中国オンライン旅行大手「シートリップ」CEOが語る、中国人旅行市場の最前線と女性リーダー育成 ーマッキンゼー・レポートより

消費意欲が旺盛な中国人旅行者に、今や世界中が注目している。このマーケット事情に誰よりも詳しい旅行会社といえば、もちろん「シートリップ」だ。

中国は今や世界最大のアウトバウンド旅行マーケットとなり、中国人旅行者はますます好奇心旺盛に地球のあちこちへ出かけ、旅行一回当たりの支出額でも世界最大となっている。人々の所得が増え、さらなる冒険をと消費意欲も盛り上がっている。2017年実績では、国内旅行は40億回以上、海外旅行は1億回以上。マッキンゼーの予測では、今後数年間にわたってこうした数字はまだ伸び続けるとしている。

シートリップがナスダックに上場したのは2003年。現在の時価総額は200億ドル(約2兆2000億円)超に達し、テクノロジー関連分野に積極的に投資することで、旅行分野でトップの座を走り続けている。航空券、宿泊、高速鉄道チケット、それにウエディング関連サービスまで、多岐に渡る分野で旅行者需要を把握しながらマッチングしていく上で、テクノロジー活用は欠かせない。投資先には海外プレイヤーも多い。これまでに英国のスカイスキャナーを取得したほか、インドのメイク・マイ・トリップ(MakeMyTrip)や北米拠点の旅行会社、ツアーズ4ファン(Tours4fun)の少数株主でもある。

※この記事は、米国拠点の大手コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーのサイトに掲載された英文記事を、シートリップおよびマッキンゼー社の許諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

中国国内では、他社との競争が激しくなっている。ライバル各社は巨額を投入し、Eコマースから金融、エンターテイメントまで、幅広い業種にまたがるエコシステムを構築。そこから吸い上げたデータを最大限に活かすことで、顧客ターゲティングの精度アップに取り組んでいる。シートリップの牙城を守るという使命を背負う最高経営責任者(CEO)、ジェーン・スン氏は、世界的にも数少ない女性のテクノロジー企業トップでもある。同氏は2005年以来、シートリップで要職を務めてきた。

過去14年間、スン氏はシートリップを率いる経営チームの一員として、同社を単なるホテルのオンライン予約会社から、中国最大のオンライン旅行プラットフォームへと進化させてきた。今や登録ユーザー数は3億人を突破し、60以上の分野に渡るプロダクトを提供している。

<ジェーン・スン氏略歴>

上海生まれ。既婚、子供2人。
フロリダ大学卒、北京大学修士課程(専攻は法律)修了。アプライド・マテリアルズ社で米証券取引委員会など社外向けレポート業務を担当した後、シートリップ入社。
2016年同CEO就任、同社の海外における買収戦略を指揮している。

このスン氏に、マッキンゼーのシニアパートナー、ダニエル・ジプスター氏がこのほどインタビューした。シートリップのプラットフォームにおける取扱いプロダクトをさらに拡大する考えは? パーソナル化が進む旅行サービスの分野で、テクノロジーをどう活かすのか? さらに話は、次世代の女性リーダー育成にも及んだ。以下に、インタビューでの一問一答を紹介する。

中国人旅行者の最新トレンド、旅先決定の決め手は?

ダニエル・ジプスター氏(以下DZ):スンCEOは、中国最大のOTA「シートリップ」に入り、12年経った2016年からCEOを務めていらっしゃる。ここ10年ほどの中国ツーリズムの変遷についてお話を伺うのに、これ以上は望めない最高な方にお会いできました。

ジェーン・スン氏(以下JS):中国の旅行産業は今、成長の真っただ中にあります。旅行業は年率で約10%ずつ伸びているので、中国のGDP成長率(約6%)の2倍を少々下回るくらいのペースと言えます。これに対し、シートリップの成長ペースはGDPの4倍ほど。将来が非常に楽しみな状況です。

DZ:中国発のアウトバウンド旅行、そして国内旅行の最新トレンドについて教えてください。中国の旅行者はどんなことに関心があるのでしょうか?

JS:当社はもともと、国内旅行でスタートしましたが、人々の所得水準が上昇するのに伴い、海外旅行に行くお客様が増えていったのです。最初は韓国や日本へ。それから東南アジア諸国、さらに欧州、オーストラリア、ニュージーランドなど、世界各地へと行き先は拡がっていきました。(中国人消費者の)アドベンチャー・スピリットや世界から学ぼうという姿勢は、儒教の教えにもある通りで、「1万冊の本を読むより、1万マイルを旅するほうがためになる」という考え方です。

DZ:中国人旅行者が海外旅行先を選ぶとき、何が決め手になるのでしょう?

