日本旅行業協会(JATA)は現在、宿泊施設などの観光事業者が基本情報や営業情報を登録し、旅行会社が各情報を検索・取得できる「旅行業共通プラットフォーム」の構築を進めている。先ごろ開催したJATA経営フォーラム2023の分科会で、その概要と現状の情報共有の課題が提示された。
同プラットフォームを構築する目的は2つ。1つは、災害発生時に旅行各社が宿泊施設や宿泊客など現地の状況確認を迅速、かつ正確にできる環境を整備すること。もう1つは、観光産業に関わる事業者の生産性向上と、旅行者や宿泊者への情報提供力の向上に資する環境を整備することだ。
災害発生時に、旅行会社が被災地域の宿泊施設の状況を迅速かつ正確に把握できるようにすることは、宿泊施設の負担を軽減することにもなる。災害時、宿泊施設は予約客からの問い合わせや近隣住民からの新規予約の発生など、通常時と異なる膨大な業務に追われている。そこに、旅行各社、各支店から電話での状況確認が入ると、その業務に支障が起きることもある。
また、通常時の基本情報の更新・確認の作業でも、宿泊施設や旅行会社の契約先はOTAを含めて多岐にわたり、その連絡先の多さから作業量は膨大になる。加えて、随時発生する施設のメンテナンス等の臨時情報もあり、旅行会社は手元の情報の正確性に確信が持てず、都度、電話をかけて確認作業をすることも少なくない。
自社で情報システムの開発に取り組む旅行会社も存在したが、コロナ禍で開発に回せる資金と人的リソースが減少。JATAが中心となって共有システムの共創に舵を切った。プラットフォームを旅行会社が共同で構築し、利用することで、各社の業務改善や生産性向上はもちろん、観光産業の価値創造にもつなげる考えだ。また、政府が目指すデジタル社会の実現に向けた「デジタル原則」に基づき、観光業のDX化を推進する基礎としての役割も期待する。
JATA広報によると、まずは2023年7月に観光地災害情報の共有システムとしての「レジリエンス機能」の稼働を目指す。同年10月には、各施設の最新の公式情報を検索・参照できる「観光関連施設情報データベース機能」を稼働する予定で準備を進めているという。
プラットフォームを活用するために
プラットフォームでは旅行会社と宿泊施設、観光事業者の参画を募り、事業者自らが施設情報を随時登録・更新する。災害時には観光庁の指示のもと、JATAが対象地域の宿泊施設に被害情報を登録するように促す。プラットフォームには、各種情報のチェックや保守、メンテナンスなどの管理・運用を担当する専任の事務局を設ける予定だ。
JATA経営フォーラム2023分科会では、出演者が同プラットフォームに対し、業務負荷の軽減や効率化、生産性向上、迅速で正確な情報取得という点で、大きな期待を示した。
そのうえで、パネリストからは「災害時はJATA会員だけではなく、一般消費者も施設の情報を確認できると、宿泊施設の負担が軽減され、旅行者の安心にもつながる」(下電ホテル代表取締役社長・永山久徳氏)、「旅行・観光に限らず、交通事業者の参画があれば、プラットフォームの機能そのものが発展すると思う」(農協観光事業統括部長・香川晋二氏)という提案があった。
また、「最新かつ信頼できる情報のプラットフォームとするには、多数の事業者が参画し、恒常的に活用することが大切」(日本旅行ツーリズム事業本部国内旅行事業部担当部長・廣谷良氏)と、機能を生かしていくための課題も話された。
モデレーターを務めた、JTB総合研究所コンサルティング事業部ツーリズム戦略部長の濱中茂氏は「正確な情報を取得することは、今の時代では大前提のこと。その情報を活用することに意識を向けるべき。そうすることで顧客との関係構築につながり、高付加価値化の一歩になる。顧客に貢献する時間創出を、観光業全体で見出す契機であると思う」と話し、分科会を締めくくった。