ、「グーグルが目指しているホテル検索サービスの究極の在り方とは?」という疑問に答えるような、新しい機能について解説する。そこには、グーグルが進もうとする方向性が見え隠れしている。
新機能の追加でグーグルが狙うものとは?
グーグルが提供するホテル広告プログラム「グーグル・ホテル・アド(Google Hotel Ads)」には、ホテル各社の直販サイトを含む、様々な流通経路の販売サイトが載っているが、ここで表示できるホテル情報を拡充。宿泊料金だけでなく、様々なタイプの客室の写真が表示できるようになった。
グーグル・ホテル・アドに新しく加わった機能「客室予約モジュール(Room Booking Module=RBM)」を利用すると、客室画像も掲載できる。
グーグルの狙いは明らかだ。
ホテル・アドの機能を向上し、OTA並みに充実した情報を提供することで、ホテルを検索するユーザーがグーグルを素通りしてしまうことがないように、との考えから、また新しいプロダクトを投入したという訳だ。
新機能では、ユーザーがホテルを選ぶ意思決定プロセスの場として、さらに充実した客室情報や選択オプションを提供。客室を比べたり選んだりするとき、「画像」は最も重要な要素の一つで、特にクオリティーの高いプロダクト、そして当然ながら価格も高い商品を訴求する場合、その影響力はいっそう重要になる。
グーグルは、自ら価格比較サイトになるつもりはない。引き続き、検索サービスの入り口として君臨し、消費行動の意思決定に関与し、必要であれば予約まで完結できる場となるのが狙いで、2017年には「Book on Google(BoG)」を稼働した。ただしBoGは今のところ米国と英国のみでの展開にとどまっている。
「客室予約モジュール(RBM)」の予約リンク先はBoGに限定
既存のグーグル・ホテル・アドの広告キャンペーン(同社ではスタンダードと呼ぶ)では、予約画面に進みたいユーザーのリダイレクト先として、ホテルの自社サイトを選ぶことができるし、BoGでの予約完結を選んでもよい。決定権は、あくまでホテル側にある。
ところがRBMを活用する広告キャンペーンでは、すべてのユーザーがBoGへリダイレクトされる仕組みだ。ホテル側が、自社サイトにユーザーを誘導するという選択肢はない。BoG経由での予約取扱いをもっと増やしたい、というグーグル側の戦略が読み取れる。
RBMでの検索結果はどのように表示されるのか?
今のところ、デスクトップパソコンでホテル名を入力し、通常のグーグル検索を行っても、RBMの検索結果は表示されない。ところがモバイル端末での検索では、すでに表示されるようになっており、これは非常に注目すべきポイントだ。「概要と宿泊料金(Overview and Prices)」のタブを開くと、RBMの客室画像が画面に表示される。
一方、デスクトップ利用の場合は、グーグルマップで「ホテル」と「都市名」(例えば「ホテル バルセロナ」等)を入力して検索すると、RBMの画像が出てくる。さらに宿泊可能日や何人部屋か、などを選択するオプション各種も表示される。RBMのコンテンツ事例と、我々の分析メモは以下のようになる。
RBMは目下、米国内だけでの展開となっており、米国ユーザーがグーグル検索する場合のみ、表示される。将来的には他の市場にも拡大する計画だ。
スタンダードとRBMで出稿企業が異なるのはなぜ? 検索結果の表示順が異なる理由は?
ホテル・アドに出稿しているOTAが、揃ってRBMも利用しているわけではない。例えばブッキング・ドットコムは、その気配すらなく、少々驚いた(ただしアゴダは掲載あり)。エクスペディアや同系列のホテルズ・ドットコム、トラベロシティ、ヴェーネレ(Venere)はRBMでも頻繁に目にする。
理由として考えられることは2つ。
- RBMでホテル販売サイトとして表示されるためには、BoGにアクセスできるよう、追加で仕様設定を行う必要がある。すべてのOTAが設定済ではない。
- BoGでの予約義務付けを嫌うOTAもあるだろう。顧客ホテルとの関係性は、近いほど良いと考えているからだ。直販志向のホテル側から見たBoG利用にはメリットとデメリットがあり、同じことがOTAにも当てはまる。
また、検索結果の表示順もスタンダードとRBMでは異なる。理由は以下の2つ。
- 全く別の流通チャネルなので、そもそも表示仕様を揃えていない。スタンダードでは、検索結果は上から下へと並ぶが、RBMでは左から右という順番になっている。
- 順位付けの基準はスタンダードもRBMも同一。しかし、RBMでは広告枠入札でビッド・マルチプライヤー機能を受け付けているので、通常のキャンペーンより積極的に広告ポジション獲得に動くことも可能だ。
RBMにかかる費用は? 通常キャンペーンとは異なる入札は可能か?
RBMでも、グーグル・ホテル・アドと同じ入札、費用、コミッション方式が採用されている。
- クリック課金型(CPC)契約を結んでいるホテルの場合:全く同じ手法がRBMでも適用される。またRBMには、ビッド・マルチプライヤー機能があるので、広告の効果を見極めながら、入札数を増やしたり、減らしたりすることが可能で効率的だ。
- コミッション契約しているホテルの場合:グーグル・ホテル・アドのコミッション・プログラム(GHACP=予約キャンセル分などを差し引いた金額が対象)、または新しいCPAモデル(問い合わせなど、何らかのアクション誘導分もコミッション対象とし、キャンセル分も含む)の両方とも、同じ条件がRBMにも適用可能。
RBMのメリットとデメリットは?