JS:中国は広大な国で、人口も13億人ですから、人によって興味関心は様々です。私の夫の例をご紹介すると、彼は歴史マニアなので、昨年の夏は子供たちを連れてローマを訪れました。まずローマ帝国について学び、それから中世の街並みが残るサンジュリアーノを訪れ、子供たちに宗教改革やマルティン・ルターについて話しました。ミケランジェロの彫刻やレオナルド・ダ・ヴィンチを鑑賞し、ルネッサンス文化に触れる機会も作りました。子供たちにとって、歴史を学ぶには、旅が何より役に立ちます。形あるものを見るからです。来年は、できればアダム・スミスが「国富論」を書いたスコットランド啓蒙主義ゆかりの地へ行ってみたいです。このように世界史に触れることは、中国人が海外旅行に期待する要素のひとつでしょう。

スポーツも、海外旅行の動機の一つです。私の家族は、夏ならダイビング、冬はスキーが大好き。最近では、北極圏でオーロラを見る旅も人気があります。南極大陸に行く人も増えています。中国人旅行者は、世界を自分の目で見るアドベンチャーに魅力を感じています。

DZ:将来的には、同じ旅行でも、海外旅行より国内旅行が増えると思いますか?

JS:中国では、春節(旧正月)、10月1日から1週間続く「ゴールデンウイーク」(国慶節)、それから学校のお休みと、年に3回の大型連休があります。その際は多くの人々が遠くまで出かけますが、それ以外の3連休の週末などは自宅から近いところで過ごすことが多いです。日数などの制約にも左右されるので、旅行先が海外と国内のどちらかに大きく傾くことはないと思います。

シートリップのグローバル投資戦略

DZ:スンCEOのリーダーシップのもと、シートリップはグローバル化を進めてきましたが、中国の旅行者にとってのメリットはどこにあるでしょうか?

JS:当社の投資戦略は、非常に厳しく制限されており、3つの原則があります。まず、旅行に関連したビジネスであること。第2にその分野のトップ企業であること。第3に、価格がリーズナブルであること、です。

例えば英国のスカイスキャナーを買収しましたが、同社にはすばらしいテクノロジーがあり、ブランドもすばらしい。同サイトに、直接予約機能を統合する際は、同社のチームと緊密に連携しながら進めました。その次に、インドのメイクマイトリップの少数株を取得しました。3社目は米国に拠点を置く中国系の旅行会社でした。いずれも、戦略的な狙いは異なるケースですが、非常にうまくいっています。

DZ:中国の旅行者は、ますます経験豊かになり、特に中流から富裕層の消費者は、何かを体験すること、パーソナライゼーションへの関心が高いと感じます。こうした需要に対し、シートリップや中国の旅行業界はどのような取り組みを行っているのですか?

JS:シートリップの主要顧客は、中国の富裕層です。1人20万ドルの高額パッケージ商品を販売したこともありますが、なんと17秒で完売しました。パッケージツアーといっても、超高級嗜好の顧客向けのものもあることが、お分かりいただけると思います。

増加傾向にあるのは、テイラーメイドのツアーへの需要です。例えば、子供2人、祖父母2人を含む家族旅行で、ドライバーとツアーガイドが同行するツアーが人気です。ホテルはどんなカテゴリーでも自由に選べて、出発日、帰着日も選択できます。旅行中の過ごし方は、現地のツアー会社が、おすすめの場所や各都市での滞在日数などについて、アドバイスします。このタイプのパッケージツアーは、ここ数年、3桁増のペースで拡大しており、伸び率が鈍化する気配もまだない。非常に成功しているビジネスモデルの一例です。

DZ:中国といえば、世界で最もデジタル化が進んでいる国でもあります。O2O、オンラインからオフラインへとつなぐビジネスが様々な業種で始まっていますが、旅行の分野ではいかがですか?

JS:シートリップは、オープンプラットフォームを目指していますので、旅行やアドベンチャー関連事業なら、誰でも連携できます。一定のサービス水準を満たしていることが条件にはなりますが、観光アトラクションの入場券を扱っている現地のツアーオペレーターが、当社のプラットフォーム上でチケットや商品を販売することも可能です。例えば、ナパバレーでワインを販売している会社が、当社を利用するユーザー向けにワインを売る、といった具合です。オープンで、取扱い商品が幅広いプラットフォームなので、これまで中国人旅行者向けのビジネスは範囲が限られていたという商品担当者の方も活用できます。

動画:シートリップのグローバル投資戦略(約2分、英語)

シートリップの「ABCD」とは?

