チャットGPTは旅行予約をどう変えるか? 動き出した世界のOTA、商機から限界まで、未来の活用術を考えた【外電】

話題のテクノロジーに対する過度な期待は落ち着きつつ、その真価が理解されるまで、しばらくは混乱も続くだろう。その間に、生成系人工知能(ジェネレーティブAI)の時代における旅行事業者の役割をよく考え、未来に備えるべきだ。まだ何もしていないなら、すでに時代から取り残されている――。

※注:ジェネレーティブAIとは、音楽や画像、動画、文章、プログラムのコードなど、これまでになかったさまざまなコンテンツを生成できる、クリエイティブなAI技術のこと。2022年11月、同技術を使ってユーザーの質問に回答する対話型サービス「チャットGPT」が注目を浴びた。

先日、テック関連の記事の見出しを埋め尽くしたのはマイクロソフトだった。同社の検索エンジンBingが、ジェネレーティブAIチャットボットと呼ばれる「ChatGPT(チャットGPT)」と連携してリニューアルすることが明らかになったからだ。

このニュースに先だち、チャットGPTを手掛けるスタートアップ、オープンAIに対し、マイクロソフトが数十億ドルを投資することも発表された。

Bingが新しいAIを活用し、グーグルも同様の計画を進めていくとなると、OTAや旅行ブランド各社も、これにどう対抗し、どのようにジェネレーティブAIを活かすべきか検討する必要がある。

ジェネレーティブAIを搭載した未来を見据えて、新機能の導入まではいかなくても、すでに動き始めたOTAも複数ある。

ここ数週間の大騒ぎには誇張もあるが、現時点で想定できるジェネレーティブAIの活用方法を挙げるなら、旅行者自身もまだ欲しいものが分からない段階で、旅のプランニングを手伝うことだろう。一方、専門家によると、ジェネレーティブAIが管理する予約テクノロジーが登場すれば、これまでのように複数のウェブページに記入する手間がなくなり、会話を始めるだけで、すべての手続きが進むようになるとの予測もある。

「トリップアドバイザーを見るより、ずっと説得力があるし、実際、そうなるだろう」と話すのは、ツアーオペレーターとして長い経験があり、最近は、実利あるテクノロジー改革を指導しているマーク・メッキ氏。来月、ベルリンで開催される旅行産業のイベント「Arival(アライバル)」で、同氏はジェネレーティブAIについて講演予定だ。

動き出した旅行各社

新たなチャンスを活かすのは、素早く対応できて、変化を恐れない企業だと指摘するのは、米OTAホッパー(Hopper)のデータサイエンス最高責任者、パトリック・スリー氏だ。ホッパーは、価格凍結など旅行フィンテックの先駆者だが、この件についてのインタビュー取材は不可。代わりに同氏がメールで回答し、「ジェネレーティブAIは、同社のあらゆる部分に影響を及ぼすかもしれない」との見方を示した。

スリー氏は「顧客との関わり方を、潜在的に変え得ると考えている」ほか、「面白い活用方法がいくつかあるので検討してみたい。例えば、チャットを使い、よくある質問への返信や自動対応を改善したり(最終的には音声とビデオへ)、おすすめの旅行先をレコメンドしたり、パーソナライズした旅程などを組むコンシェルジュ的な機能なども考えられる」という。

「我々の働き方にも、大きく影響するだろう。特にプロダクト開発。この新ツールを使いこなせるようになれば、プロダクト提供のスピードや質の向上につながり、業務効率や生産性がアップする。ソフトウェア開発のアシスタント役としても期待できるし、他にも色々な試行錯誤を考えている。例えば、もっとアピール力のある職務記述とか」。

「ただし、今はまだ初期段階。まずは原理原則に立ち返って、これまでのやり方について、その理由や方法論を再考する必要がある」とも指摘した。

地上交通とフライトを扱うオンライン旅行会社、オミオ(Omio)は、ジェネレーティブAI導入に取り組み始めた。同社はベルリンを拠点に、37カ国で事業を展開している。CEO(最高経営責任者)のナレン・シャーム氏は「まだ詳細を話す段階ではない」と断りつつ、「将来的には、旅行会社の商品作りを完全に変えてしまうだろう」と予測する。「私は、旅行業にメガ・シフトをもたらすと思っており、真剣に今後について検討している」。