RBM支持派の声:
- 客室の画像を表示できること。サイズや情報量が豊富なのでユーザーに内容が伝わりやすく、広告効果は格段にアップする。
- 成約率が高くなる。ユーザーが「もっと詳細な客室画像を見たい」と思うのは、当該ホテルへの興味が大きいからで、当然、予約の可能性も高い。RBMの方が、スタンダードより成約率は高くなるのではないか。
- まだ競争が激しくないので、ユーザーの目に触れる確率が高い。前述の通り、RBMに参画しているOTAは今のところ限られている。現状が続く限りにおいて、これはチャンスでもある。広告出稿者が少ないほど、コストは低く抑えられるし、露出は多くなる。
- 追加のマネジメント費用が必要なく、特に必要な手続きもなし。これまで使っていたホテル・アドと同じ入札、費用、コミッション方式が適用されるほか、マルチプライヤー機能も使えるようになる。
- より高額な客室が売りやすくなる。すべての客室タイプの画像と料金を分かりやすく表示できるため、ユーザーにグレードの高い客室の魅力が伝えやすく、高額商品をアピールできる。
RBMに懐疑的な声:
- 予約支援サービスに対する警戒感。ホテル側には、予約プロセスに関与しようとするサービス全般に対して、その真意を疑問視するところも。トリップアドバイザーのインスタント・ブッキング、トリバゴのエクスプレス・ブッキング、そしてグーグルのBoGなどだ。もちろん理由がある。ホテルにとって、RBMでの予約はすべてBoGに集約されるという仕組み自体が不利に働くからだ。
- 知名度の低さ。今のところ、どのサイトやデバイスを見ても、存在感が薄い。
RBMの効果測定はどのように行うのか? 測定基準へのインパクトは?
RBMを起動すると、一つの直販ルートにつき、ホテル・アド(スタンダード)とRBM、二種類の広告を展開できる。
ありがたいことに、グーグルでは、ホテル・アドのダッシュボード画面に新しいフィルターを追加し、スタンダードとRBMのキャンペーン展開を別々に把握できる仕様に刷新した。そのため、広告効果の結果は別々に把握できるし、両方を合計した結果測定も簡単に確認可能だ。
インプレッション数:ユーザーが特定のホテルを見つけて、既存のホテル・アドと新しく追加したRBMの両方を閲覧した場合、インプレッション数は「1回」ではなく「2回」とカウントされる。
クリック数:各モジュールごとに、クリック数がカウントされる。例えばユーザーが両方をクリックした場合、クリック数は「2」となる。グーグルによると、RBMはあくまで情報を補足する役割(言い換えると、スタンダード・キャンペーンを凌駕するものではない)という位置付けなので、ユーザーはおそらく両方の広告表示をクリックしないだろうとの見方を示している。
CTR(クリック率)とコンバージョン:広告の表示回数と、それを実際にクリックした数は、前述のフィルター機能により、別々に集計される。そのため、CTR、コンバージョン数、コンバージョン率も別々に計算できる。こうした情報はすべてホテル・アドのダッシュボードで確認できる。
RBMを起動する場合、ホテル側がやるべきことは?
RBMはBoGにリンクしているので、グーグル・ホテル・アドに対応しており、BoGが利用できるパートナー業者が必要になる。
今のところ、この技術に対応できるパートナーは限られているが、当社(ミライ社)はその一つで、2017年11月から対応可能になっている。またグーグルから、BoGパートナー業者がすべて掲載されたリストを入手することもできる。
RBMはBoGにリンクしているが、ホテル・アド・キャンペーンも同時に展開している場合、アクセスしてきたユーザーをBoGではなく、自社ウェブサイトへ誘導することもできる。
つまり、RBMを併用したら自動的に予約窓口がBoGへと変わるわけではなく、これまで通りのホテル・アド・キャンペーンの流れも維持できるわけだ。
結論
今回、登場した新しいモジュールを使いこなせば、メタサーチやOTAと同レベルの詳細なホテル情報が、グーグル・ホテル・アドでも提供できるようになる。
さらに最近では、検索フィルターに、「同室宿泊が可能な人数(occupancy)」が新しく加わり、検索結果が表示されたページから移動することなく、客室の画像も見ることができる。
グーグルでは、検索オプションに磨きをかけ続けることで、あらゆる旅行サーチにおいて絶対不可欠な存在であり続けようとしている。旅行者が何かを探したいときに、まず向かう場であり、情報収集をはじめ、旅程を決め、ホテル、航空券、パッケージ商品、現地での体験を予約するところまで、すべてが対象だ。
RBMは、ホテル客室画像のビジュアル効果で、潜在的な顧客の関心を惹きつけるうまい手法で、これと同じレベルの情報提供がまだ実現できていないOTAもある。
潜在的メリットの方が、デメリットよりもずっと大きいと考えている。
※編集部注:この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事について、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。
※オリジナル記事:Google plunges deeper into hotel search: It's all about rooms
著者:ディエゴ・ヴァレーラ(Diego Varela)ミライ社オンライン・マーケティング担当