DZ:シートリップには、ABCDがありますね。すなわちAI(人工知能)、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、データマイニング、それぞれの頭文字です。旅行業において、豊富なデータをどのように生かすべきか、それは中国の消費者に何をもたらすのか、意見をお聞かせください。

JS:当社では、まさに今おっしゃったABCD関連のテクノロジーに多額の投資を行っています。登録ユーザー数は3億人にのぼり、一日当たり50テラバイトのデータを扱っていますから、膨大なデータをもとに顧客をもっと深く理解し、顧客が求めているものを提案できるのです。

例えば、出張に出かける人が上海/ロンドン路線のファーストクラス航空券を予約したら、その方には、バジェット料金の宿ではなく、5つ星クラスのホテルを提案します。もしフォーシーズンズを選ばれたら、我々は空港からホテルまでの距離を割り出し、リムジンサービスを勧める、といった具合です。お客様がチェックインした後も、こうした提案は続きます。「お近くにミシュランガイド掲載のレストランがあります。テーブルを確保してありますがいかがいたしますか?」「ショッピングツアーを手配しましょうか?」「大英博物館でのプライベートツアーの予約も可能です」。

顧客をよく理解できるようになり、自社プラットフォーム上に、十分な選択肢が揃っているなら、ビッグデータやデータマイニング技術を活用し、完璧な提案ができます。その結果、顧客満足度、業務の効率性、コンバージョン率など、すべてが向上します。当社では、このようにして、顧客それぞれにぴったりのプロダクト提案を徹底しています。

DZ:これから先、シートリップはどのような方向へと発展していくのでしょうか。3~5年後、中国人旅行者にどのようなサービスを提供したいとお考えですか?

JS:いくつか考えていることがありますが、まずはプロダクト範囲の拡充をおこないたいと考えています。シートリップは、ホテルだけを扱う業態からスタートしましたが、2年経って航空券の取扱いを開始し、さらに2年後にパッケージツアーが加わりました。その後、法人旅行にも手を広げ、現在では60以上の分野のプロダクトを展開しています。ダイビング、スキー、クルーズ、高速鉄道のチケット、写真撮影、結婚式のプランニングなど、旅行に必要なものは何でも揃いますが、これからも旅行者の興味関心は拡がり続けるし、趣味も変わっていくでしょう。当然、我々が取り扱う内容も、増やしていきます。これが最優先事項です。

次に、顧客をよりよく理解することで、希望通りの旅行先、あるいは価格帯、サービスレベルを探すお手伝いをおこなうこと。これもとても重要です。

3つ目は、旅行中に安心して過ごしていただけること。当社のグローバルSOSプログラムでは、日本での津波やネパールでの地震、ラスベガスでの乱射事件といった緊急時にも、数分以内にお客様と連絡できます。数時間後には、提携ホテルがお客様のために緊急避難所を用意。一両日中にお客様の救援に向かい、ご自宅までの帰路を手配します。有事に必要なサービスを備えておくことが、お客様の安心につながります。

DZ:ツーリズムは、世界中の人々の絆を深める産業でもあります。社会におけるツーリズムの役割については、どのようにお考えですか?

JS:私は、ツーリズムというのは、国際交流を活発にする手段だと考えています。シートリップの立場で言うなら、人々を遠い異国へとお連れすることで、世界をもっと身近にする役割を果たしているのです。我々は、東洋と西洋の文化の懸け橋だと自負しています。ツーリズムの力で、世界平和と世界の交流を促進することが究極の目標です。

DZ:シートリップの将来像を教えてください。

JS:世界最大の、そして世界で最もイノベーティブな旅行会社になることです。テクノロジーへの迅速な投資を続け、成長のペースをさらに加速していく。イノベーションの手を緩めないことも必要です。当社を利用してくれる旅行者のために、今後も最先端のプロダクトを届けたいと考えています。

女性リーダー育成への試行錯誤

DZ:中国系テクノロジー企業の女性CEOという立場でいらっしゃいますが、どのように感じていますか?

JS:テクノロジー企業のCEOが女性というのは、なかなか珍しいケースだと思います。だからこそ、次世代のリーダー育成については、非常に大きな責任を感じています。女性のリーダーシップスキルを高める取り組みでは、当社はかなり進んでいる方です。例えば、妊娠中の社員には、タクシーの無料利用制度がありますし、赤ちゃんが生まれたら、お祝い金として800ドル、さらに子供の教育支援金として3000ドルを贈呈します。

それから海外の大学院で博士課程まで修了した女性の場合、この先、仕事よりもまず出産を優先するべきか、それとも仕事が先かと悩むことがあります。いくら考えても答えが分からない問題ですから、当社では、解決策の一案として、卵子を凍結する費用を負担しています。こうした問題に対し、ここまで進歩的な考え方をしている企業は、シートリップぐらいでしょう。自分には必要ないと思えば、その制度を利用する必要はないし、気に入れば活用できる。選択肢があって、自分で選べることが大切だと思います。当社の女性社員たちは、こうした制度を歓迎しています。

社員の半分以上は女性です。中間管理職では40%が女性、幹部クラスでは3分の1以上が女性になります。驚くべき数字ではないでしょうか。私は、当社を引っ張っている女性リーダーたちをとても誇りに思っています。

※この記事は、米国拠点の大手コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーのサイトに掲載された英文記事を、シートリップおよびマッキンゼー社の許諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:How China’s largest online travel agency connects the world: An interview with Ctrip CEO Jane Sun(2019年2月)

インタビュー: マッキンゼー深セン支社 シニアパートナー ダニエル・ジプサー(Daniel Zipser)

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