世界の旅行業界の国際会議「フォーカスライト・カンファレンス」が今年はオンラインで開幕し、旅行系スタートアップがそれぞれのサービスやソリューションを競う「フォーカスライト・イノベーション」が開催された。ピッチは、スタートアップが競う「Summit」と既存企業が新しいサービスを発表する「Launch」に別れ、Summitには事前審査で選ばれた25社から10社が最終ピッチに臨み、Launchには4社が参加した。
2019年スタートアップの資金調達額は過去最高に
フォーカスライトによると、旅行市場のデジタル化を目指したスタートアップの誕生は目覚ましく、2010年以降およそ2500社が立ち上げられ、その資金調達額は合計256億ドル(2兆6624億円)にのぼった。2019年の資金調達額は前年比36%増の約73億ドル(7592億円)で過去最高を記録。2020年については、第1四半期で約8億ドル(832億円)となり、その勢いは継続していたものの、第2四半期以降はパンデミックにより先行きは不透明な状況だという。
フォーカスライトのSummitは2008年から行われており、昨年までで514社が参加。そのうち、350社が資金調達に成功しており、その総額は42億ドル(4368億円)にのぼる。また、88社が高値で売却されている。
今回最終選考に残ったスタートアップには、コロナ禍のなか、空港、航空、ホテルマネージメントなどでの非接触ソリューションの開発企業が多く、ポストコロナを見据えたサステナブルツーリズムでの課題解決を目指す企業も登場した。
最優秀賞は顔認証サービス「Trueface」、マスク着用確認や検温を非接触で
Summitで、最優秀スタートアップ(Most Innovative Startup of the Year Award)に選ばれたのは、コンピュータービジョンを開発する「Trueface」。既存のカメラを用いた顔認証技術で、ホスピタリティ産業向けにVIPの把握サービスを提供していたが、その技術を新型コロナウイルス対策に活かし、空港などでのマスク着用、検温、監視などを非接触で行うサービスを始めた。
同社CEOのショーン・ムーアー氏は、プレゼンテーションのなかで、「既存のCCTVモニターを使用することで、人力によるパトロールからデジタルによる監視が可能になるため、コストをかけずに、空港でのセキュリティを向上させることが可能。旅行者の非接触旅行にも貢献することができる」とアピールした。
また、同社製品の強みとして、追跡と認証技術だけでなく、空間分析とビデオ分析を挙げ、人の流れ、混雑具合、列の監視、滞留時間などのマッピングや分析も可能だと紹介。マネタイズは、設置カメラごとの年間ライセンス契約だという。このサービスは、審査員による最優秀賞だけでなく、視聴者によるPeople’s Choice Awardにも選ばれ、ダブル受賞となった。
一方、Launch部門でPeople’s Choice Awardに選ばれたの「Cloudbeds」。ホスピタリティ・マネージメント・プラットフォームを開発する企業で、PMS、チャネルマネージャー、ブッキングエンジン、収益管理、決済、他社のアプリなどをクラウド上で統合するソリューションを提供している。
同社は2012年に設立され、従業員は40カ国で400人以上。すでに155カ国以上で2万軒を超えるホテルやバケーションレンタルで採用されている。
このほか、Summitの最終選考に残ったスタートアップ企業とサービスは以下の通り。
Volara (アメリカ)
宿泊施設向けに音声アシスタントソリューションを提供。宿泊者や会員顧客との非接触エンゲージメントを高めている。
Air Doctor (イスラエル)
旅行者と旅先の医療機関とを結ぶデジタルプラットフォーム。現地言語に対応し、診断書や処方箋の発行もサポートする。
BeRightback (イギリス)
ヨーロッパでサブスクリプション型の旅行を提供。旅行者の趣向に合わせて、パーソナライズされた旅行を提案している。
CheKin (スペイン)
予約からチェックアウトまですべてのプロセスをデジタル化するSaaS型B2Bサービスを提供。宿泊施設に到着する前に支払い、鍵の受け渡しも含めて、すべての手続きをオンラインで完結する。
KYTE (イギリス)
最新のAPI接続Kyte Direct Connectによって、NDCとLCC双方のコンテンツを統合するソリューションを提供。
SMOOSS (フランス)
旅行中に移動手段の変更を余儀なくされた旅行者に再予約のサービスを提供。航空会社には、再予約だけでなくアップセールの機会も提供する。
Tripkicks (アメリカ)
企業、TMC、リスク管理会社などに出張向けブッキングツールを提供。出張中の適切な出費や行動などの実用的な分析によって、出張者の安全と快適な旅行をサポートする。
Vouch (シンガポール)
宿泊施設向けのデジタルコンシェルジュ・ソリューションを開発。非接触サービスとして、予約だけでなく、ルームサービス、ハウスキーピングなどサービス依頼をアプリで行う。
Wayaj (アメリカ)
ホテル滞在中の二酸化炭素排出をオフセットできるサービスを開発。宿泊者は、事前に排出量を計算し、オフセット・プロジェクトを購入することで、購入分と宿泊費を相殺できる仕組み。