2023年9月10日~25日にかけて、サウジアラビアの首都リヤドで開催されたユネスコの第45回世界遺産委員会の結果について、NPO法人世界遺産アカデミーの宮澤光主任研究員がその6つポイントを解説している。今回の委員会は2022年にロシア・カザンで開催されることになっていたが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて延期されていた。
まず、1つ目のポイントは、新規登録で審議された遺産のほとんどが「登録」決議になったこと。2022年分と2023年分の遺産の審議を行ったが、審議した50件(登録範囲拡大の再推薦を含む)のうち47件が「登録」決議された。これについて、宮澤氏は「推薦段階でしっかりと保全計画を含む推薦書を整えてきているという側面も大きく、審議の中で各委員国の代表がポジティヴな発言をして登録を後押した」と分析している。
2つ目のポイントは、「記憶の場(サイト・オブ・メモリー)」という概念の下に登録された遺産があること。今回は、アルゼンチンの「ESMA 博物館と記憶の場:拘禁と拷問、虐殺のかつての機密拠点」、ベルギー/フランスの「第一次世界大戦(西部戦線)の慰霊と記憶の場」、ルワンダの「ルワンダ虐殺の記憶の場:ニャマタ、ムランビ、ギソジ、ビセセロ」が登録された。「記憶の場」は、平和と対話の文化を促進する教育的な場所でなければならないとされている。
3つ目が、ウクライナの2つの世界遺産が危機遺産リストに記載されたこと。ロシアによるウクライナ侵攻によって、「オデーサの歴史地区」にある大聖堂が空爆の被害を受け、世界遺産委員会でもこのことは深刻に受け止められ、「リヴィウ歴史地区」と「キーウ」が危機遺産リストに記載された。
4つ目が、危機遺産リスト入りが勧告されていた「ヴェネツィア」は危機遺産指定を回避したこと。オーバーツーリズムの懸念されるなか、今回は、観光客から入島料を徴収する計画や、大型フェリーの入港制限、可動堰のプロジェクトなどに一定の評価が与えられた。
5つ目が、2010年の世界遺産委員会で危機遺産リスト入りしていた「カスビのブガンダ王国の王墓」がリストを脱したこと。2010年3月に原因不明の火災により焼失したためリスト入りしていたが、再建と火災対策がなされたことが評価された。
6つ目は、ロシアが世界遺産ビューロー会議のメンバーとしては残り、世界遺産委員会に代表団が参加したこと。キーウとリヴィウが危機遺産リスト入りした決議文の中に、ウクライナの文化や自然を破壊する行為の停止が盛り込まれたが、そこに「ロシア」という言葉は含まれてないため、宮澤氏は「委員国であるロシアへの配慮はあったようだ」と付け加えた。
このほか、宮澤氏は、最近のパレスチナのガザ地区を巡る動きの中で、パレスチナの「古代エリコ/テル・エッ・スルタン」の登録がイスラエルとユネスコの関係を更に悪化させる可能性にも触れている。