エクスペディア・グループもインタビュー取材には応じなかったが、最高テクノロジー責任者のラティ・マーシー氏からのコメントによると、ジェネレーティブAIがもたらす最大の商機は、旅行プランニングのパーソナライゼーションとチャットボットだ。

「AIは、大量のデータセットを読み込ませる必要があるが、当社はすでに70ペタバイト超の旅行データを保有している。予約パターンや旅行者の行動様式などに関するデータをプラットフォーム上で活用している」とマーシー氏。「こうしたデータを使えば、ジェネレーティブAIでパーソナライゼーションをさらに強化し、旅行の検索に役立てられると想像している。今のところ、旅程作りでの活用手法が話題になっているようだが」。

法人旅行を手掛けるナヴァン(Navan、旧称TripActions)は先週、自社のチャットボット「Ava」にチャットGPTを統合し、トラベルマネジャーの予約業務を対話形式でサポート。さらに様々な機能拡充を目指す方針だ。同社では、コードを書いたり、テストして修正する時にも、このAIを使っているという。

ナヴァンの最高技術責任者、アイラン・トウィグ氏は、ツイッターに新しいチャットボットのデモを投稿し、「Ava(自動バーチャル・アシスタント)が業務渡航の予約やマネジメントを変えていく」とのコメントを付けた。チャットボットのベータ版は、同社顧客の20%がすでに利用できるようになっており、数か月後にはフル稼働となる予定だ。

旅行における限界

自社サイトにジェネレーティブAIを組み込めば、過去数年間に渡り収集してきた膨大なデータが、これまで以上に役立つと各社では期待している。オミオはその一つだが、地図アプリのトリップノーツ(Tripnotes)も同じだ。トリップノーツのトラベル・マッピング機能では、創業者が過去に手掛けたスタートアップ時代の資源を有効活用している。トリップノーツで旅行予約が完結できるようにすることが狙いだ。

しかしメッキ氏は、こうした保有データが、本当に充分な競争力につながるのかを疑問視する。なぜなら、旅行関連データの多くは、本当の意味で独占的とは言えないからだ。例えば製薬会社なら、一般公開されていない情報を活かし、ジェネレーティブAIを使って最も効果的な薬剤に適した分子を見つけて利益につなげられるかもしれない。

「私見になるが、旅行業界の問題点は、ものすごくニッチな分野など、特別に精通している何かがある場合を除き、ライバルとの圧倒的な差別化が難しいことだ」とメッキ氏は話す。「旅行業の場合、同じようなソースデータを入手したり、構築することがそれほど困難ではない。自社だけの特別な情報で、社外秘として厳重に保管しているものなどあるのか。例えばデスティネーション情報は、誰でも入手しようと思えば手に入る」。

もう一つの懸念材料は、旅行者がチャットボット機能を使って計画を立てたり、予約したりするようになり、検索ページの掲載リストを見なくなることだ。消費者から見つけてもらうためにどうしたらよいのか、中小のツアーオペレーターや独立系ホテルにとっての課題になるとメッキ氏は見ている。

「これが、真っ先に頭を悩ませる問題になると思う」と同氏。

「検索エンジンに最適化しても、利用者の目に留まらなくなったら、どうしたらよいのか? OTAにますます依存することになる。つまり勝者は、失うものがないOTA各社で、こうした状況に拍車がかかることを危惧している」。

一方、エクスペディアのマーシー氏は、旅行産業はそもそも旧来のテクノロジーに頼りがちだと指摘し、最近、米連邦航空局(FAA)のシステム老朽化が引き起こしたサウスウエスト航空便の混乱を例に挙げた。

「ジェネレーティブAIに投資する前に、まず自社プラットフォームのテクノロジー基盤を総点検した方がよい」とマーシー氏。

さらに、AIが真価を発揮できる環境を整えるには、時間もリソースもかかる。だが果たしてどこまで活用可能なのか、現時点ではまだ分からないことも付け加えた。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Inside Generative AI’s Promise for Travel Booking

著者:Justin Dawes氏

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…